28…キュールとヴィカ(2)あなたが大切
「ねぇ、うちって、皇城?! あなた、この時代の皇太子ちゃんね? 見たことあるわ」
ロナルドが皇族のお辞儀を披露して応えたのだが……外から見ると一国の皇太子が犬と鶏に丁寧にお辞儀をしている不思議な絵柄だ。
「……やっぱり喋った!」
そんなことはお構いなしにウキウキと嬉しそうなロナルド。
そんな弟にやっとのことで追い付いたティアナがそっとしゃがみ込み、息を整えて2匹の目線に合わせた。
「はじめまして。お名前をうかがっても?」
ティアナがそう言うと、固まっていた犬が我に返って目をキラキラさせ、ワン! と犬らしく一鳴きした。
可愛らしくクルッとその場で一周して姿を披露している。何だか誇らしそうだ。
「私は毛先のクルクル艷やかなウェーブがチャームポイントのわんちゃん、キュールよ」
「私は、ヴィカよ。鶏ね」
ヴィカと名乗った鶏は、ココッと小さく咳払いのように鳴いて、バサバサと羽根を広げ、良い姿勢をしてみせた。
「2人ともキレイね。ボルザークはうちにいるのだけど、お2人のように動物の姿をしているわ」
「ルボロもいるし、クヨミもいるぞ。会うか?」
3人の名前を聞いて、キュールもヴィカも全身で嬉しさを表現しながらはしゃいでいる。
「話が早いわね。なら、私たちについても予想はしてるのよね?」
「私たちは……っ! ……?! 何これ、何も言えないんだけど」
ヴィカもボルザーク同様、自分たちに関すること言おうとしたのだろう、何も言えなくなっている。
「動揺してないってことは、ルボロたちもこうだったの?」
焦っているヴィカを横目に、キュールは尻尾を振りながら、目線を同じにしているティアナに聞いた。
ティアナは困ったような顔をして笑って応えた。
「あ、あの人間には気を付けるのよ!」
やっと口がきけたヴィカが、お店の方を向いて話し始めた。
「……何故かあれこれ先回りするの。私たちを見つけてここに連れてきたのも彼女。もう1人いたけど……あいつら何者かしら」
「えっ、ここに連れてきたの?!」
「どうやって……」
ティアナもロナルドも信じられないといった顔で目を合わせた。
「……皇妃と友だちだよな」
ロナルドや動物に気おされていたクロードが、やっと口を開けたようだ。
その内容に驚いたヴィカが、クロードの肩に飛び乗り羽をバサバサとしながらバランスをとった。
時折クロードの顔をはたきながら。
「身分がはっきりしてるこの国で?! やっぱりただの一般人ではなさそうね」
鶏に肩に乗られたことのないクロードは、目を白黒させて返事をするどころではなさそうだ。
そんなことには気付くことなく、ヴィカはどんどん話続ける。
「生き物を虜にするパンケーキを繰り出す技を持ってるし、よく分からない文字を駆使していたし……絶対裏で暗躍してるでしょ! 裏表がなさそうに振る舞ってるだけよ」
確かに、未知の文字の手紙を見てクロードも暗躍を疑ってしまったけれど……
クロードたちにひそひそ話をするヴィカの視線の先には、店外に出てとびきりの笑顔でお客と会話しているカリンがいる。
それを見てから、キュールが首を傾げて同意できないという顔をした。
「私は、カリンはどう見ても悪役じゃないと思うの。ただのおばさんよ?」
そう可愛く喋っているキュールから、全員がそっと後退りしている。
それを見たキュールは、よく分からないといった具合に再び首を傾げた。
後に人の気配がすると思った、その時すでに遅し……
「あら、何事? 何か聞こえたんだけど。誰がおばさんって?」
耳と尻尾を立てて驚いたキュールが、すぐさま尻尾を下ろし震えながら背後を振り返った。
「残念ねぇ、今日からパンケーキはいらないのかしら」
笑顔のカリンが、いつになく恐い。
「そんなことないわ!! 許して! パンケーキはとぉーっても食べたいわ!!!!」
キュンキュン甘え鳴きしながらカリンにすり寄っていく姿は、まるで服従している可愛い飼い犬だ。
それを見て小さなため息をついたヴィカは、キュールの背中に飛び乗った。
「私は何も言ってないから食べて良いでしょ?」
鶏の下で犬がショックを受けている。
犬の上に鶏が乗っている姿を見ると、カリンはフッと笑って「ブレーメンね」とつぶやいた。
それをヴィカが不思議そうに見上げている。
「レーメン?」
「ああ、何でも……ん? レーメン、冷麺……次は麺でも良いわね、種類も多いし。あの子は好きかしら」
腰に手を当ててブツブツと独り言を続けるカリンは、周りを気にせず懐かしむようにクスッと笑った後に少し寂しそうな顔をした。
「あの子に会いたくなってきたわ。前まで気軽に会ってたのに。元気かしら」
◆◆◆◆
「ねぇ、あなた、転生者って知ってる?」
そう発言をした1人の育ちが良さそうな少女がナイフとフォークを持ち、何やら甘い匂いのするものを頬張りなから、目を輝かせた。
目の前に立っている、それを作った同世代の少女が動揺を隠しきれず少しずつ後退している。
「やっぱり!! だって、パンケーキなんて、この世界にはなかったもの。ねぇこれからパンケーキ屋開いたら儲かりそうじゃない? 出資するからどう? ああぁぁ、勇気を出して話しかけて良かった!! 私は今はフィールド伯爵家のボタン。あなたは?」
口に含みながらも早口で怒涛のごとく喋っているボタンは、本当に嬉しそうだ。
それを聞いて、もう1人の少女は驚がくした後、諦めたように小さくため息をついてから口を開いた。
「私は下町に住んでる、カリン。ねえ、あなた、自分が何になるか知ってる?」
「ん? 知らないわよ? え、私は何か、決まっていることがあるの?」
「まぁ、そうね」
「何それ! 詳しく聞かせて」
「あー、思い出した!! でも私は全部読んだことないの。友だちがはまってて、借りてたんだけど途中で……こっちに生まれたから」
「ああ、そうだったのね」
「だから、あまり詳しくないんだけど、意外と死人が出る話もあったわよね。それは……嫌だわ」
カリンは「私も。だって最初の子は……」と小さくつぶやいたので、ボタンは困ったように笑って応えた。
「ねぇカリン、その時が来たら少しくらい私たちがやっちゃっても良いんじゃない?」
「……実は私もそう思ってた。ストーリーが変わったとて、とて、よ。きっと大丈夫よ! その時にまた一緒に考えたら良いわ」
「気持ちよく寝てるわね」
カリンが目を細めて見ているのは、ボタンが腕に抱いている子だ。
眠りながら小さな小さな手でボタンの手を握っている。
「ティア、一緒に行きましょう」
そう言って、カリンとボタンは過去へと移動し、キュールとヴィカを連れてきた。
「もし万が一バレてしまったら、転生や物語のことは伏せておかない?」
恐る恐るそう聞いてくるボタンに、安心させるかのように優しく笑ったカリンは小さな声で応えた。
「そうね……物語で運命が決まってるなんて、生きるモチベが下がるわよね。これは私たちの先読みの能力! にでもしておく?」
「ふふっ、カッコいいわね! それ良いわ。そうしましょう」
◆◆◆◆
「不安定な能力なんだけど、私と友人は先読みができるの」
ボタンと話し合った通り、カリンはティアナたちにどうしてキュールとヴィカが居るのかサックリと説明した。
「それは断片的にしか見えないから、私も詳しいことは分からずなの。私が手伝えることきっともう少ないわ。でも、もし私に聞きたいことができたら、いつでも来て。全てに答えられるか分からないけど」
3人は戸惑いながらもカリンの話に聞き入っている。
「私はあなたたちの味方よ。幸せになってほしいの」
味方という響きにホッとした顔をしたティアナ、カリンを見つめたままのロナルド、色々と考え始めていそうなクロード、三者三様の想いが動き始めたようだ。
未来が変わっている可能性が高いわね。
私たちが変えてしまったこの世界は、きっともうすでに違ったストーリーが始まっている……
「頑張って」
カリンは目を細めて、馬車で帰っていく子どもたちを優しく見送った。




