15話 遅刻魔と反抗作戦
1
非情に注ぐ、鉛の雨。容赦なく人の命を爆風と共に掻っ攫う、手榴弾。ナイフで手早く殺し死体に意味もなく罵詈雑言を浴びせる、軍人。
そんなことが数年前から当たり前となったこの地、スワーム大共和国内三番目の大都市、小白。
当初こそは、ロンリー軍の圧倒的物量に押され、スワーム軍は壊滅的な負荷を負っていたものの、浩介一行の活躍により敵司令部が機能しなくなったことで、なんとか互角の状態に押し戻した……というわけだ。
そんなわけで、今現在。ひとまず戦況がある程度落ち着いたため、浩介一行は休憩を挟んでいる。…休憩とは言っても、次の地獄のような戦への準備の時間なのだが。
「…………あーーーっもうッ!!なんだよこれっ!?ネジがはまらねぇじゃねぇかよっ!?不器用な俺には不向きだろッッッッ!もうやめだやめっ!やーめたっ!!」
『なんだなんだ……ほら、貸してみろ…。―ふざけるな簡単じゃないかッ!?』
「うるさいなーカスども。首切るぞ」
「黙れオリバ。最初のあのとき、お前、俺に殺されそうだっのによー」
「ああっあれは一応一般人と考慮してたから手加減してて…」
『手加減で顔真っ赤にして襲いかかる奴がおるか?』
「ぐぬぬぬ……はいこの話終わりッ!各自作業に取り組めバカどもッ!」
「あーっ!逃げんなゴミがッ!」
実に戦場では耳に入らない声だなと、他の軍人たちは思う。だが、普段暴言や失言などの負の言葉を発する機会が多く、多大なストレスを抱えているであろう彼らにとって、この光景は実に癒しになるのだ。
『―でだ。これからどうするのだ、オリバよ』
「ん?あ、ああ。勿論考えてある」
「マジかよさすがだな」
「えーっと……あ、あったあった。―今回はまたまたHIRI…の出番だ」
「大丈夫なのかよ。お前、この前多用したとき、負荷でダメージくらってたじゃんかよ」
「軍人は血ィ流してなんぼだ、そんなことどうでもいい。……で、HIRIは実はドローン型にもなる」
オリバはこの手で、スマホ型だったHIRIをあっという間にドローン型に変形させる。
「あの、えと、なんでドローンが異世界…に?」
『触れるな、何も考えるな小僧』
「そしてこの状態のHIRIを敵軍上空に放ち、カメラで常に監視。その映像は俺に常時伝わりお前らに伝えるから、お前らと他の軍人たちは、的確に敵軍にダメージを与えられるってわけ。それに横視点じゃわからない罠も、ドローンによる上視点なら丸わかりだし、戦線を上げる際の事故も減らせる。…我ながら完璧な作戦よ」
「聞いている限りだと、今回お前は司令塔的役割な感じか」
「ご名答。だから今回、俺は戦闘に本格的に手を出さない。だから浩介、ドル。お前らだけで最前線で戦ってもらうことになる。この前のゴビ将軍戦から学んだこと、最大限活かせる時だ。しっかり頼むぞ」
「『敵を焚き付けるような煽りはしない、格下が相手な場合すぐに片付ける』だろ?それなら大丈夫だ安心しろ」
『うむ。それにゴビの時とは違い、今回は私も付き添いだ。コイツのストッパーになれる』
「なら安心だな。気張っていけよ」
会話が終わると同時。遠方から銃撃音が発生。それを聞いた浩介とドル、他の軍人たち約20万人は、それぞれの手持ち武器を手に、再び戦場へ赴くのであった。
2
「オラッ!…おいドルッ!今の砲撃で仲間何人やられたッ!?」
『4人だッ!まだここは大丈夫だ余裕があるッ!お前は少しずつ慎重に戦線を上げろッ!』
「焦ったいなっ!一気に上げれないのかよドルッ!増援が来るぞ!?」
『それでも、だ!攻めの決めてになるのが、現状お前しかいない以上、お前が負傷したらそれまでだっ!』
戦闘再開から数時間。少しずつだが戦線を上げつつあり、あと数キロ押し込めば、敵軍を小白から追い出せる、というところまで来ている。
…とは言っても、相手はこの世界で最強を誇る軍隊を持つ国。たとえここに能力者がいたとしても、向こうには以前戦ったゴビ将軍のような、怪物の遺伝子を注入した者がわんさかいる可能性が非常に高い。なのでむしろ、ここからが本番と言っても過言ではないのだ。ここ小白は、双方の国とってかなり重要な街。獲るか獲られるかでかなり戦況が変わる。そのため、敵国も必死に獲るためにかなりの戦力を投下することが目に見えて予測できる、というわけだ。
ジリジリと攻めることに若干の苛立ちを感じた浩介は、何か打開策はないかと周囲を見渡す。すると、自身の左奥に、なにやら大砲が数台、まるで放棄されたかのような感じで置かれていたのだ。
「(…そうか。ここはさっきまでロンリー軍が占領していた場所。あの大砲は奴らが放棄したものだ。…なら、思う存分有効活用させていただくとするか)」
「おいみんな聞いてくれっ!あそこにある大砲を使って奴らを砲撃しろッ!それも一点集中でだ!一点が崩れれば後はなし崩しに奴らに勝てる!」
『…お前にしてはよく考えたな』
『(こちらオリバ。大砲を使う諸君に通達する。狙いはここから南東方面に見える、ロンリー軍第五師団だ。しっかり狙って撃破してくれ)』
浩介とオリバの指示で、軍人の一部が大砲を使い砲撃を始める。彼らの使う、ロンリー製の大砲は、さすが世界一の軍事力を持つ国だからか、スワーム製のものより断然扱いが良く、次々に標的に命中していく。
そして数分が経ち。
『(―よしっ。敵第五師団は壊滅…そこを中心として、一気に攻め込めッ!)』
『行くぞッ!第一師団を中心として敵第五師団を一気に叩けッッ!!』
「「「「うおぉぉおぉぉぉぉおぉぉぉ!!!!!!!!」」」」
ドドドドドド…と、砂煙と共に第一師団、第三師団、第六師団が、敵第五師団へ向け突撃する。
その勇ましい後ろ姿を横目に、ドルは浩介に話しかける。
『浩介。次こそ大幅に戦線をあげるチャンスだ』
「おっ、いよいよだな…。で、俺は何すればいい?」
そう問われ、ドルは先程三つの師団が突撃した南東方面ではなく、南西方面を指差す。
『私たちと第二師団、第四師団は、あの南西方面から攻勢を仕掛ける。そして、南東方面で敵第五師団に打ち勝った他の師団と私たちで、その間にいる敵師団を挟撃する』
「残りの第五師団と第七師団はどうすんだよ」
『一応の防衛だ。一見少ないようだが、戦争において防衛側が有利なのは黒土でも変わりはないし、なにより、小白は我々の土地だ。十二分に地形を把握している。これだけでの師団数でも充分すぎるぐらいだろう』
「なら大丈夫そうだな。…よし。第二師団、第四師団と俺たちはここから南西方面へ攻勢を仕掛けるッ!」
全軍にそう言い伝え、浩介率いる軍は南西方面へ足を進める。
「―浩介さん」
「ん?どした」
その最中、数ある軍人の内一人が浩介へ問いかけた。
「せっかく…というか、これは決めておかなければならないことなんですけど…―作戦名、決めてもらえませんか?」
「あー…なるほど。オリバとか、南東に攻勢に行った師団にも伝わりやすいようにって感じか……んーっと、どうしようかなぁ…」
突然の問いに、浩介は頭をフル回転させながら案を考える。実に浩介のネーミングセンスが問われる場面だ。
―あれこれ試行錯誤を重ね、数分。浩介の頭の中で、一つの納得の行く案がようやっと出てきた。
「せっかくだ。俺の名をこの世界に轟かせてやるためにも、この作戦名は派手にいかないとなぁ…なぁ、そうだろ?」
「まあ、浩介さんが指揮を執ることは初めてなうえに、真っ向勝負なんて初陣ですからね…」
「だからこそっ!この俺、千布浩介が命名する作戦名はっ!これよっ!!―…ちょっと紙とペン貸してもらっていい?」
「あ、どうぞ」
その軍人が大きめの紙一枚とマジックペンを渡すと、浩介は意気揚々と大きな動作で文字を描き始めた。そしてその書き終えた紙を、高々と突きつけた。
「”サンドイッチ作戦”。俺らと、敵第五師団を打ちのめした他師団で挟撃するさま……まさにサンドイッチみたいだろ?」
「は、ははは…か、かっこいいですねー」
『はぁ…』
とち狂ったネーミングセンスを目の前にし、軍人は棒読みかつ白目を剥きながらも褒め、ドルは呆れた溜め息を吐く。そして、薄暗く染まった曇り空を見上げる。
『(浩介が来てから、劣勢だったスワーム軍も、軍の士気も上がった…。コイツのおかげで今の現状がある)』
軍をここまで立ち直させたのは他でもない、浩介だ。黒土に自身の意思で赴き、将軍という最大戦力の一人を、助力もあったが撃破。小白戦線の打開に一躍どころか十躍している。
『(だが浩介はこの戦争の”中身”を知らないガキ…。ガキな以上…ひとまずは何も話さない方が良いかもしれんな…)』
『―浩介』
「なんだ?」
『その、なんだ。だっさいネーミングセンスだが、その、頑張るのだぞ』
「ちょっ!?ちょっとドル様ぁっ!?」
「おめーっざけんなよっ!?あとお前も行くんだからな!お前がいないと俺、この前の将軍戦しかり、相手軍にボコられる可能性あんだからよっ!!」
子供は戦争の真実など知る由もない。
一方的に、自身の国を絶対的正義だと思い、相手国を絶対的悪とする。ある意味一番恐ろしい。
そしてそれは浩介にも当てはまる。
スワーム大共和国を絶対的正義だと思い込み、ロンリー大帝国を絶対的悪とみなしている。
だが、そんなガキの浩介でも、一つの心の揺らぎがあった。
「………」
ゴビ将軍の最期の言葉。『オマエ、相手国ノ状況モ知らずニ、俺らノ国も笑顔ガ消えていルノモ知らずニ、ヨク……そんな、事…言え………ルナ…』。
たとえガキでもこんなことを言われてしまっては、理解してしまう。自身の行いで、相手国から平凡と笑顔を奪い去っていることに。
そして、そんなことを言われて、攻撃を弱めたりでもしたら、今度はスワーム大共和国の人々の平凡と笑顔が消え去る。
戦争はこういうところでも恐ろしいのだ。
両方得する戦争など、ありはしない。片方が富と絶対的正義の称号を得て、もう片方は、絶望と絶対的悪の称号を、取らされる。講和会議をしても結局は片方が得をするだけ。平和とか平凡とかは全く得られないし、そもそも平和と平凡を求めるために戦争を吹っかけるのはおかしすぎる。
「(なんなんだよ戦争はっ……!!このまま行ったらスワームだけ得する世界になっちまうじゃないかっ!!ロンリーの奴らも、軍事力があるからと言って、何も頭がおかしい連中だと断定はできないし、むしろ、スワームにも言えることっ……!)」
『―浩介』
「な、なんだよドル。改まった顔してさ」
『今は重苦しいことを考えるな。考えていることは皆、同じだ。―だから今は、堪えろ。いつかチャンスは来る』
「やってこないかもしれない、いや、来ないじゃないか!」
『そのときはお前自身の手で作れば良い、チャンスをな』
「……!」
『今の状況ではなにもできん…。だからひとまずは、従うしかないのだよ、私たち”駒”はな…』
「くっ………ぅう………!!」
所詮は駒。どれだけ強かろうと、駒の一部。そしてその駒を操るのは各陣の頂点なのだ。たかが一駒やニ駒が反逆したところで、何もできない。むしろ返り討ちで死んでしまうこともあり得る。
だからここは、駒らしく、主人の思惑に従う他ない。そのような状況なのだ。
それを苦し紛れに理解した浩介。
彼はそのまま、仲間の兵たちと共に、南西方面へと重い足を動かす。
ロンリー大帝国の平凡や平和を、この自らの手で消していくのを理解しているうえで。
この話以降、浩介と玲、スワーム大共和国側とロンリー大帝国側の2視点での展開となります。




