表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/8

プロローグ

街や都市なんかは、きっと真夜中もまるで昼のように明るいのだろう。

ただ、この街は夜になると完全完璧な暗闇に閉ざされる。

なぜなら、ここはスラム街だから。

どっちへ歩こうが、個性も特徴も無い、ただ荒廃した街並みが続いている。

それはさながら迷路のようで、漠然とした恐怖が俺を襲う。

夜の闇に閉ざされたスラム街で道に迷ってしまうと、正しい道に戻る事など不可能に近い。これは、ここの住民なら誰しもが当たり前に知る、世の常識だ。

「お母さん……」

 闇に閉ざされたスラム街で、僕は一人、静かに泣いていた。

 もう自分の家がどこにあって、どこに向かって進めばよいのか、これっぽっちも分からない。

 僕はスラム街に生まれ、スラム街で育った身だ。荒廃した町並みには十分慣れている。

 でも今だけは、そんな街並みが無性に怖く感じる。

 やがて、僕の歩く足が止まった。

 もうずいぶんと長い事歩き続けたから、限界が来たのだ。

 もう、一歩たりとて歩けはしない。

 絶望にくれて、僕の目から涙がさらに勢いを増して流れていく。

 もう僕は……一生、お母さんには会えないのかな…………?

「――――ねえ、そこの君」

 突然、声を掛けられた。

 振り返ると、そこにはスラム街には似ても似つかない、きらびやかな格好の女の子が居た。宝石のように輝く目、淡く輝く金色の長い髪、麗しい顔立ち。美しいを超えて神秘的な子だ。

「そんなに泣いて、どうしたの?」

 僕と同い年くらいに見えるのに、その子は凄く落ち着いていて、優しく笑い僕の顔を覗き込んできた。

「迷子になった…………」

 僕は何も包み隠さず、正直にそう言った。

 取り繕っている余裕なんて、とっくに消え失せているのだ。

「そう――――」

 その子は慰めの言葉はかけず、そう短く言って僕に笑いかける。

「それじゃあ、私が一緒に家を探してあげる」

 優しい笑顔だ。

全てを包み込んでくれる、柔らかい笑顔だ。

 でも――――。

「…………無理だよ」

 この子の落ち着きようとこの格好。まず間違いなくスラム街の人間じゃない。

 だから知らないのだ。スラム街というものを。

「この街には住所も番地も無い。区画が整備されてる訳でも無い。そのくせ無駄に広いから、一度迷子になったらもう、自分がどこに居るのかですら分かりやしないんだ」

 この子はスラム街というものを舐めている。

 この街は見覚えのある場所ですら、少し道を外れるとあっという間に難解な迷宮へと変貌するのだ。

 僕が迷ってからすでに半日以上歩き続けている。もはや、家がどっちの方角にあるのかですら全く分からない。

 もう僕は、家に帰る事なんて出来ない。

 そう、できないのだ――――。

「アレ……?」

 自分の唯一の居場所が無くなってしまった事を改めて実感したからか、全身から力が抜けていく。

 体が震えてきた。

 寒い。凍えるほど寒い。

 目の焦点も上手く合わない。

 未来が無くなった、死に等しいような感覚だ。

「大丈夫――――」

 その女の子が、僕の体を優しく包み込んだ。

 暖かくて心地よくて、とても気持ちが良い。

「君は迷子じゃない。居場所を無くしてなんかいない」

 僕の心を見透かしたかのように、女の子は言葉を紡いでいく。

「君は今、私の胸の中に居る――――」

 女の子の言葉が、僕の心に積もる絶望感を溶かしていく。

「私が、君を送り届けるからね――――」

 体を離し、僕に向かって真っすぐ目を合わせながら、その子は笑った。

 天使と見間違えるほどの、神秘的で美しい笑顔だった。

 僕はその笑顔を見て、確かに見つけたのだ。

 帰るべき場所じゃなく、果たすべき目的を、確かに見つけたのだ――――。


評価・感想よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ