第149話:指導者の終焉と、一人の男の始まり
試合場の中央で躍動する守屋の姿を、大河内はただ、呆然と見つめていた。
かつて自分が「ゴミ」と切り捨て、見限ったはずの少年。
しかし、そこにいるのは、自分の教え子だった頃よりも遥かに鋭く――
そして何より、眩しいほどに澄み渡った剣士の姿だった。
自分ほど優れた指導者はいない。
そう傲慢に信じ、疑わなかった。
だが、自分の元を離れた門下生が、新たな師を信じ、仲間に囲まれ、あんなにも生き生きと、命を燃やして戦っている。
認めたくなかった。
認めれば、それはこれまでの自分の人生、そして虎皇館という牙城を、自ら全否定することになるからだ。
しかし、守屋が振るう一撃一撃が、嫌でも大河内の心に突き刺さる。
「未熟だったのは、俺の方か……」
守屋の才能を潰し、その心を凍りつかせていたのは、他でもない自分だったのだという冷徹な真実。
それが、大河内の誇りを静かに、だが根底から粉砕していった。
大河内の隣で出番を待っていた鷹司は、己の師の異変に、戦慄に近い衝撃を受けていた。
いつも自信に溢れ、冷徹な支配者であったはずの男の仮面が、今は剥がれ落ちている。
そこにいたのは、己の過ちを突きつけられ、途方に暮れる子供のような大河内の姿だった。
視線を試合場に戻せば、そこにはかつて自分の隣にいた守屋が立っている。
明鏡館の藍色の道着と、鮮やかな生地胴を纏い、加治屋を完膚なきまでに凌駕していた。
その背中から立ち上る、静かで、だが逃げ場のないほどの熱。
鷹司の胸に、かつて感じたことのない激しいざわつきが走る。
試合終了を告げる笛の音が、武道館の空気を切り裂いた。
「勝負あり!」
審判の宣告を待つまでもなく、加治屋の心はすでに砕け散っていた。
必死の抵抗を見せ、一本負けに留めたのが、かつて「最強」を自称した男の、精一杯の足掻きだった。
守屋は静かに礼をし、明鏡館の陣営へと戻っていく。
虎皇館へ背を向ける事に、もう迷いなど無かった。




