18
私, 29歳。
成人。
一点の恥もなく生きてきたと自負することはできないが、少なくとも犯罪は犯していないので、堂々と善良な市民と言えるくらいの立場だと思う。
しかし、今!
私は自分が働く作業室でドゲザをしている。
私のドゲザが向かった人物は他でもない修平。
やつは私とひよりの作品を監督し、マーケティングとセールスを担当する仕事をする友達だ。
注意する点といえば···
非常に厳しいということ。
「......。」
無言の重圧感が背中を押しつぶすような気分。
到底口を開く勇気が出ない。
頼むから何か言ってくれればいいのだが、やつは口を開く気がないようだ。
(くそっ!!こいつ...本当に人間なの!?せめて服の摩擦音くらいは聞こえるはずだろう!! 一般的な人間が5分間あの姿勢でじっとしていることができるの!?)
修平の視線を確かめるために、恐怖を抑えてゆっくりと顔を上げた。
「おい, お前!! 寝てたのか!!」
私の叫びに修平は目を開けた。
「何だ、居眠りしたのか。」
修平は何事もなかったかのように手首を回して時計を確認した。
「作業室に戻ってきてすぐに怖い顔をして座ったのは、ただ疲れていたからか!?」
「そりゃそうだろう。 昨日の夜、俺がどれだけミーティングの準備に苦労したか知ってるのかね......なのに......どうしてそんなに怒っているんだ?」
「.......」
「ふはははははは!!!」
このすべての状況を見守りながら、笑いをこらえていたひよりが後ろで私をあざ笑った。
「先輩!めっちゃウケル!!この写真は無条件に事務所に飾っておかなければなりませんね!はははははは!!!」
「ひ...よ...り!!!」
「キャー!私に八つ当たりしないでくださいね!? いきなりドゲザをしたのは先輩ですから!」
「ドゲザ?」
「あ、そうですね、先輩がね~」
「なんでもないよ!!」
「何があったかは分からないが··· まあ、どうせ私が居眠りしている最中に馬鹿なことをしたのだろう。 たとえば··· 私が寝ている最中に今日の会議の途中で居眠りしたことで必死に謝ったとか...。」
「うっ......。」
やつの目つきがまた鋭くなった。
私はこれからやつの小言が始まることを直感した。
そして、その予想は完全に的中した。
「まったく··· 正気か、ハルト。」
「......。」
「お前に対して尊敬の念を抱いている相手との会議で居眠りするなんて...俺がその後、お前の代わりにその人たちに謝るのにどれだけ頭が痛かったか...お前のやつなら分からないだろう。こんな方には頭が回らない奴だからな。」
とんでもないミスを犯した今の私は的だ。
そして修平奴は両手いっぱいにダーツを握っているプレイヤー。
やつのダーツは今、私の心臓に矢継ぎ早に命中している。
「お前が社交的で、いろんな作家と仲良くしておいてよかったな......そうでなかったら、もう悪い噂が流れていたはずだ。」
「あ!それって、今は悪い噂が流れていないってことか?」
私の言葉に、修平の表情に暗い影がかかった。
「ごめん。」
「とにかく今回の協業は重要だ。 お前の才能がちゃんと光る番だからね。 印紙路を引き上げる絶好のチャンスだと言える。 だから最善を尽くせ。」
ボイスドラマ。
それは声だけで話を伝える方式のコンテンツだ。
今回、私たちと協業するチームは、このボイスドラマを専門的に演技する声優グループで、最近、私たちの作品でボイスドラマを作ってみてもいいかという問い合わせをしたのはこちらだ。
修平はそれを悪く思わなかったのか、すぐにオファーを引き受けた。
私も修平の決断を前向きに捉えている。
なぜなら、私たちの作品がどんなに人気があっても、結局は陰地のコンテンツ。
アニメ化されればいいのだが、市場の特性上、どんなに有名な作家の超ヒット作であっても、裏作品がアニメ化されるまでにはかなりの時間がかかる。
したがって、ボイスドラマは裏作品に活気を与えるための最も効果的かつ迅速な方法なのである。
実際、こちらの需要も無視できないレベルなので、しっかりした作品が出れば、認知度アップに大いに役立つだろう。
「うん。魂まで燃やすよ。」
「当然そうすべきだ。」
修平は椅子から立ち上がり、机を片付け始めた。
それは退勤を宣言する前のこいつのルーティンだ。
今の時間は午後4時。
指定された退勤時間まで2時間以上残っている今、運が良ければ早く退勤できそうな気がした。
私とひよりのきらめく目が修平に向かった。
「まあ··· 今月のリワードのアップロードは終わったし、来月の作品の構想は来週までに終わらせればいいし、決まった退勤時間まで残った時間は2時間にもならない今、お前たちが有意義な成果物を出すことはできないだろう··· 今日はここまでだ。」
「よし!!」
「修平さん、急にどうしたの!?」
「おまえら··· 会議が終わってここに戻ってからは仕事をする気のない目つきだったから···。」
修平はため息をつきながらカバンを持った。
「明日は来月のリワードの構想を10個以上持ってこい。」
「先輩!!今日は久しぶりにモンスタースレイヤーどうですか!?」
「いいね~!とりあえずピザでも食べようか?」
「先輩がおごるんですか?」
「ふっ、ふざけんなよ。」
「チッ。」
「お前ら...。」
「何だ、まだ行ってないの?」
「なに、まだ行ってないの?」
「修平さんはこういうゲームしないじゃないですか! 早く行ってください!」
その瞬間、修平の額に血の気が引いたのが見えた。
何か悪いことが起こることを直感したひよりは、急いでカバンを持って出口に走った。
しかし、その試みは、ひよりの行動を予測した修平によって簡単に阻止された。
「退勤宣言は撤回だ。 今日は··· いや、今日も定時退社だ」
「「あ。」」
私とひよりの口から同時に飛び出した後悔の言葉。
状況を打開するために頭をひねるたが、打開策など思いつかなかった。
「いやーーーー!!! やらない! やらない! やらないって!! どいてよ!!」
目の前で自由を奪われたひよりが惨めに腕を振り回し、修平を殴り始めたが、修平はひよりの額を腕で押し出すことで簡単に防いだ。
「先輩!!!先輩も何か言ってくれよ...!」
「ダメだよ、ひより...私たち、甘やかしすぎたよ...."
「いやだ··· いやだ!!!」
*
溶けたチーズの香ばしい匂いに満ちた作業室。
本来なら作業物が置かれているはずの机の上には、ピザが2枚置かれている。
そして巨大なモニターの前に座ってモンスタースレイヤーをプレイしている3人。
単純に親しい人同士が集まってゲームを楽しんでいる自然な光景と思われるかもしれないが、この絵をぎこちなくさせる主犯は修平だ。
すでに仕事に集中できない雰囲気になっていることを知っていた修平は、定時に退社する代わりに1つの提案をした 。
それは、私たちと一緒にゲームを楽しむこと。
名目はチームメンバー同士の絆づくりだった。
「意外ですね、修平さん。私たちとゲームをするなんて···。」
「私たちはチームだ。 私一人だけ空回りするのもよくないから。」
定石的な優等生の人生を生きてきた修平の人生にとって、ゲームとはトランプカードを使ったゲームぐらいだ。
絵や文章に何の才能もない修平の能力は、市場構造を見抜く洞察力。
つまり、完全にビジネス側の人間だ。
ただひたすら文章を書き続け、何の収入も得られず、自尊心だけが削られていく地獄のような日々から、私とひよりを解放してくれたのが修平だ。
たぶん、やつがいなかったら、私たちがこのように収益を上げることさえ不可能だっただろう。
だから私たちは、仕事に関してはやつの言うことに従順に従う。
「ところで、修平さん...?」
ひよりは画面を一時停止させた。
「どうして上手なんですか?」
ひよりの疑問は私も持っている疑問だ。
「適切なヒール。 絶妙なスターン··· しかも完璧なマップリーディング!!! 初心者というには話にならないでしょう!!」
ひよりの叫びには、理解できない感情というより、悔しさの方が大きいようだ。
しかし、彼女の感情が理解できないわけではない。
このゲームは難易度が高いことで有名だ。
初心者の運など許さない悪質な設計に、ダンジョンで長時間生き残るのが難しいシステムでユーザーを苦しめる。
時間が経って複数のシリーズが発売されたにもかかわらず、この部分を修正するつもりは全くなく、これは今作でも同じだ。
したがって、私たちのように多くのシリーズを重ねて相当なプレータイムを積んだのでなければ、修平が私たちのペースについてくるはずがない。
「ただ、説明に書いてある通りにやっただけだが...。」
「それは私たちも同じなんですよ!?」
「修平··· 私たちの後ろでこっそりこのゲームをしたんだよね!?」
「あきれた。」
修平は首を横に振った。
「難しいと大騒ぎしたので少し緊張したが··· 思ったより粗末だね。」
「...!!その言葉··· 取り消せ!」
「あっ、ひより!! そのセリフは!? お腹に穴があいてしまうかも!?」
「ふっ、じゃあ賭けを提案しよう。」
「賭け?」
「もし次のダンジョンで俺が最後まで生き残れなかったら、今言ったことを取り消すのはもちろん、来月はリワード外の仕事は一切受けないことにするよ。」
「へぇ~」
「だが、俺よりお前が先に死ぬならば、今まで先送りしてきたCG形式の作業を来月から消化することだ。」
ゲーマーとしてのプライドを揺さぶる修平の提案。
賭けに負けるわけがないと確信したひよりの口元には邪悪な笑みが浮かんだ。
「クククク··· ニュービーのくせに生意気なことを言うのは···! その提案!!! 受け···。」
「待て!」
「邪魔しないでください、先輩!!これは私たち同士の勝負ですから!!」
「お前の作業量が増えれば俺の作業量も増えるんだぜ!?」
私たちは一つのチーム。
片方の作業量が増えれば、自然ともう片方の作業量も増える仕組みだ。
作品に必要な構図、ストーリー、そして文章はすべて私が構想する。
だから、ひよりの仕事量が増えるなら、私も同じように苦労しなければならない。
「何よりこの賭けはトラップだよ!!"
「トラップ?」
「この賭け...勝とうが負けようが、私たちにいいことないじゃん!! 勝てばお金も稼げないし、負けたら作業量が増えるんだから!!!」
「え!? そんなことだったんですか!?」
「チッ」
「修平!!舌打ちがここまで聞こえてきますが!?」
「でも...リワードだけで稼いだお金で生活すればいいんじゃないですか? それがそんなに大変なんですか?」
「当たり前だろ!!!リワードだけ売って生活できるわけないだろ!!!」
「え、私は関係ないですよ!? どうせお昼は先輩が買ってくれるんだから!!!」
「何だって!?きさま!!!」
「知らない!知らない!知らない!ゲーマーのプライドを傷つける修平さんの表情が腐るのを見たいんですよ!!!」
この光景を不思議な何かを見物するように見つめる修平の表情。
それは動物園のサルたちが戦う光景を見守る表情だった。
「修平...!」
「いくら馬鹿な奴とはいえ、やはりアメリカのトップ1%の大学に入ったやつは簡単に騙しにくいな。」
「ふっ、たぶんそうだろう」
「先輩...そんな甘い言葉に弱いんですね....」
「うっ....」
「ふん!まあ··· 修平さんの提案はハルト先輩の言う通りトラップでしたから...断るようにしなければなりませんね!」
「俺の記憶の中では、お前は敗北者のままで残るだろうけどね。」
「!!!」
修平に襲いかかるひよりを空中でひったくった。
「放してください、先輩!!今日は決着をつけるぞ!!!」
私の胸に抱かれたままあわてるひより。
何か怒った猫を捕まえている気分だ。
「ふっ、遅いな。 現実からでも。」
修平は余裕のポーズでコーラの入った紙コップを持ち上げ、挑発するようにひよりを見つめながら虚空に乾杯した。
「おい、挑発はやめてくれ!あっ!」
その時、懐からひよりを逃がしてしまった。
そして、私は次の瞬間に起こることを止めることができなかった。
「現実でもそんなに遅いんだから、ゲームでも遅い...。」
修平の言葉を遮ったのは...
顔に投げられたピザ一切れだった。
落ちるピザを捕まえる修平の表情が分からなかった。
あいつの眼鏡が油で汚れていて、目が見えなかったから。
しかし、修平がどんな顔をしているのか知りたくない。
怖いから···。
ところが問題は、今この瞬間がとても面白いということ。
恐ろしさと面白さ。
私の脳はこの二つの感情を天秤にかける必要もなかった。
なぜなら、すでに私は溢れ出る笑いを我慢できない状態だからだ。
「プハハハハ!!!」
修平は少し前の状況を受け入れることができず、機能が停止したロボットのように硬直したまま席にじっとしていた。
「修平さんもそんなに早いものではないようですが!? ハハハハ!!!」
その時。
再び飛んできたピザが笑っているひよりの顔に的中した。
「ふふっ、やっぱり隙だらけだな。」
「え? 修平、お前...。」
こんないたずらとは程遠い修平の突発的な行動が俺の脳を麻痺させた。
「その程度の反応速度だから、モンスターの攻撃を避けられないのだろう......さっきダンジョンで無駄に動きが多かったのは、自分の下手な反応速度を補うための危険だったのか。」
ひよりが修平の連続した挑発に耐えられるはずがないと思った私は、すぐにひよりに目を向けた。
予想通り、ひよりはすでに両手にピザを握ったまま攻撃準備を終えた状態。
私は素早くひよりの両手首をつかんだ。
「やめろ、ひより!! 作業室が油でめちゃくちゃになるよ!」
「関係ないですよ!!修平さんの偉そうな顔を台無しにすることさえできれば...!」
「関係あるんですけど!?これは私たちが片付けないと...!」
「それは···! それはその時になってから考えますよ!!!」
「今すぐ考えてくれ!!」
作業室の雰囲気はまさに大混乱。
到底今の私の能力では、この二人を落ち着かせるアイデアが浮かばない。
誰かが仲裁してくれることを祈っていたその時、修平の携帯電話が鳴った。
発信者を確認した修平は、電話に出るために外に出た。
仕事の電話かもしれないので、ひよりも邪魔することはできないと思ったのか、両腕から力が抜けた。
「よかった···。」
怒りが解けていないのか、唇が突き出たひよりの表情には依然として意地悪が充満している。
「認められません!」
「何を?」
「修平さんです!!!きっと後ろで私たちこっそりゲームしてるんでしょうね。 さっきのあれは初心者の実力じゃないですからね!!」
「そうだね...。」
「もし...。もし今日が本当に初めてだったら。」
「初めてなら…?」
「それは才能の領域ですから!! それは絶対に許せない!!!」
ひよりは、修平の眼鏡が置かれているところに歩いて行った。
「え!? ひより!? 何をするつもり!?」
「落ち着いてください。 磨いておこうということだから。」
「え?」
「何をそんな目で見ているんですか? 私が汚したから拭いておくのは当然です。 それに···。」
「それに?」
「こうでもしなければ、あの鬼が何をするかわかりませんから!」
「鬼なら...私のことか?」
会話が終わったのか、また作業室に入ってくる修平。
ひよりにとっては最悪のタイミングだが、見ている側としてはこれほど楽しいことはない。
修平が近づくと、おびえたひよりは目を閉じた。
「感謝する。」
修平はひよりの手に握られた眼鏡を手に取り、
自分のポケットから布を取り出し、眼鏡を拭き始めた。
「メガネはそんなティッシュで拭いてはいけないんだけど...まあ、油がずっとついているよりはいいかな。」
何か仕上がる雰囲気。
誰なのか分からないが、電話をしてくれた人に感謝の言葉を伝えたいほどだ。
「誰の電話だったの?」
「今回一緒に協業することにしたボイスドラマチームだ。 一つ許可をもらいたいことがあるそうだ。」
「許可だって?」
「チームメンバーの知人に作家志望生がいるが…··· 一度見学に来てもいいかと聞いた。」
「え··· まあ、別に構わないけど······ ひより?」
「私も構いません。 産業スパイでさえなければ···。」
「メッセージを送信する前に最後のチャンスを与える。 本当に大丈夫なんだろう?」
「うん。」
「はい。」
「わかった。それなら、大丈夫だと伝えるようにしよう。」
私は知らなかった。
その選択がどれほど巨大な騒動を引き起こすかを...
その時、私は向こうの見学の申し出を断るべきだった。




