23…クヨミ(1)シタタカ
「そういえば皇帝の書室に入れたのか?」
ロナルドが目を少し大きくして、持っていた本をそっと置いて、声をかけてきたクロードの方へ振り返った。
今はまた皇族の書室でティアナとクロード、ロナルドの3人が本を読み漁っているところだ。
なかなか知りたい内容が出てこず、クロードが休憩がてらロナルドに話しかけた。
「あ? ああ……入るには入れたんだけど。古いのから読んでるんだけど、書かれている言葉が古代語でさぁ。少しずつ……まだまだかかりそうだ」
「そうか」
そんな2人の会話を聞きながら「ロンなら古代語はスラスラと読めるでしょう?」という言葉を飲み込んで、ティアナはロナルドの顔を横目でそっと見た。
それらしいことが書かれている本が見つかっていないのかしら……
ティアナがそう勘ぐっていると、ロナルドが何かを言いたそうに会話をしていなかったティアナの方へも目配せをしている。
すると、誰ともなく3人はそっと集まった。
「秘密にしてほしいんだけど……神が10人いるって書いてあったんだ」
「「10人?」」
その反応を分かっていたであろうロナルドは、静かに首を縦に動かした。
「俺たちは9人って習ってるし、世間に存在している書籍も全て9人になってるだろ?」
「穴がそうだから杯もきっと9個よ?」
「俺たちの知らない神がもう1人いるのか?」
そんな話をしていると、古くてボロボロの書籍に付いている新品のようにキラキラ輝いている石が、ふとティアナの視界に入った。
「神がもう1人……」
ティアナがそう言いながら触れると、それはまたたく間に強い光を発し始めた。
なぜこうも突然なのだろうと、3人が思う隙もないくらいに。
「ティア!」
「待っ……」
そしてお決まりのように突然場面が変わった。
ああ、待ってはくれないわよね。
……ここはどこを歩いているのかしら。
あ! 城下町の大広場に似てるわ。
ティアナがふと隣の人影に気付いた。
!!!!
お決まりのユスラになっているだろうクロードがティアナの肩を抱いて歩いている。
ユスラの反対側の隣にはビアンキになっているであろうロナルドが少し離れた街の人に手を振って挨拶をしていて、その隣にはラルフがいる。
すると、その奥の方から女性が大きく手を振りながら何の迷いもなく4人の方へ駆け寄ってきた。
「ユスラ! どこかへ行く途中? どこ行くの?」
「ああ、クヨミか」
クヨミと呼ばれた快活そうな女性がそう尋ねると、ユスラは「ちょっとそこまで」と行先を言うことなく、セリーヌの肩に置いている手に少し力を込めて進もうとした。
瞬時にクヨミから笑顔が消えて、セリーヌをにらみつけた。
「あぁ、あんた……」
それ以外は何も言わずセリーヌの前に立っている。
周りを見ると細い道でも何でもない広場なのに、どうやらユスラが肩を抱いているセリーヌにわざわざ道をあけろと無言で言っているらしい。
よそを見ていた視線はそのまま、セリーヌはゆっくりと深い深い深呼吸のようなため息を丁寧について、肩にあるユスラの手をそっと離す。
そして、クヨミへ真っ直ぐ向いた。
美人がまばたきもせず表情も作らず、ただ見つめる姿は圧迫感が半端ない。
少し経つと、パッと笑顔になった。
「あら、大丈夫? ご自由に通っていただいて結構よ?」
セリーヌはそう言うと、美しい所作で両手を広げ、余計に美しい顔で「どうぞご自由に」と強めに応えた。
そして、それはそれは美しい笑顔を披露した。
……セリーヌはそれなりに怒りを感じているわね。
全く分からないのは笑顔と美しさで隠しているからね。
ティアナはそう思いながらセリーヌになり続けている。
そんなセリーヌの姿を見て、男どもは身震いをしている。
意を決したような顔になったユスラが、一歩引いている他の2人を恨めしそうに一瞥して、セリーヌへ近付いた。
「あー、セリーヌ」
「……なぁに?」
「いや、あの、もう行こうか」
ユスラを見ると、いつものようににっこりと笑ったセリーヌ。
それを見て安心したユスラは、ため息をつきながらクヨミを一瞥し、セリーヌをエスコートして歩き始めた。
ユスラは、いやユスラだけではないかもしれないが、セリーヌが怒ることは何よりも恐ろしいことだ思っている……
女性が表に出ることがない時代だけれど、セリーヌは魔力は多くはないけれど器用に使いこなすし、どこで習ったのか剣術も長けていて、時々ユスラも押し負けるくらい強いのだ。
なので極力セリーヌには怒って欲しくないし、そうしないように細心の注意を払っている。
つまるところ、セリーヌを怒らせる存在は自らの敵となるのだ。
この中ではセリーヌが最恐で最強なのかもしれない。
「したたかさは大切よ」
セリーヌはユスラに聞こえるか聞こえないかの言葉をそっと口ずさんだ。
「ああああぁぁ、疲れた……」
3人がようやく解放されると、ソファにドカッと倒れ込むように座った。
何だか皆とても疲弊している。
「……クヨミはどうしてああなの。逆効果よ」
「クロも俺も、あの手の女は苦手だよなぁ」
それを聞いて沈黙したティアナを、2人の男は不思議そうにのぞき始めた。
ティアナは軽くため息を吐いて、下を向いたまま2人の腕をわしづかみして小声で話し始めた。
「何て単純なの……良い? セリーヌこそ恐いのよ。ああなることを、ユスラたちがクヨミをよく思わなくなることを、分かった上で、わざと言われるのを許してるみたいなんだから」
一瞬でクロードとロナルドの顔が青ざめた。
「「……こわっ」」
3人とも、その人物になっている時いつもではないけれど彼らの感情や思惑も流れ込んでくることを経験している。
セリーヌになっているティアナが言うのだから間違いない。
とりあえず満場一致で、セリーヌが1番恐いということになった。
どの世界でもどんな時でも、美人聡明な女性は怒らせないのが一番らしい。




