6 『激闘』
頼みたいことがあると告げられ俺が頼まれたこと、それが…
「ここだ。」
そう言われ、着いたのがここ。
一か月ほど俺が眠っていた病院……といえるような施設ではなかったが、そこから、かなり近いところだ。
というより、ベッドから見ていた景色の反対側、一枚の薄い壁の先に広がる薄暗い路地だった。
直ぐ後ろには、草むら、森林と広がっていた。
そこにいたのは、サルに近い形をした魔物だった。
ここに来る途中で見た魔物とずいぶん違うような…
「こいつは、村の食いモンを食い散らかしてはおちょくり倒して逃げていく胸糞悪い野郎だよ。」
五歩ほど後ろから医者が言う。
なるほど。もう顔から性格の悪さがにじみ出ている。
サルのほうだ。
「これを倒してほしいと?」
いや、と後ろから言いながらさらに後ろに下がる。
すると、暗闇からぬるっと大きな手が出てきた。その中指と、サルの尾がつながっていた。
その手がひょいとサルを上に吊り上げた。
「村のみんなも、サルが盗んでいたように見えてたが実際はこのでかいやつが本体ってわけだ。」
その奥の大きな手が本体で、サルは体の一部に過ぎないというのか。
確かに、こいつの腹をいっぱいにするためにはその辺の木の実なんかじゃ足りないだろう。
とりあえず俺は、住民たちの食材を抱えているサルの尾が伸びる指を切り落とした。
サルはその場にストンと倒れ、ゴロゴロと果物や肉が落ちた。
グワァァァァァァ!!!
耳を割るような呻き声が聞こえた。
同時に地響きが起こり、木がドサドサと倒れ始める。
村から少し離れた森の地中から、見上げるほどの巨体が出現した。
「なんだこの音!?」
「見て!アレ!」
村人たちが悲鳴を上げ、逃げ惑う。
もう村はめちゃくちゃだ。
人々が、体を押し合い、俺が私がと言わんばかりに、雪崩となって村を流れる。
フィオナ達は無事なのか?
「クソッ」
俺の考えが浅はかだった。
とにかく一刻も早く巨人の首を刎ねねば。
「おいあんた!大丈夫なんだろうな!」
そう言う医者の目前にも、大きな木が倒れてくる。
ヒェェ!!と情けないこえを上げながら、一目散に路地を抜けだしていく。
いや、情けないとかいってる場合じゃないだろう!
この状況は俺が招いたものだ。
とはいっても…
「この首、俺のまほうで、きれるのか…?」
俺自身、自分の魔法をよく理解していない。
試している暇なんてない。
その間にも、無関係の人たちが巻き込まれる!
今は試しながら戦うんだ!
巨人に向け、一発。
村を壊す、その腕めがけ放った斬撃だったが、10mほどで消えた。
それも、2~3mくらいから威力がだんだん弱まって消えた。
もう少し近づいて魔法を発動する必要があったが、俺の周りは倒れてきた木や瓦礫で塞がれている。
「しかたない!」
俺は医室の壁をよじ登り、屋根の端を掴み、なんとか屋根に上った。
そのまま、屋根を飛び移りながら、巨人に向けて斬撃を放つ。
だがまだ遠い。
そんなかすり傷、気にせずに村人を襲いに向かう。
俺も巨人の進行方向に合わせ、つたないながらも屋根を飛び移る。
そんな俺の目指す場所は……
「おぉ~、すごい高い。」
見上げて、ありきたりな感想を述べる。
医者の所へ向かう途中にあった、村の真ん中にある大きな物見やぐら。
そこに人はおらず、ここ最近は使われていないようで、物寂しい感じがした。
「ここで、みんなに危険を知らせるんだ。」
フィオナの甘い声を思い出したところで、物見やぐらに身を向ける巨人が目に入る。
まだそこには、警鐘を鳴らし、人々を避難させる見張りの人がいたが、好都合。
俺と巨人の目的地が合致した。
俺は、物見やぐらに向かう足を速める。
先に、物見やぐらについたのは俺だった。
この村で、初めて履いた靴だが、もう靴より手がボロボロだ。
そんなことより、もうすぐそこに巨人が来ていたのもあって、そこにいた見張りに避難を促した。
「もうおりていいよ。」
「いや、あんたは…」
汗だくの俺に、冷や汗だらだらの見張りは言いかけた。
「このでかいのは俺がうっかりおこらせちゃったから、せきにん取らなきゃなんだ!」
俺も少し冷や汗をかいて焦っていたが、とにかく逃げてもらわないと。
「いや、あんた誰だよ…」
俺はすごい勘違いをしてしまったようだが…
「今はそんなこといいんだよ!!」
赤面して新しい汗が出てきたが、分かったといって降りていく見張りをみて少し安心した。
「さてと…」
困ったようにして俺は目を細めた。
改めて見るとものすごく大きい。
物見やぐらに接近した巨人は身をかがめ俺と目を合わせた。
別にこいつは目を合わせているなんて思っちゃいないだろうが。
少し俺のにおいを嗅いで口角が上がった。
どうやら、俺は獲物として認識されたようだ。
巨人は物見やぐらを持ち上げ、自分の頭上から俺ごと落とす。
もちろん、その俺のいき先は、大きく開かれた巨人の口内である。
巨人の目は輝いている。人の肉を食うのは初めてみたいに。
確実な死が目の前に広がる。
が、俺の目もまた輝いている。諦めていない。
俺がなぜ物見やぐらを目指したのか。
こいつの急所にゼロ距離で魔法、斬撃を放つためだった。
来てみれば、高さはかなり足りなかったが重なるイレギュラーにより、今まさに巨人の顔めがけて落っこちている最中だ。
俺は空中で、何とか巨人の下唇に手をかけ、よじ登ると、顎をすべるようにして落ちた。
そうして、行きつく先は、
「いけぇぇぇぇ!!!!」
その叫び声とは反対に俺は意外と冷静だった。
多分、さっきみたいな斬撃じゃこいつの首は切れない。
ならばどうするか。
限界まで出力を上げろ!
この右手に!この掌に!
すべてを込めろ!
俺の中の気が、全部、右手に集まる感じがした。
俺は、集まった気を一気に押し出した。
スパ ン…
ドォォォォォォォン!!!!!!!
巨大な生首が、辺りに重低音を響かせる。
ああ、やったぞ。
こんなにでかいやつを俺は倒しt…
俺は意識を失おうとしていた。
当然だ。あんなに気を使い果たしたんだからな…
魔力というべきか?
またもや、変に冷静になっていた俺は巨人の喉仏あたりから落下していった。
死ぬなぁ。この高さは。
ガシッ!!!
ズサァァァ!!!!
俺は、薄れゆく意識の中で目を開いた。
「助かった…?」
評価を貰えると創作の励みになります!




