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上編

俺には3つ年下の妹がいる。しかし俺はその妹にどうも頭が上がらない。何故なら、妹はモテ男だからだ。もちろん性別は女だから、俺の言っている意味がわからないかもしれない。この話はある特定の場所においての事なのである。


そう、俺が大学2年の夏休みになり実家に帰省した時のことだ。妹は高校2年である。そして俺たち兄妹は仲がいい。帰ってからも久々に妹とたわいない話で盛り上がっていた。

「ねぇ、お兄ちゃん聞いてよ。 私さ、今ゲームにはまってて。」

「へぇ、お前好きだもんな。 で、どんなゲームなんだよ?」

「パズルゲームだよー。 しかもそれでグループとか作れて会話出来るんだけど、私、男になりきってやってるんだー! そしたらさー、女の子がかなり食いついて来てー」

「え、男? それで女が釣れんの? すげーな。どんな感じで喋ってるわけ?」

「うーん、口では言いにくいから、また後で見せてあげるよ。 それでね、なんかしつこい女の子が追っかけしてくんの。 もう気持ち悪いくらいに」

この話で俺は心底妹が羨ましく思った。現実で俺は男なのに彼女はいないし、そんな追われるほどモテない。妹がもし弟だったらやばかったかもしれない、と心の中で思った。

「ふ、ふーん…。 なかなかやるじゃん、そんなに好かれるなんて、はは…」

妹はメールやらSNSとかを使いこなすタイプだ。盛り上げ方もわかっているし、順応するのも早い。逆に俺は真面目な返答をするものだから、つまらない会話しか成り立たない。こうも兄妹で違いが出ると、さすがに兄としては辛いものがある。

そしてその違いこそが妹がモテ男になり得た理由なのだと、俺は思う。

「俺もモテてぇなー。」

「ならお兄ちゃんもやってみればいいよ! 簡単だから! すぐに食いついてくるよ! それに私が招待すれば、私も特典もらえるしー」

「俺はそういうの向いてねぇよ。 前に似たようなことしたけど、結局人が集まらないまま終わったしな。」

「えー、そんなことないってー」

妹のコミュ力はかなり高いと俺は思っている。悔しいが尊敬する程に。しかし俺も興味はある。やってみようかと思い、とりあえず妹のトークを実際に見せてもらうことにした。

「うわ、ほんとお前ってトークってもんを心得てんな…」

「そう? あ、これこれ、この人。 ほらー、こんなとこまで追っかけてんの。 しかもこの書き込み見てよ。」

「おー、確かにストーカー並みにお前がいるグループに必ずいるな。 しかも馴れ馴れしい呼び方とかされてんじゃん。」

「でしょー? もういい加減にしてよーみたいな」

「なら取り合わなきゃいいじゃねぇかよ。 お前が取り合うから、そいつも喜んで追っかけてくんだろ。」

「えー、でもー、それだけじゃないんだって!」

とかいいつつ、妹はきっとそいつを切れずにいるのだろう。口では嫌だと言いつつ、実際逃げているようで会話をちゃんと返しているあたり、向こうも嫌がられていると気づくわけがないじゃないかと俺は思った。しかしこれがコミュ力の一つなのかもしれないと、俺は自分の意見が正しいと言い切れない為、妹に言う言葉はだんだん語尾が小さくなってしまう。

「ねー、今お誘いメール送ったから確認して!」

「あ、ああ。」

携帯を開くと妹からの新着メールが一通。

「これこれ! はい、ここタップして。」

妹に言われるまま添付されたURLをタップする。すると移動した先のサイトには俺の苦手なパズルゲームが。

「おい、これ俺が苦手なゲームじゃねぇか。 無理だわ、出来ねぇ。」

「大丈夫だって! 難しくないから! ね、貸して!」

そして妹に奪われた俺の携帯は、妹の手の中で何をされているのか最早俺にはわからない。

「じゃ名前決めて!」

「え? 名前って本当の名前か?」

「別に作ったのでいいから。 ここは適当でいいよ、後で変えられるし」

そう言われたとき、俺が一度SNSで使おうかと思っていた名前を思い出した。

「ちょっと貸して」

そして妹から取り戻した俺の携帯に、自分で名前を打ち込む。

「打った? あ、何この名前? いいじゃん。 なら、次はどのキャラ使うか決めよ! 私は今これ使ってるよ!」

3つのキャラクターの内で指差したのは、俺も一目見た時にいいなと思ったやつ。しかし妹と同じキャラを使うのは少し気が引ける。しかし、それ以外の2つはあまり興味が持てなかったから、仕方なく俺も同じものを指差す。

「じゃあ……俺もこれで。」

「次はー、レベル上げかな? レベルが低すぎると相手にしてもらえなかったり、会話に入ろうとすると荒らされるから」

「へ、へぇ…」

レベル上げは好きだが、俺はこのゲームが苦手だから簡単にはいかないだろう。

「私がやったげる!! 任せといて!」

そしてしばらくは妹に預けてレベルを上げてもらうことにした。

その間に俺は、一つ小さな策略を考えていたのだった。


「今、10レベを超えたとこだよー。」

次の日、妹が携帯片手に俺の部屋にやって来た。俺は咄嗟に持っていたものを服の中に隠した。

「うわっ…早いな。 お前使い過ぎんなよ。 充電も早くなくなるし、データもかなり使うんだから」

「わかってるってー。 まだもうちょっとかかるけど、多分すぐ30レベまで上げれると思うから、そしたらグループに参加してみよー!」

そして部屋を出て行った妹。

妹が入ってきたとき慌てて俺が隠したのは、一人暮らしをしていてバイト代を使って手に入れたタブレット。

実は妹に内緒でこっそり俺は一から同じゲームを始めていた。そう、俺の策略を実行に移すために。

しかしなかなか苦手なゲームのレベル上げはうまくいかない。ただ負けず嫌いだからこそ、妹に頼らずにやってやろうというわけだ。

(くそっ、またゲームオーバーかよ…)

部屋に篭って早3時間。そろそろ部屋を出ないと、妹がいつ入ってくるかわからない。

「お兄ちゃーん、ご飯だよー。」

一階から妹が呼んでいる。タブレットをスリープ状態にしておいて、リビングに降りて行った。

「ずっと部屋で何してたの?」

妹が聞く。

「大学のレポートだよ。 夏休みなのに面倒だわ」

「お兄ちゃんもあるんだ! 大学生も宿題あるんだね。 私も今年多いんだよねー。」

嘘をつくのは苦手だが、なんとかこの場は誤魔化せた。妹も宿題の話題を疑うはずもなく、そこからは一切話題が逸れることはなかった。

「ご馳走様ー。 俺まだレポートやんなきゃだから、先風呂入って来るわ。 んで、そのままレポート仕上げたら寝るから」

「そ、ならお休み。 明日も休みだからって夜遅くまで起きてたり、朝遅くまで寝るのはよしなさいね。」

母さんはそれだけ忠告して、「おやすみ」と先に挨拶を言っただけだった。妹も特に食いついてはこず、「頑張ってね」と励ましの言葉をかけてくれた。

俺は言った通りに風呂に入り、そのまま部屋に入った。もちろんレポートをする為ではなく、ゲームのレベル上げに専念する為に。

ドアには鍵をかけ、スリープ状態で閉じておいたタブレットを開く。充電の心配をしなくていいように、電源をそのままコンセントに繋いでおく。

「さてやるか。 今日中にレベルを50以上までがっつり上げとかねぇとな。」

コミュニティに入る為にレベルはなるべく高い方がいい。早く慣れてしまわないと、ボロが出ても困る。今日は徹夜をしてでも上げられるまでレベルを上げるつもりだ。

なかなかうまくいかなかったゲームも慣れれば少しずつコツがわかってきて、2時間以上していればレベルは20に近づいていた。時刻は10時を過ぎたばかり。ペースとしてはまずますというところだろう。

「飲みもんとか確保しとくか…」

徹夜をするなら飲み物は手元にあった方がいい。仕方なく部屋を出て、冷蔵庫の中からペットボトルのお茶を一つ持って上がった。

その時は妹も母さんも風呂かどこかで、台所には誰も居なかったのが幸いだった。

部屋に戻り、レベル上げも順調に進んだ。しかしふと気になったのは妹の参加しているコミュニティ。昼の間に妹から教えてもらっておいて良かった。参加はせずに覗くだけ覗いてやろうとページを開いた。

「ちわーす」

という言葉と共に顔文字が続いている。

(うわ、これか……)

完全に男言葉をものにしているのが見てわかる。

(あいつ、まじで男になりきってやんの。)

しかし妹から聞いていたが、かなりの人気ぶりだ。どいつもこいつも妹に話しかけていたり、自分のコミュニティに参加を呼びかけたり引っ張りだこだ。騙されているこいつらを可笑しいと思う気持ちもあるが、なによりこの人気ぶりの妹に負けたような気になり、悔しさの方が勝る。

(くっそ、早くレベル上げてコミュニティに参加しねぇと)

焦る気持ちを落ち着かせ、レベル上げに集中する。時間を気にせず集中していたら、あっという間に日が明けていた。レベルが50をようやく超えた時には、時刻はもう3時になっていた。さすがに目がしょぼつき始める。カフェインでもとれば良かったのだろうが、生憎コーヒーは俺は飲めないし、紅茶も苦手だ。徹夜に慣れているとはいえ、ずっと画面を見続けるのも疲れてきた。

(明日までには作戦を実行に移したいな…けど、もう頭も働かねーし。)

いちおうノルマは達成していたので今日はそれ以上のレベルは断念して寝ることにした。

結局目が覚めたのは朝の9時を超え、起きてすぐ母さんには少し怒られたのだった。


朝からゲームもまずいだろうと、続きは午後からやるつもりで今日は朝から出かけていた。

「ね、お兄ちゃん。 お兄ちゃんのやつ、レベル30超えたよ! そろそろグループ入る?」

「あ、ああ。 そうだな。 ってか、これさお前がやれば? 俺、わかんねぇし。」

すっかり自分の携帯でやっていた方を忘れていて、一瞬かなり焦った。妹に預けたままの方は30を超えたばかり。これならイケると作戦を思い出し、心の中でいたずらに笑う。

「教えてあげるって!」

「いいよ、お前に全部任せるから。 好きにやってくれよ。」

「えー、意味ないじゃーん」

隣を歩く妹は、俺の携帯を見ながら呟く。

「お前、もう俺のキャラ使えよ。」

「私、お兄ちゃんのイメージしてるの、わかんないもん。 だから使いたくない。 レベル上げだけするからさー」

「あとで返されても、レベル高い状態からなんてやれねぇよ、俺」

もうそろそろしつこいかな、とは思いつつ妹に断り続けることをやめた。妹もそれ以上は言わずに、まだレベル上げに専念しているようだ。

俺は頭の中で作戦を練り直しながら、実行に移すまでもう少しだとニヤつくのを我慢する。

今日出かけているのは家族で買い物に来ているからだ。母さんと妹は服屋に、父さんは本屋に、俺はというとゲームの攻略本を探していた。

若干セコいかなとは思っていたが、背に腹は変えられない。一刻も早く先に進まねば計画は達成できない。

とりあえず携帯アプリではないが、同じゲームの攻略本を見つけそれを時間いっぱい立ち読みした。

「おい、帰るぞ。」

本屋に一緒に入っていた父さんから声がかけられ、店を出た後はそのまま昼ごはんを外で食べて家に帰った。

家に着いたのは15時を過ぎていて、俺は昨日のレポートの訂正があると言って2階の部屋に入った。

今日こそ実行に移す時。そう思った俺は妹が参加していないのを確認して、早速コミュニティを探し始めた。レベルは上げられるまで十分上げたはずだから、参加するのには文句は言われないだろうが、何より不安なのは自分のコミュ力だ。盛り下げてしまえばその時点でこの計画は働かなくなるだろう。

とりあえず目についた誰でも参加可能だとうたっているコミュニティに入ってみる。

「こんにちは、始めましてですー」

(とりあえずこんなもんか…)

口調をどうすればいいのかわからなかったが、無難な感じで語尾を伸ばしておいた。しかしこれだけだとただの乱入者だ。注目をひく言葉を何か書く必要があると思い書いたのは、

「良かったら仲間に入れてくださいっ」

と顔文字と共に付け足しておいた。これなら嫌がられずに入れてもらえるはずだ。

(まぁ、こんなもんだろう…)

返事を待つ間、更なるレベル上げに挑戦しなんとか60レベまでたどり着いた。かなり時間を要したので、気がつけば時間はもう18時。夜ご飯の為にも下に降りておかねばならない。最後に返事が来てないかを確認してみると、コミュニティの参加を喜ぶ声がいくつもあり、俺はなんとか作戦の第一段階はクリアした。

夕食時、父さんや母さんに勉強のことを聞かれつつゲームのことを考えていると、妹が意味深な顔でこちらを見てきた。ご飯を食べ終わってからソファに座る妹に声をかける。

「さっき、どうした? 何かあったのか?」

「レベルも上がったことだし、早速コミュニティに入ろうと思うんだけど、お兄ちゃんどうする?」

「それは昼にも話したように、お前の好きなようにやってくれって。」

「ならさ…ちょっと考えがあるんだけど…」

そう言って俺の反応を伺って来る。

(なんだよ…)

そう思いながらも話を聞いてみることにした。

「あのね、私男に成りすましてるって言ったでしょ? それでお兄ちゃんは私の友達のフリして一緒のコミュニティに入ってくれない?」

「は? なんでだよ。」

「私追っかけされてるって言ったじゃん。 もしかしたらそれを振り切れるかもしれないし。 彼女の話を持ち出してくれたら、諦めてくれるかもしれないでしょ?」

「はぁ? んな面倒な事、勝手にやればいいだろ? それにそんな話したら他の女だって逃げるかもしれないじゃねぇか。 せっかくモテモテになってんのに、いいのかよ?」

「だって、飽きちゃったし…」

この時俺は妹の発言に正直こう思った。

(言ってみてぇー!!)

俺なんかモテるわけもなく、彼女も最近別れたばかりでいない。さすがにゲームとは言え、妹の凄さには完全にやられた。心が折れそうだ。

「飽きたって……さ、さすがモテ男は言うことが違うな…」

なんて強がって言ってみたものの、羨ましさに押しつぶされそうだ。

「いやいや。 で、どうする? やってみない?」

妹はさほど何とも思っていない軽い反応で答えを待っている。

「わかーった。 のってやるよ、その案に。 で、どうすりゃいいんだ?」

「じゃあまずは私の入ってるコミュニティに参加して! ここから入れるから。」

そう言ってゲーム画面を見てみると妹のキャラの名前が所々に書いてある。

(これか…)

そして参加のボタンを押し、早速コメントを。

「なぁ、何て書きゃーいいんだ?」

「んー、なら私に呼ばれて来たってことを書いて。」

挨拶程度に呼ばれたことを書きながら適当に言葉を書く。反応はすぐに返ってきて、よろしくとコメントがあり、受け入れてもらえたようだった。

その後は妹のリードによって会話に混じりながらついていった。

「ちょっと俺、まだレポートに少し時間がかかりそうだから今日はここまでな。 今日はサンキュー」

そう言って自室に戻ってきた。

俺の携帯の方のキャラは妹に接触している。今こっそり実行している俺の計画にとっては都合がいいだろう。うまく利用してやろうと、タブレットの電源を入れてゲームを起動させる。

すると昼間のうちに入っておいたコミュニティに返事がかなり書き込まれていた。

「ねー、お話しない?」

「レベルすっごく高いじゃん、一緒にクエストやろうぜ。」

などなど、かなりの人数からの反応に思わずニヤつく顔が隠せない。

「もちろんですよー。 仲良くしましょーよー」

波に乗ってきた俺の会話もコミュニティにうまく馴染み、順調にその他のコミュニティにも参加していった。

そして計画最終段階。

妹のコミュニティに飛び込んで行く。

「こんにちは! 突然入って来たんですけど、混ぜてもらっていいですか?」

するとさっそく反応があった。

「もちろんっすよ。 仲良くしましょー。」

そして顔文字が。

(よっしゃ、釣れた!)

計画はうまいこと理想通りの展開に進む。妹が食いついて来たところで、さっそく会話を広げていく。

「ハチさんって結構色んなコミュ入ってますよねー。 人気者なんですね!」

(少し嫌味ったらしかったか?)

そう思いながらも反応を待つ。すると間隔をあけずに返事がきた。

「そんなことないっすよー。 俺も他のコミュに入れてもらってるだけっすから」

「そうなんですねー。 まだこういうの慣れてないから、良かったらいろいろ教えてください!」

俺のことがばれないよう何とか会話を成立させて今日のところは無事にやりきった。

(これからが楽しみだな…)

そう、俺の計画は全て、妹を俺の本性を隠しながら釣ること。

女の子として。


このコミュニティで妹をいかに騙すか、それが俺の小さなヤキモチの返し方なのだった。

だが見つかった時の反応は何より怖い。女に成りすましてやっている兄ほど気持ち悪いものはないだろう。

楽しみと緊張の両方を感じるスリルを楽しみながら今日も、ゲーム世界の男を釣る俺の楽しみは続くのだった。

これ、本当は一話完結の短編にするつもりが、読んでもらった時に「続きは!?」との反応があったので、書いちゃいました(笑

確かに、このままでは中途半端だし、書いてみたんで良かったら最後までお楽しみいただきたいです。

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