幕間(28)ー1
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
「元気ないな、アンリ。何かあったのか?」
学院の昼休み。吹き抜けになっているカフェテリアの2階にある王族とその側近しか利用することができない特別なエリアでランチを摂っていると、目の前に座るルカがそう言ってきた。
階下はいつものように昼食を摂る生徒で席がほとんど埋まっていて、女子生徒がこの場所をチラチラと見上げては友人同士の会話に花を咲かせていた。
ルカの言葉を無視していると、斜め向かいに座るユアンが口を開いた。
「ルカ、この前もそうだったんだ。ま、今日のはそれとは比にならない程に暗いがな」
ユアンのとても心配しているような顔と口調ではない言い方についイラッとした。
いつもなら見透かされることのないよう感情を表に出さないようコントロールできるのに、昨日の今日だからか全然上手くいかない。
「ふーん。だから僕でもアンリに一本取れたのか」
こんな軽口もいつもならスルーするのにルカを睨んでしまう。
「ごめんごめん。で、何かあったの?」
ルカがもう一度聞いてきた。
昨日のことが思い出される。胸の中の重たい塊がさらに重量を増した。
あれからずっとディアナの想い人が誰なのか考え、その度にどす黒い感情に支配されている。
ふと、目の端にナイフを操り動く腕が映った。
隣で優雅にステーキ肉を切って食べるノアを窺い見る。いつもは魚やパスタを食べるノアだが午前に剣術の授業があると決まって肉料理を食べている。
ディアナは想い人がいることは誰にも言っていないと言っていたが……ノアはディアナから昨日のことを聞いているのだろうか。
俺の視線に気づいているだろうに黙々と肉を食べ進めるノアを見て、本当に何も知らないのか、それとも知っているが俺に気遣って何も言わないのか、ただ腹が減っているだけなのか……
雑念を振り払おうと皿に残っている肉の付け合せを平らげた。
また俺には他にも悩んでいる理由があった。
リリアから没収した鈍色の魔石のネックレス。
ディアナに振られた後、気を紛らわすために散歩がてら城下にある装備店に行き、ネックレスの鑑定をしてもらった。
鑑定結果は驚くべきものだった。
『瘴気の石。毒化した魔素により生物が魔と化す。また、既に魔と化したものに使えば凶暴性を高める』
瘴気の石というものが存在することにも驚きだが、「生物が魔と化す」という事実に驚きを隠せなかった。
装備店の店主も同じような反応で、俺に出どころを聞いてきた。応える義理はないが俺の身なりから貴族だとバレているため、ある調査のために秘密裏に動いていると尤もらしく嘘をつき他言無用だと一筆書かせた。
これをリリアに贈ってきた人物は、リリアに瘴気に侵させる目的があるのか、そうとも知らずに贈ったか。だが差出人不明にはしない。なら前者の可能性が高い。
だとしたらリリアが王太子妃になるのに不満を持つ侵略派の仕業に違いない。婚約発表時、レリア嬢やシュタインボック公爵が異議を唱えていたからな。
この事はユアンに話すべきだろう。未来の王太子妃に起こったことだ。幸い今ここには中立派しかいない。
「――もしかして、ディアナ嬢に振られたか?」
「――!」
話そうとしたところで不意打ちを食らった。
ユアンが頬杖をついて俺を見ている。柔らかな表情をしているが紫の瞳は真逆だ。
言い当てられたことで話そうとしていたことが頭から離れていった。
「え、アンリ、告白したの? ベリエ公爵が縁談の打診を諦めたって噂があったけど本当だったんだ」
「前後関係が違うと思うぞ」
「ん? じゃあ縁談を打ち切られたからアンリは告白に踏み切ったってこと?」
「たぶんな」
「うわぁ、そっかそっかぁ……て、ええ、僕絶対この2人がくっつくと思っていたのに……すごいなディアナ嬢、公爵子息を振るなんて」
テーブルの上で握っていた左手に力が入る。羞恥と憤りが腹の中で渦巻く。
「ノアは知ってた?」
ノアがナイフとフォークを置き、ナプキンで口元を拭った。
「心ここにあらずで落ち込んでいたからね」
落ち込んでいた……少しは俺のことを気にしてくれたのだろうか。もはやそれだけで少しは俺の心が救われる気がした。
「そっかぁ、こんな優良物件他にないのになぁ……あ、そういえば領地で婿養子を取るんだっけ。銀月姫を他所に出したくないのはわからなくもないけど、さすがに可哀想じゃない? そこんとこどうなの、ノア」
「……」
ノアは笑みを貼り付けて黙っている。
「ちょっと、お得意のだんまり?」
俺は仕掛けてみることにした。
「ディアナは他に好きな奴がいるらしい」
「……」
翡翠の瞳が静かに俺を向く。
「えっ、銀月姫に好きな人!? 誰!?」
興奮気味のルカの横でユアンは静かだ。頬杖をつきながら紫の目線を下げている。だが先程まで上がっていた口角は横一文字に変わっていた。
次回は1/5(月)に投稿致します。




