第一章1 『星たちの邂逅』
――ハールレルからの旅立ちから二週間。
彼は眼前には未だ緑しか写っていなかった。彼が目指していた王都フランクリアは彼の故郷ハールレルから一週間ほどで着く場所であった。
しかし彼――ベガ・ウェスペルは未だ目的の地にはついていなかった。
「そろそろ、魔獣の肉も飽きてきたものだな」
彼は今日も野営を張っていた。昨日も今日も明日もこのままでは野営をすることになる。
そうつまり彼は迷っていたのだ。来る日も来る日も同じような景色を見ていたが、彼に道に迷っているという自覚も、そもそも彼の辞書に迷いという文字はなかったのだ。
――王の剣と古の刀匠の子に出会え、さすれば道は切り開かれるであろう
「……何度経験しても脳に直接語りかけてくるのは、気持ちいい物ではないな。」
突然、彼の星たちが彼に新たな預言を授ける。
「王の剣と刀匠の子か…、誰のことを言っておるのであろうか」
そんな彼の頭を悩ます預言のことを考えていると、目の前に自然の中には見ることができないような、鉄の壁が広がってきた。
「…….ここは、王都ではあるまい。この異様なまでに高い鉄の壁に囲まれているのは、『城塞都市ガーディエラ』であろう」
彼の目前に広がる都市――『城塞都市ガーディエラ』この都市は二百年前に起こった隣国との大戦の時に敵を迎え撃つ防衛戦線の中心の都市であり一度の敵の侵入も陥落も許したことがない鉄壁の都市であり、別名『不落』の城塞都市であった。
「先程の星の声は、そういうことであるか。我が考えておった順番とは違うが、我が欲しいものがこの都市にあるということであろう」
しかし、彼が気づいていない問題が一つ。現在この都市に入るにはこの都市に住んでいる以外の者には通行許可証がいるのである。
しかし、彼の手にそんな物があるはずもなかった。だが、彼は気にも止めない。世の中の条理や常識などそんな物は彼――ウェスペルにとっては矮小な戯言に過ぎない。
「こ、こまりますよぉ」
「我はここを通せと言っておるだけであろう。なぜ、遠さぬのだ」
「だからぁ、何回も言ってると思うんですけどぉ、今この街に入るには通行許可証がいるんですよぉ」
都市の門番にはやや不向きな男と、彼との攻防戦はどちらかが先に折れるまで続くような泥試合となっていた。だが、そんな泥試合に一つ横槍が入った。
「そこのお二人どうされたんですか?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――ウェスペルと門番との攻防戦の数刻前。城塞都市に向かう馬車が一車。
「『剣王』様、我々が何故ガーディエラに向かっているかわかっておられますか?」
「んーー、『不落』の都市を陥落させるためだっけ?」
「ふざけないでください。我々が今回ガーディエラに向かうのは、あくまでも視察という名のもとで行きますので下手な行動は謹んでください。今回のガーディエラでの一件は全容が掴めていないので要観察です」
「ふざけてるとは心外だな。僕は本気で言ったつもりだったんだけどなぁ。僕にかかればあんな都市すぐ落とせるっていうのは事実なんだし、しかも国王様も酷いよね、こんな物騒な所に僕を送り込むなんて」
「……本当に口が減らない方ですね」
美しい空色の髪をし、白いローブをきた少女は目の前にいる自分の主人がこの件に乗り気でないことをひしひしと感じながら、自分が主人の手綱を握らなければならないという使命感に駆られていた。
「そろそろ都市に着くと思いますが、….何やら外が騒がしいですね」
「お祭りでもやってるんじゃない。楽しみだなぁ」
完全に場違な発言である主人の発言に耳は貸さず、少女は馬車の小窓を開け、外の様子を確認した。何やら門番と金髪の男が何やら言い合っているようだ。
先に通して貰おうかと思いながら窓を閉めようとした時、少女の眼前に馬車を降りて颯爽と駆け抜けていく主人の姿が映っていた。
「もぉ!!まっった勝手な事して怒られるの私なんだから!!」
自分の主人が馬車からいなくなり彼の従者である少女――ラウス・ナタリーは年相応の言葉づかいに戻り主人である『剣王』への不満を爆発させていた。
だが少女の主人である『剣王』――ルイス・セリオスは任務も自らの肩書きの事も忘れて一人の小さな少年のように金髪の男――ベガ・ウェスペルの元に駆けていた。今はただ星に感謝を。そんな思いしか彼にはなかった。




