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199.秘密だらけの3人(4)

ノヴァ様はやや俯き気味に過去の出来事を眼裏(まなうら)に浮かべるかのように一度目を閉じ、そしてゆっくりと開けた。


「800年程前の月の宴の時のことだ。外遊に出ていた創造神オルベリアンが100年ぶりに戻ってきたため、俺は珍しく宴に出席した。だがこの機を待っていたのか、ダリオが強行に出た。あろうことかダリオは俺が最も大切にしている姉上を標的にし、姉上と捕らえ危害を加えたのだ」


私は口元を抑えた。ダリオがどんな神かはわからないけど、あの慈愛に満ちた超絶美人のルナ様に危害を加えるなんて、想像しただけでショックを受けた。


「俺を狙えば良いのにわざわざ俺の大切な存在を標的にし俺を苦しめることにしたのだ。激昂した俺はダリオを闇の力で葬った。天界では神力を使ってはならないという掟を破って」


「だから追放? 情状酌量の余地があるだろう」


「いや、俺が使った力に問題があるのだ。俺の闇の神力の真髄――『(アルク)』という、闇の中に対象を閉じ込め永遠に外に出られないまま一筋の光の入らない闇の中で朽ちていく……神をも殺す力を使用したのだ」


「……わお」


ノヴァ様が宴やパーティーにトラウマを抱えていた理由がこれでわかった。


「恐ろしくなったか?」


そう言ってノヴァ様は私を見た。瞳には不安の色が滲んでいたので、私はノヴァ様の目をしっかり見てきっぱりと言った。


「全然恐ろしくないです。だって私には魔法創造スキルがあるので残虐な殺し方をする魔法が使えるんですよ。例えば、ブラックフェンリルに使った火属性超級魔法の『迦具土神(カグツチ)』なんか、灼熱の炎の刃で対象を8当分にして焼き殺す魔法ですよ。オーバーキルで消し炭になりました。どうですか? 恐ろしいでしょう?」


「えげつない魔法の説明をにっこりしながらするな。つか超級魔法なんて初めて聞いたぞ」


「ふふん、まだありますよ。月属性超級魔法の『月読(ツクヨミ)』は対象の時間を2分間止めることができるので、その間に首を落とすと対象はどうして死んだかわからないまま死にます」


「ヤバすぎだろ」


ハルトさんは呆れ、ノヴァ様はぽかんとした顔をした後、柔らかく目を細め笑って言った。


「ふ、それは恐ろしいな」


「でしょう? 他にもありますよ」


私は四大属性それぞれの超級魔法の技の恐ろしさをつらつらと説明した。ノヴァ様は笑っていたけど、ハルトさんはげんなりして聞いていた。


「はぁ。それで? 闇の力が原因で追放されたのはわかったが、それと俺の魔力とどう関係があるんだ?」


ノヴァ様は顔を真顔に戻し、長い脚を組み替えた。


「『朔』を行使する前、姉上を含む神たちを離れた場所に避難させようと俺の神力で転移させようとした時だ。天空の神ロカスは俺が『朔』を神たちに使うと思ったらしく俺を攻撃したのだ」


ノヴァ様は眉を寄せ、疑心を抱えた表情をする。


「先程、天界での神力の使用は禁止されていると話したな。その理由が、神が天界で神力を行使すれば、その影響が人間界にも及ぶためだ」


「え……じゃあ『朔』と天空の神が使った力が人間界に及んだってことですか?」


「人間界でもその日月祭を行っていたのだが、俺が『朔』を使った時は満月が漆黒の闇に包まれ、あちこちに闇の塊が出現していたそうだ。それに呑まれたら最後、二度と外に出ることは叶わない」


私はコクリと唾を飲んだ。


「ロカスの使った神力もそうだ。あれは空間を操る。人間界のいたるところに空間の歪ができ、それに触れると異界を渡ってしまうのだ。俺が人間界に追放された時の降り立ったラヴァナの森には実際にロカスの空間の歪ができていた」


そう言ってノヴァ様はハルトさんを見据えた。ハルトさんは硬い表情をしている。


「ハルトはこの国に転移してきた。もしや元いた場所で触れたのではないか? 白く黄金の粒が舞う歪に」


ハルトさんは唇を噛んでいた。思い出しているのか、苦い顔をしている。


「……森でキャンプをしていた時だ。薪を拾っている最中に白い靄のようなものが木と木の間で浮かんでいたんだ……ふ、金の粒がとても綺麗で思わず触ってしまったよ。気がついたら見覚えのない場所で当時はかなり焦ったぜ」


ノヴァ様は険しい表情でハルトさんを見ている。その深紅の瞳にはやるせなさのようなものが滲んでいるように見えた。


「……ロカスの神力に触れ異界を渡ったことで、ハルトの魔力にはロカスの神力が少し宿ってしまった。おそらく今までもいたのだろう。異なる世界からこの国に転移してきた者たちが。その者たちはロカスの神力を少し宿しているため国の発展の礎になった者もいれば、中にはそれを発揮できずに一生を終える者もいただろう」


それを聞いてピンとくるものがあった。


――あ、闘技大会のトーナメント表……! 昔騎士団に所属していた者が考案したってお父様が言っていたわね。あとはルナヴィアの料理がイタリアンやフレンチに似ていることも、この国の識字率が異様に高いことももしかしたらロカスの神力を宿した転移者によるものである可能性があるってことか。


「ハルトは別格だ。スキルが助けになっているとは思うが、空間魔法を構築できた者は今までにいなかった」


ハルトさんが「それはどうも」と言って肩をすくめた。


「では私が金色に変えた魔石をハルトさんが白く変えられたのは、ハルトさんの魔力に天空の神の神力が宿っていたからなんですね」


「ほう、そんなことがあったのか」


「ええ、通信の魔道具を作っている時に。でも今までハルトさんが魔石に魔力を込めても白く変わらなかったのにどうして突然変わったのでしょうか」


神力はどの魔力よりも優位性があるのに、今まで変わらなかったのはなんでだろう。


「おそらく、ディアナの魔力に触れたからだろう。ディアナの魔力は姉上の神力だ。それにロカスの神力の一部が共鳴したのだろう」


「ふうん。解析スキルがいつもよりスムーズにいったのはこのせいでもあるのか。で、俺の魔力にロカスって神様の神力が宿っているとして、何か不都合とかあったりするのか?」


「……何故そう思う?」


「いや? ただ聞いてみただけだ」


ノヴァ様が押し黙った。


不都合……? 私の中にはルナ様の神力が流れているけど、特に不都合は感じない。むしろ魔力や体力の回復が普通の人より少し早いから助かっている。


黙っていたノヴァ様が(おもむろ)に口を開く。


「姉上に危害を加えたのはロカスの眷属のダリオだが、唆したのはロカスだと俺は思っている。俺が神たちに『(アルク)』を使うと勘違いし空間魔法を俺に使った行動も妙にわざとらしかった」


「えっ、でも柱神たちからは特に忌避されていなかったんですよね?」


「俺の闇の神力とこの目に関してはな。おそらくだが、ロカスは姉上に想いを寄せていたのだろう。いつも姉上が気にかける俺を疎ましく思っている節があった。だから俺をどんな形でも排除できれば良かったのだ。俺を怒らせれば『朔』を使うと踏み、姉上に危害を加えさせたダリオも俺によって排除されるから証人もなくなる」


「……天界の神って、結構ドロドロなんだな」


「だが憶測の域を出ない。ダリオを消したことも俺は後悔はしていないが、姉上や眷属たちを悲しませたことが心残りだった。それと……」


ノヴァ様はそこで一呼吸置いた。


「俺とロカスのせいでハルトや、今までの人間がこちらに転移してしまったのだ。そのことをずっと謝罪したいと思っていた」


「……」


話を聞いても、ノヴァ様が犯した罪というのは意図的でもなんでもなくただのとばっちりだ。ノヴァ様が謝るのはなんだか違う気がしたけれど、私は転生者だから当事者ではないため何も言えなかった。


ハルトさんは少し複雑そうな顔をして手を首の後ろに当てた。


「そりゃあ、転移してきちゃったのはショックだったさ。今の話をされたのが転移してから1,2年後とかだったら激昂して罵っていたかもしれないが、ここに来てもうすぐ18年経つんだ。日本にいた年月を越えてんだぜ? 魔法とかこっちの生活に慣れすぎて今更何とも思わない……いや、何とも思わないって言ったら嘘になるが……まぁ、この通り元気だし、総長がいない世界は俺には考えられないから……気にするなってことで」


ハルトさんはあっけらかんとしている。そしてお父様のことが好きすぎる。恋愛的な意味じゃないだろうけど。心のオアシスって言っていたし。


「……」


困惑気味なノヴァ様にハルトさんは「ディアナ嬢の旦那になる相手に喧嘩腰になってどうするんだ。俺が不利になるだけだ」と付け足した。


そうだ、ハルトさんは和食を何よりも楽しみにしているんだったわ。


そして私は「ディアナ嬢の旦那」という言葉に遅れて赤面した。

長くなりましたm(_ _)m


次回は4/6(月)21時以降に投稿致します。

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