第3話:新入生争奪戦
緑が丘高校は部活が充実していることで有名だ。資金があるだけでなく、時間割上も、部屋割上も他の公立に比べて恵まれている。だから部活紹介も充実している。特に、見込みのある新入生の争奪戦はここ数年過熱気味らしい。
この行事全体の取りまとめは生徒会だが、実質的には陸上部とコンピュータ部が活躍する。1年生はあらかじめ、Web上でこれまでの部活歴や希望を入力しておく。それをコンピュータ部が集計し基礎データとする。さらに、当日、体育館で体力測定を行う。これは、陸上部が取り仕切り、データは、やはりコンピュータ部が集計し、Webでの調査と合わせて各部の部長クラスに結果が送られる。体力測定から解放された1年生は、体育館内、校舎内、グランドに設けられた各部のコーナーを回る。あたしは、仲のよい新谷真美、青木芽衣と一緒に文化部から回る。
文化部の両雄と言われるのが、料理部と自然科学部だ。料理部は、オリエンテーリングでのカレーライスに続いて、食べ物で新入生を釣る。創作菓子で女子生徒を集め、麺を打って男子生徒を集める作戦だ。実は、あたしは、両親のやっている店を継ぎたいという理由で、料理部に関心があった。が、話を聞いて関心を失ってしまった。早々に調理室を出たあたしを芽衣が不思議そうに見ている。
「ねぇ、由梨子は料理部に入りたかったんじゃないの? もっと話を聞かなくていいの?」
「うん、やっぱり、料理部はやめたわ」
「どうして?」
「どうしてって言われても…… なんか違うのよ」
「何が違うの?」
「う~ん…… 皆、楽しんで作っている雰囲気があるの」
「そりゃ、そうじゃない。部活なんだから、楽しむのは当たり前じゃない」
「そうなんだけれど…… 自分のために、自分が楽しむために…… 自分の食べたいものを作っている。そういう感じが強いの。誰かのために、誰かがおいしいと思ってくれるように作るという意識が希薄なの」
「部活はプロではないわ。だから、最初から、他人のために作っているわけじゃない……あ、わかった! 由梨子の家はお店をやっているからプロ意識から抜けられないのじゃないかしら。中途半端な気持ちで、料理をできないってわけね。なんとなく由梨子の気持ちもわかるけれど、神経質に考えることもないんじゃないかなぁ」
「そうかもしれない。でも、やっぱり、料理部のあの雰囲気、和気あいあいとした雰囲気で料理をするのには抵抗があるの」
青木芽衣は、本当はすごいのかもしれない。人間観察ができる。今みたいに、人の心理を言い当てて、それを言葉にすることができる。そう言えば、芽衣は男子のランキングをするって言っていた。ランキングも人間観察の一つというわけね。と言うことは芽衣の本命は……
「芽衣は、もしかして、文芸部、本を読んだり、小説を書いたりする所が希望?」
「文芸部?」
「だって、人間観察ができて、それを表現できないと小説なんて書けないじゃない。でも芽衣はそれができる」
「小説? 私は、ノンフィクション派なの」
「ノンフィクション?」
「つまり、事実。実際にあったこと、実在の人物に興味があるの。だから、部活は報道部よ」
「報道部?」
「そう、報道部に入って、我が校の真実を暴くの。我が校の生徒の赤裸々な実態を明らかにするの。例えば、『山崎由梨子の灰色生活のすすめ』とか、『新谷真美の正村攻略史の真実』とか、そういう記事を書きたいの」
「灰色生活って…… 何で知っているの! 頭痛がする……」
「攻略史? 真美は、まだ死んでいないから、歴史には関係ないと思うんだけれど……」
真美とあたしは、友達選びを間違ったかもしれない。
パスしようと思っていたコンピューター部に、知った顔があったので声をかけた。
「あれ? 守山君じゃない。どうして店番しているの? 上級生の代わりに1年の守山君が店番しているのって変じゃない」
「それは、そうなんやけど。なんか、緊急事態らしい。コンピューター部は、体力測定のデータを集計して、適正試験を受ける部をプログラムで判断しているんやけど、そこにバグがあったらしい」
「バグ?」
「バグっちゅうのは間違い。そのバグのおかげで、ある女の子がすべての部の適正試験を受けるはめになったんや。まるでいじめやな。それで上級生は、そのバグとりで、てんやわんやや。わしは、ここの店番を任されたっちゅう次第や。ま、どっちにしろ、コンピュータ部には入ろうと思うてたから、店番くらい軽いもんやけど」
「それはそうと、コンピューターなんてどこが面白いの?」
「お、よくぞ聞いてくれた。今の世の中情報の時代や、その情報を握っているのがコンピューターや。そやから、コンピューターを制する者が世の中を制するんや」
「あら、でも、すべての情報をコンピューターが握っているわけじゃないわ」
「例えば……」
反論できるなら反論してみろと守山君は言外に言っている。対する芽衣の回答は鮮やかだった。鮮やか過ぎてななかな理解できなかったけれど。
「おととい、水曜日。昼休みが間もなく終わろうとする頃。関西弁を喋る一人の少年が食堂のお姉さんに話しかけた」
守山君は眉を曇らせた。芽衣は構わず、続ける。
「こう言ったのよ『お姉さん、俺とつきおうてもらえますか』。そうしたら、お姉さんは、『自分の稼ぎでご飯を食べられるようになったらそのセリフを聞いてあげるわ』と答えたのよ」
「さすが、お姉さんね。でも、その子も勇気あるわねえ」
とあたしは、相槌をうった。
「でしょ。これなんか、コンピューターには集められない情報よ。」
「そりゃ、そうだわ。あはは……」
笑っている途中で、あたしは、青ざめた守山君に気がついた。
自然科学部は雑居部隊。屋上に30cm反射望遠鏡を有する天文班、いつも怪しげな機械を作っている物理班、薔薇の品種改良に情熱を燃やす生物班があり、それぞれカラーの違う生徒を集めている。意外なことに、フィールドワーク、つまり出かけることもあるらしい。日蝕を見に行ったり、野生のバラを見に行ったり、遊園地に人の波を観察しに行ったり。あたしは、天体写真の綺麗さにひかれたが、まだ、決められない。一応、運動部の方にも顔を出しておくつもりだから。
体力測定の各項目でトップクラスの記録を出した1年生は、強制的に上級生による適正試験(試練)を受けさせられる。そして、才能のある新入生をめぐって運動部間で争奪戦が行われる。もともとは、部長たちが、新入生の適正をみて、アドバイスをしていたのだけれど、一部の好き者によって適正試験とは言えないものに変質しているらしい。で、あたしの場合、垂直飛びで60cmを超えたのが呼び出された理由。指定された時刻に、朝礼台そばの受付の所へ行く。制服を着て腕章をした上級生が、1年生にメニューカードを渡している。あたしがもらったカードには、バレーボール部とバスケット部、それに陸上部の所にサインが入っている。興味深そうについてきた芽衣と真美は、あたしのカードを見て、尊敬のまなざしを送ってくれた。最初はバレーボール部。トスのやり取りから始まって、レシーブ、サーブと試験が続くはずだった。恰好つけてトスをしようとしたら、ヘディングになってしまった。それを2回つづけたら、試験は終了。バスケット部では、パスをもらって、ドリブルをして、シュートを決めるはずが、ドリブルの途中でボールが転がっていって、終了。実は、球技はからっきし駄目だ。では、陸上ならいいのかと言うと…… 走り幅跳びを測ると言われて、何度も挑戦したが、どうしても踏切り板より前に足が出てしまう。しょうがないので、最後は、走るのはやめて、踏切り板に両足をそろえて立ってジャンプした。ということで、あっとう間に適正試験が終わった。受付の上級生は『それほど適正試験がよくなくったって、本人が希望すれば、入部してもいいんですよ』と慰めてくれた。が、3つともD判定という評価であれば、希望しない方が無難だと思われる。芽衣も真美も運動部への入部は勧めてくれなかったし。
受付には、木川碧もいた。何やらもう一人の上級生ともめている。
「言われた部の試験は、全部受けてきたわ。だからあたしの希望を少しぐらい聞いてくれてもいいでしょう」
「女子のある運動部すべての試験を受けてきたことは、生徒会としても感謝しております。しかし、いくらなんでもこの試験は……」
「これ一つだけだから、サインお願いできないかしら」
木川碧は、媚びるような目で上級生を見つめる。
「その一つが問題なのです。よりによって、これを希望するなんて…… それに、折角の美形に傷でもついたら……」
「あら、美形と言ってくれるのね。さっきは、『鼻くそ姫が』とかこそこそ言っていなかった」
「え! き、聞こえていました?」
「聞こえたわよ。美形なんて言っておだてているけれど、本当は軽蔑しているんじゃない?」
「そ、そんなことはありません!」
と上級生は首をプルプル横に振る。
「サインしてくれないなら、キスするわよ」
「……」
上級生は苦渋の表情を浮かべている。木川さんのような美女にキスされたくないわけがない。が、同時にキスされた後に、とんでもないことが待っている気がするのね。この間キスされたあたしには、その気持ちがわかる。とてつもなく美人だけれど、それ以上に恐ろしい女、それが木川碧だ。上級生はため息をついて、口を開いた。
「わかりました。サインしましょう」
上級生は、しぶしぶサインをしてカードを返すと、誰かと携帯で誰かと話しだした。
「実は、ちょっとした問題が……」
あたしは、木川碧に声をかけた。
「木川さん、どうしたの?」
「あら、あなたたち、同じクラスの…… ねぇ、それはそうと、あたしのことは碧って呼んでくれない? それで、あなたたちのことも、名前で呼んでもいい?」
「え、も、もちろんよ、木川さん…… じゃなくて、碧」
「ありがとう。仲良くしてね! なんだか、皆、あたしに気安く声をかけてくれないの。だから、あなたたち、由梨子、真美、芽衣に感謝、感謝よ」
ニコリと笑うその姿は、とても上品だ。確かに、これだけの美女だから、気安く声をかけにくいのはわかるわ。で、一体、碧は、どこに行くのかしら? 歩き出した碧に並んだ。
「碧、さっき、受付でもめていなかった?」
「うん。スパーリングをさせてほしいって頼んだの。そうしたら、女子はダメだって言われて…… でも、何とかOKをもらったわ。これから、行くから、もし時間があったら応援してくれない?」
「もちろん、応援するわ。でも、その、スーパーリングって何?」
「スパーリングよ。何でしょう? 見てのお楽しみ」
真美が頭をひねる。
「スパだから温泉、リングだから、輪。つまり、ドーナツみたいな形をした温泉でしょ」
真美は自信たっぷりに言った。
「……」
あたしは、呆れてものが言えない。芽衣は、あたしよりも少し大人だから、ちゃんと真美につきあえる。
「で、どうして、温泉が部活に関係あるの?」
「さあ? でも、女子はダメって言ったから、混浴はダメってことじゃない?」
真美! 少しは、『温泉』から離れたら? 碧は鼻歌を歌って目を輝かせている。スパーリングがなんだかわからないけれど、絶対、『温泉』じゃないと思う。
木川碧は、プレハブに入っていく。そこには、5m四方程度の四角い床があり、周囲にロープが張り巡らされている。中には2人の生徒が立っている。両手に大きなミトンをつけて、頭には、おかしなヘルメットをつけて睨みあっている。これって、着ぐるみごっこじゃなくて、あれじゃない? 二人のうちの一人があたし達に気づいた。
「おい、そこの女子!」
「ひえ~ こわ~」
と真美が叫ぶ。
「うるさいやつだ。今日は、見学はダメ。新人の適正試験をやっているんだから、出ていってくれ」
上級生らしい一人があたし達を睨みつけた。碧は、それをものともせずに、メニューカードをロープの外で見ていた係の男子に差し出した。男子はカードに目をやる。
「新入生の試験、スパーリングだって。で、当の本人は?」
木川さんが、カードに記入された名前を指差す。
「えーと、名前は…… 木川碧。女みたいな名前だな」
碧は、うんうんと頷いて、口を開いた。
「そうよ。女よ。あたしよ」
「何かの冗談でしょう」
とその男子が呟く。
「冗談じゃないわ。そこに生徒会の係のサインもあるでしょう」
男子生徒が、理解できないと言う顔をして、ロープの中の生徒に声をかける。
「副部長、この子、スパーリングテストだそうですけど」
「まじで?」
「う~ん。多分、マジだと思う。少なくともこのカードが正しければ」
「なんかの手違いじゃないか?」
あたしも、手違いのような気がする。だって、これは、どう見たって、『ボクシング!』 殴り合いをするスポーツ。で、確か、スパーリングって、練習試合みたいなものだったと思う。ダイエット目的でやるやつじゃなくて、本当に殴り合いをするのだったと思う。学年一の、いや学校一の美女とボクシングに接点があるわけない。真美は、腰が引けて、今にも逃げ出したそうだ。沈黙が場を支配する
「……」
沈黙を破ったのは、プレハブに入ってきた大柄の男子。制服を着て腕章をしている。
「この子に適性試験を受けさせてやってくれ」
そう言ったのは、入学式で見かけた…… 生徒会長だ。多分、さっきの受付の人が会長に電話をしたのだろう。
「いくら、部長のたのみでも……」
部長? 会長じゃないの?
「これは、ボクシング部の部長としてではなく、生徒会会長としての依頼だ」
ってことは、この人は生徒会長、兼ボクシング部部長ってこと?
「そう言われても、女とやったことないし、加減が難しいですけれど……」
会長が碧の方を向いて口を開いた。
「木川さん、ちょっと、そのカードを見せてもらえます」
そう言って、カードを受け取った。
「ふ~ん。半分以上Aですか。これは、部長達の勧誘がすごくなりそうですね。でも、これだけ、沢山試験を受けていただいたのですから、本人の楽しみも少しはないといけませんね」
「さすが、会長さん、よくわかっていますね」
「いいでしょう、スパーリングを楽しんでください。おっと、その前に、そこのサンドバックを殴ってみてくれます」
そう言って会長は部屋の隅にあったでっかい枕のようなものを指差した。碧は、その前に立つと、一呼吸おいて、枕を打った。いわゆるパンチだ。碧は、ニコリと笑って、どう? と言う顔をしている。会長さんは、難しい顔で
「ちょっと、お尻の筋肉に力を入れてみてくれますか?」
と丁寧にお願いした。
「こう?」
「ちょっと、失礼」
そう言って、会長は碧のお尻をむんずとつかんだ。お尻をつかんだのだ! 会長は考えながら、なおも手を動かしている。えーっ! 美女のお尻を触っている! 会長は満足がいったようだ。
「経験はあるけれど、練習はしてないですね」
「ばれましたね」
「ばれますよ。これでも私はボクシング部の部長ですから。いいでしょう。やりましょう。試験とはいいつつ、木川さんはスパーリングを楽しみたいんでしょう。ついでに、緑が丘高校のボクシング部がどれほどのものか、見てみたいんでしょう?」
「さすがわ、会長さん」
「そのぐらいのことがわからないと会長は勤まりませんから。あ、そうだ! 折角ですから、私にお相手をさせてください」
「よろしくお願いします」
二人は入念に準備をした。おかしなヘルメットは頭と顔を守るためのものらしい。だけど、でっかいプラスチックの塊を口に入れたのはなぜかしら。話ができなくて不便だと思うのだけれど。鐘がなってスパーリングとやらが始まった。体を前後左右に動かして、なおかつ、上体を上下させて、パンチを出しているみたい。なんせ、速すぎて手の動きがよく見えない。だんだんと目が慣れてくると、パンチを出しているのは碧、それを器用に避けているのが、会長兼部長だというのがわかる。まるで、会長は碧の考えていることがわかるみたいに碧のパンチを避けている。
途中で、一旦、碧はいったん離れると、会長に向かって手招きをした。攻めてこいという合図みたい。会長もパンチを出しはじめる。決して速いパンチというわけじゃない。でも一発一発が重く、ガードしている碧も受け切れていないような感じ。いつのまにかあたし達は二人の真剣なやり取りに魅入られる。そして、黙っていた周りの観客も声援を送りだした。
「碧、頑張って!」
「会長さんのいじめに負けちゃ駄目よ」
「いじめもなにもスポーツなんやけど」
「部長、そろそろ、本気だしていいんじゃないですか」
「キャー、やめて、女の子を殴るの? 最低ね!」
「最低も何も、リングに上がれば、男も女も関係ねぇ!」
「リングだかキングだか知らないけれど、男って、強がることしか知らないじゃない。碧、さっさと会長をぶちのめして」
だんだんと、声援も過激になってくる。そして、言ってはいけないことを男子が言う。
「部長、『鼻くそ姫』の鼻をへし折ってください」
と、碧が体すっと寄せたかと思うと、不意に会長は不自然にのけぞる。そのまま、よたよたと後退して、ロープに体を預けた。そこで、スパーリングは終わった。
なんでも、最後に碧が放ったパンチはアッパーというらしい。会長は、はめられたとぶつぶつ言っていたけれど、どういう意味かはよくわからない。碧もそれについては何も語らない。何がどうなったのかは、わからないけれど、最後には、会長と碧が、満足そうに見つめ合っていたのが印象に残った。
教室へもどる道中で、芽衣は早速、碧にインタビューをする。
「で、碧はどうするの?」
「どうするって?」
「まず、部活はどうするの、どこにするの? あの成績なら、どこの部も歓迎してくれるわよ」
「そうね、どの運動部も今一つかなぁ」
「もしかして、ボクシング部? あそこはやめておいた方がいいと思う。それに、女子はダメなんじゃなかったっけ?」
「女子はダメだけど、それ以上に、あたしがあそこに入るのは、おこがましいわ」
「おこがましい?」
「そう。皆、真剣なのよ。あたしはボクシングが好きだけれど、彼らほど真剣にはなれそうもないわ」
「それじゃー どうするの?」
「実は、文化部の方もかんがえているのよ」
あたしは、碧に合いそうな文化部を思いついた。
「もしかして、演劇部?」
「それもありね。でもまだ、決めてない。皆はどうするの?」
即答したのは芽衣だ。
「私は、もちろん、報道部」
あたしはまだ少し迷いがある。
「あたしは、多分、自然科学部。星を見たいの」
真美は、白紙に近い。
「真美は、よくわからない。とりあえず、翔がどうするか聞いて考える」
「翔? ああ、正村君ね」
碧にも真美が何を考えているかわかったのだと思う。芽衣が話題を変える。
「部活はいいとして、碧は、会長さんのことどう思う?」
「会長さん? さっきスパーリングした会長さん?」
「どうって?」
「決まっているじゃない。男としての魅力を感じたかって言う意味よ」
「寝てみたいかという意味なら、寝てみたいわ」
ぶっ、そういう意味じゃないと思うんだけれど。碧は話を続ける。
「でも、彼はあたしと寝たいと思っていないわ」
「どうして、そんなことわかるの?」
「スパーリングの前に、あたしのお尻を触ったでしょう。その時、彼は女の子のお尻を触るような感じじゃなかったの」
「それじゃ、どうだったの?」
「そうね。猫をつかむような感じ。もにょもにょって感じじゃなくて、ガシって感じ」
「それって、わかるような、わからないような…… そうだ、参考までに言っておくと、会長さんには、恋人はいない」
あたしは、思わず芽衣に聞いた。
「芽衣は、どうしてそんなことを知っているの?」
「そのぐらいのことを知っていないと報道部は勤まらないわ。といっても、会長が童貞かどうかまでは知らないわよ」
あたりまえだ。それを知っていたら恐ろしい。碧も恐ろしい女だけれど、本当に恐ろしいのは、芽衣の方かもしれない。それに比べて、真美やあたしはかわいいものね。あたしは、真美の頭を撫でた。




