第十話
先輩は俺のことを天才だと思っていたらしかった。小説の実力は、葵くんの圧勝だよ、なんてよく言っていた。
しかし、たとえ俺が天才だろうと、涼花先輩の経験と習熟がいい仕事をして、獲得した賞の数は圧倒的に涼花先輩の方が多かった。
「葵くんだってそろそろ慣れてきたから、もう抜かされると思うよ」
それが涼花先輩の口癖だった。
そしてコンテストの結果が発表され、涼花先輩が受賞するたびに、「全然そんなことないじゃないですか。嘘言わないでくださいよ」なんて言って笑うのが習慣になった。
「次のコンテスト、大喜くんも作品出してくれるらしいよ」
「えっとそれって……先輩の前に部活辞めた人ですか?」
「うん。石田大喜」
「やっぱり涼花先輩は、その人の作品も好きなんですよね」
「……うん。たぶん、葵くんがわたしに抱いてるのと同じような感情」
俺が涼花先輩に抱いているのは、主に好意と尊敬。
涼花先輩が部活を辞めた――石田先輩に敬意を抱いているというのは……。
「最近話してるんですか?」
「コンテストに出してくれるように説得したときにちょっとだけ」
「先輩と話すの、嫌そうでしたか?」
「うーん、どうだろ。嬉しそうってわけでもなかったけど……」
先輩は少し不安げだった。
そんなにビビらなくてもいいのに、とは思うけれど、どうやら俺のコミュニケーションだと距離が近すぎるらしい。先輩が教えてくれた。
「お、葵くんと涼花。仲良いね、さすが涼花を連れ戻しただけある」
活動中の教室に、白先輩がようやく到着して声をかける。
「嫌々だけどね?」
「ふーん。戻らない方がよかった?」
「そんなことない。戻ってよかったよ」
涼花先輩の返事に満足したのか、白先輩は微笑して作業を始める。
「そっかあ、涼花先輩、戻ってよかったんですね」
「なににやにやしてるの。ちょっとうざいよ?」
「戻ってよかったって言ってくれて、嬉しかったのでつい」
怒ってしまったのか、涼花先輩はパソコンの画面をまっすぐ見つめて作業を始める。
俺も、締め切りを気にしてキーボードに手を置いた。




