第三章(3)
ピッピッ、と、すでに効果音のようになってしまった音を今日も聞く。
真っ白の肌、真っ白の髪。柔らかい銅色をした目は、今も閉じられている。
「パメラ……」
そっと、ジーフェは少女の――妹の頬をなでた。
今年で十九になるはずの彼女はろくな成長を遂げておらず、いいとこ十四、五にしか見えない。あまりにも細く小さな体だ。今もこの機械に繋がっていなければ命が危うい。
『可愛い子なんだね、パメラちゃんって』
『ああ、ちょっと生意気だけどな。後ろをチョコチョコついて来るんだ』
『うわぁ、俺一人っ子だったからさ。妹か……俺のこと、受け入れてくれるかな……』
『大丈夫だって、リフェはいい奴だし。俺とパメラとお前。父さんと母さんも入れて家族だ。三人が帰ってきたら、俺達は兄弟になるんだからな!』
思い出すのは、もう十年以上も前のこと。どうしてこんなに鮮明に覚えているのだろうか。どうして、今更思い出すのだろうか。
「父さんも、母さんも……お前もいないのにな……リフェ」
叶わなかった望み。守れなかったもの。自ら壊してしまったもの。感情の抑制など慣れたはずなのに、胸に重いものが生まれて、顔が歪んだ。
「……っ」
「パメラ?」
珍しく、彼女の瞼が動いた。調子がいいのかもしれない。
薄っすらと開いた目は焦点が定まらず、ジィーフェを認識すらしていなかった。これも、機械音と同じいつものことだ。
だが、今日は少し違った。パメラの目が、サイドテーブルに置かれた花瓶を見る。
「……は、……な……」
「ああ、花だ。綺麗だったから買ってきた」
淡いピンク色の、パメラが好きな色の小さな花。それを見て、彼女が少し微笑んだ気がした。そのまますぐに目を閉じてしまう。眠ったようだ。
「おやすみ」
布団をかけ直して、ジィーフェは妹の頭をなでた。少しずつでいい、長くかかってもかまわない。いつか、元気な姿で笑ってくれればそれだけでいい。
「俺が、守るから……今度こそ」
「銅、時間だ」
いつの間にか部屋にいた仲間の声に、ジィーフェは立ち上がる。置いてあったローブを纏い、何も言わずに部屋を出た。
これから自分は、また何かを奪うのだ。誰かの大切な者を奪うのだ。自分の何に代えても惜しくない、大切な者を守るために。
人気のなくなった部屋で、無機質な音だけが虚しく響いていた。




