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第35話:魂の宿る竹刀

「もう一本、お願いします」

 杉森すぎもりの声が、道場に響いた。剣士としての意地が彼を突き動かしていた。しゅんは無言で頷く。

 攻める。相手が動く。空いたところを、打つ。

 ただ、それだけの繰り返し。だが、杉森は迷路の中に足を踏み入れたような混乱に陥っていた。面を意識すれば小手を捉えられ、小手を守ろうとすれば面が割られる。

(なんで……、全部バレてるんだ!?)

「止め!」

 早川先生の号令がかかる。

「はぁ、はぁ……もう、何が何やら……」

 肩で息をする杉森に対し、瞬は静かに息を整えていた。

「相手を交代しろ!」

 相手が変わっても、瞬のやることは同じだった。

(攻めが効いている。相手が、僕の足に反応する……)

「瞬、緩急をつけてみろ!」

 康介こうすけの声が飛んだ。瞬の覚醒を確信した師の、さらなる導きだ。

 瞬は試す。ある時は、素早く鋭い圧を。

 またある時は、じわりと、真綿で首を絞めるような遅い圧を。

「剣先も使え!」

 面を攻める。鍔元つばもとを攻める。相手の竹刀に静かに乗り、あるいは鋭く弾く。

「一歩」という基礎に、緩急と剣先の変化が加わった瞬間、瞬の攻めは確かな広がりを見せ始めた。

(見える。相手の隙が……。ここを、打てる!)

 攻めて、崩し、打つ。熱気に満ちた道場の中で、瞬は攻めることそのものに酔い始めていた。その刹那――。

パシィィィィン!

 無心で放たれた青原中の生徒の必死な抵抗が、瞬の面を捉えた。打たれた衝撃で、我に返る。

(……あ。また、打つことばかり考えてた)

 一本を取った万能感が、一瞬で消える。見えるようになったからこそ、自分がまだ「理」に溺れていることが分かってしまったのだ。

 だが、その様子を見つめる成瀬康介は、小さく口角を上げた。

(今はそれでいい。ようやく、こっちの世界の入り口に来たな)

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