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幕間(28)ー2

「もしかして僕かな」


「領主貴族ではないらしい」


「瞬殺するなよ」


「お前には婚約者がいるだろう」


ルカは肩をすくめ、「冗談が通じない」と言った。今の俺には冗談を受け入れる余裕がない。


「ええ、でも誰だろう、気になるな……ユアンも気になるよね?」


「……そうだな」


「ノアは知ってる?」


「さあ、あまりそういう話はしないからね」


「ノアの婚約パーティーに招待された中にいるかな……あ、まさかユアンだったりして」


ルカが面白がるように言って、隣のユアンに面白がるような目を向けた。そんなユアンは眉を跳ね上げ余裕な素振りを見せる。


それがなんだかムカついた俺は、「それはないと、本人が否定していた」と言い捨てた。


「おっと、ごめん」


「……許さん」


俺はユアンが胡散臭く見えた。


端から見ればこのやりとりはユアンを巻き込み事故に合わせたことにルカが平謝りし、ユアンは睨みつけながらもそれを笑いながら許しているように見える。


「まぁまぁ……で、アンリは誰か検討はついているの?」


そう問われ、俺は昨日から考えていたことを述べた。


「……俺は、Sランク魔法使いのミヅキじゃないかと思ってる」


その時、隣からむせる音がした。


「えぇ? はは! ノア、大丈夫?」


「……うん」


「ふ、さすがに冒険者はないだろう」


「いくらなんでもねぇ」


「根拠はある」


「ほう?」


ユアンの目が光る。我関せずだったノアも咳き込みながら俺に注意を向けた。


「ユアンでも領主貴族でも候補の3人でもないなら他にディアナと関わりのある者は誰がいるかと考えた時に、ふとディアナが身につけている装飾品を思い出した」


「装飾品? ああ、金色の宝石の? ディアナ嬢が身に着けてから流行りだしたよな。僕の母も婚約者も身につけているよ。それがどうかしたの?」


ルカは新緑色の長い髪を片側に流しながら聞いてくる。あまりピンときていないようだ。


「あれはディアナが最初じゃない。冒険者ミヅキだ。ローレンの森で初めて会った時、彼も両耳に金の宝石のピアスをつけていた」


「え、じゃあ、つまり、冒険者ミヅキが金色のピアスを着けているのを知って、ディアナ嬢も付け始めたってこと? いくらなんでもそれは突飛じゃないか?」


「だがディアナがあれを身に着けているのを初めて見たのは去年月祭を一緒に回った時だ。あの時、今思えばディアナは闘技大会にミヅキが出ると知って少し様子が変だった」


あの時は何故狼狽えているのかわからなかったが、好きな相手が出場すると知って歓喜したのを俺に悟られないようにするのに必死だったから狼狽えているように見えたのだと推測した。


ふと隣を見ると、ノアの肩が小刻みに震えていた。


「1つ訂正させてもらうと、夏の私の誕生パーティー後に行った私との茶会ではもう身に着けていたな」


何? そんな前から……


「でもそれだけじゃ弱くない? ただのファンという可能性は? ほら、僕らの周りにもいるじゃない」


ルカが階下に目を向けた。


ユアンは椅子にもたれ、肘置きに頬杖をつく。納得できないのか興味が薄れたようだ。


俺はもう1つ根拠を提示した。あまり思い出したくないことだが。


「ディアナの好きなタイプがあの冒険者に当てはまる部分がある」


「え、何それ! 銀月姫の好きなタイプって特ダネものじゃん」


「ああ、あれね」


ノアが思い出し笑いをする。


「でも『強くて頭が良くて物静か』くらいしか合ってないんじゃないかな。あ、あと『周りから尊敬される人』もそうか」


リリアをヴィエルジュ邸に迎えに行った時にディアナの好きなタイプを聞かされた。俺とは当てはまらない部分が多くてショックだったから一言一句覚えている。


「他に何を言っていたんだ?」


ユアンは頬杖をやめ、背もたれから体を離した。俺の口からは言いたくなかったので、ノアに目配せをする。


「他は、気遣いもできて、先回りして色々手を回したり、面倒見も良くて、怒る時はちゃんと怒ってくれる人」


「……それ自分の父親じゃん」


ルカはげんなりし、ユアンは片眉を跳ね上げた。


「ま、あの方に敵う人はいないけど、冒険者ミヅキは強さで言ったら互角だよね。単独でドラゴン討伐できるし。会ったことがないから物静かなのか気遣いもできるのか面倒見も良いのかは知らないけど」


するとルカははっと思いついたような顔をした。


「ねぇ、ミヅキをノアの婚約パーティーに招待してみたらどう? そうすれば僕らは直接会えるし、ディアナ嬢の反応も見られる」


良いアイディアだとドヤるルカに俺は胸に杭を打たれた心地がした。対してノアはぽかんとしている。


「それは、ちょっと、できないかな……所在も知らないし」


「なら私が招待しよう。Sランクは王族の依頼を受けなければならないからそれを利用すれば可能だ」


「……冗談だよね?」


「私は父上と違って冗談は言わないと前にも言っただろう?」


ノアは開いた口が塞がらないようだった。


「本当にディアナ嬢があの冒険者を想っているのか確かめるにもちょうど良い。そうだろう、アンリ」


「……別に俺は確かめなくても良い」


「何故」


「……もしそうだったら……俺はそんなところを見たくはない」


「ほう。私は確かめたいがな」


俺は怪訝に思った。


「どうしてユアンがそう思う? ディアナが誰を想おうが既にリリアが婚約者になったお前にはどうでも良いはずだ」


「……」


ユアンが口を開き、何かを言いかけたところで、「わかった。父上に相談するから、ユアン、ミヅキを招待する件は一先ず待ってくれない?」とノアが口を挟んだ。


「……わかった」


ユアンが笑みを浮かべる。


仕掛けてからユアンの様子を観察していたが、今ので俺は確信した。


ユアンはディアナのことを諦めていない。


王家はリリアを王太子妃に選んだが、ユアンの本心はディアナを……


沸々と負の感情がこみ上げてくる。


はぁ、最悪だ……救いなのはディアナ自身がユアンが相手ではないと否定してくれたことだ。


何かと俺にトゲを含んだ言い方をすると感じていたが、嫉妬から来るものだとこの時理解した。


リリアに瘴気の石のネックレスが届いたことを話すタイミングを計っていたが、胸の中に苦いものが渦巻いているせいで今日のところは言えそうになかった。

次回は1/8(木)に投稿致します。

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