番外編ルートA. 親友爆誕の予感
数年後。
「ジョゼット、紅茶冷めるよ」
柔らかな声と共に、後ろから肩を抱き寄せられる。
「・・・アンディ、近い。」
「夫婦だからいいでしょ?」
にこにこと笑う銀髪の男に、ジョゼットは呆れ半分でため息を吐いた。
結婚して数年。
アンディは相変わらずジョゼットにべったりだった。
ただし今は“親友だから”ではなく、正式に愛し合う夫婦なので誰も文句は言わない。
もっとも。
たまにローディから「お前ら結婚してやっと合法になったな」と言われる。
今日もトワイス伯爵家の庭では穏やかな午後が流れていた。
ジョゼットはテラス席で紅茶を飲み、アンディは当然のように隣に座っている。
そして。
「父上ー!!母上ー!!」
元気いっぱいの声が庭中に響いた。
銀色の髪を揺らしながら走ってくる小さな男の子。
二人の息子、ルシアンである。
勢いよく駆け寄ってきたルシアンは、目をきらきらさせていた。
「どうしたの?」
アンディが息子を抱き上げる。
「親友ができた!!」
アンディが嬉しそうに笑う。
「良かったじゃん!」
「すっごくかわいいの!!」
「うんうん。」
ジョゼットはその時点で少し嫌な予感がしていた。
そして。
「ルシアンー!」
庭の向こうから、ふわふわの金髪を揺らしながら小さな少女が走ってくる。
大きな水色の瞳。
まるでお人形みたいな愛らしさ。
この国の第一王女――リリア姫だった。
「あっ、リリア!」
ルシアンがぱぁっと笑う。
リリア姫の登場に夫婦で一瞬固まったが、次の瞬間。
ジョゼットの頭の中に、幼少期の記憶が蘇った。
『ジョゼットー!』
『アンディ待ってー!』
嫌な予感しかしない。
「リリア、こっち!」
「うん!」
二人は自然な動きで手を繋いだ。
ジョゼットの顔が引き攣る。
そして隣を見ると。
「・・・・・。」
アンディも真顔になっていた。
「アンディ。」
「うん・・・。」
「これ、見覚えない?」
「ある・・・すごくある・・・。」
目の前ではルシアンとリリア姫が仲良く笑い合っていた。
距離が近い。
異常に近い。
しかも本人達に自覚がない感じまでそっくりだった。
「リリア大好き!」
「わたしもルシアン大好き!」
ジョゼットとアンディの表情が同時に真っ白になる。
「・・・終わったかもしれない。」
「いや、まだ親愛の意味かもしれないし・・・。」
アンディが震える声で言う。
ジョゼットはじっと夫を見た。
「あなたも昔そう言ってたわよね?」
「・・・はい。」
ぐうの音も出ない顔だった。
庭ではルシアンが花を摘み、リリア姫の髪へ乗せていた。
「リリアに似合うと思った!」
「ほんと!?うれしい!」
きゃっきゃっと笑い合う二人。
微笑ましいが、完全に既視感しかない。
我らが息子は誰に中身も見た目も似てしまったのか。
「ねぇアンディ。」
「なに?」
「今のうちに“好き”と“親友”の違いを教えた方が良くない?」
「・・・僕、その違い分かるまで十年以上かかったんだけど。」
「知ってるわよ。」
ジョゼットは呆れた。
アンディは昔からジョゼットしか見えていなかったくせに、“親友だから!”と言い張り続けた男である。
その結果、婚約騒動から失恋騒動まで起こした。
今思い返しても周囲は大迷惑だった。
しかも今回は。
「相手、お姫様なのよね・・・。」
ジョゼットは遠い目をする。
自分達は伯爵家同士だった。
だが今度はこの国のお姫様だ。
もしルシアンがアンディみたいに恋愛感情があるのに“親友だから!”とかずっと言い続けていたら・・・。
国を巻き込む事は間違いないだろう。
「ルシアンとリリア姫かぁ・・・どうなるんだろうね。」
「・・・アンディそっくりならリリア姫は苦労するわね。私の時みたいに。」
二人して深いため息を吐く。
だが。
「父上ー!母上見てー!」
嬉しそうに駆け寄ってくる子ども達を見ると、自然と笑ってしまう。
幸せだった。
遠回りして。
傷付いて。
泣いて。
それでも最後に、こうして笑えている。
だからきっと。
この子達もなんとかなる。
・・・・・たぶん。
「ルシアン。」
アンディが真顔で息子を呼ぶ。
「なぁに父上?」
「好きな子にはちゃんと“好き”って言うんだぞ。」
「?」
「“親友だから!”で誤魔化すと人生めちゃくちゃになるから。」
「アンディ?」
「はいごめんなさい。」
ジョゼットに睨まれ、アンディは素直に謝った。
その様子を見たルシアンとリリア姫が楽しそうに笑う。
青空の下。
トワイス家は今日も平和だった。
ルートA.番外編END




