prologue:ラグナ・キア
初め、少女はそこそこ裕福な商家の娘でありました。
美しい母と優秀な商人である父親を持ち、兄妹にも恵まれて、少女はすくすくと育っておりました。
少女は仕事に行く父親の後ろにくっついては商談を眺め、そのうち駆け引きも覚えました。少女は母がそうであるようにとても気丈で、また父の性格からか、堂々たる様でありましたので、取引先の商人からも認められ、将来を買われておりました。
しかしある時、商談からの帰り道で、少女と父親のいた集団は賊に襲われてしまいます。
父親の雇った護衛は二人を守ろうとしましたが、ちょっと気を緩めた隙に、少女が賊に攫われてしまいました。
父親は追おうとしましたが、仲間の商人がそれを引き留めます。
ああなれば少女はもう助からない、助かったとしてもひどい目にあっていずれは自ら命を絶つだろう……何より、今の自分たちには賊と争うだけの力がない、と、父親を説得しようとしました。
そこに護衛も加わってきました。
ご存じの通り、人買いが前々からこの辺りでは横行しています。お嬢様のことは残念だと思いますが、取り戻すことは不可能でございましょう。ならば、『買い戻す』という形が一番確実かと、と護衛は進言します。
父親は泣く泣く少女を追うことを諦め、後に商会から方々に手を尽くして少女の行方を探しましたが、しかし、少女は見つかる事はありませんでした。賊が少女を売る前に別の者から襲撃を受け、奴隷商人の所に辿り着けなかったからです。
彼こそが、実は少女の運命を大きく狂わせていくのですが……さて、これがまた癖のある者でありました。
そのため少女は、少女の父親はもちろん、本人ですら予想だにしない人生の分かれ路へ踏み入ることになっていきます。
その少女こと、ラグナ・キア。
一体、彼女は未来でどのような軌跡を描いたのでありましょうか。
うずうずしたので何かはじめてしまいました。