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第46日「冬服、どうですか?」

 # # #


 ハロウィーンも無事(?)終わり、今日から11月だ。

 日本各地で、「今年もあと2か月だって」「えー、早すぎ~」「こないだ年明けたばっかりなのにねぇ」みたいな会話が繰り広げられる一日になるんだろう。


「睦月、如月……」


 セーラー服だったり園児服だったりを思い浮かべながら、順番にくちずさんでいく。


「長月、神無月……霜月、か」


「霜降りですか?」


「違うわ」


 どんなボケだよ。雑すぎる。


「わかってますよ。霜月。旧暦の11月ですよね」


「そうだ。11月だよ」


「もう11月なんですね」


「そうそう。今年もあと……」


 この調子だと、さっき思い浮かべた通りの会話になってしまう。ちょっとは変えよう。芸がないのは嫌いだ。


「コホン。あと、61日だな」


 61ってすごく素数っぽいな。11も13も17も19も割れないし、きっと素数だ。うん。

 6をかけると、366になるから、うるう年だったらちょうど、年の残りが6分の1になるのか。


「そのうち学校に行くのは……どれくらいでしょうね?」


「冬休みって、12月の21とか22とかからだろ? まだまだ、先は長いぞ」


 後輩ちゃんの誕生日、12日だっけか。テスト直前くらいの時期になるのかな。

 あとで、日程表をちゃんと確認しよう。


 * * *


「ところで、せんぱい」


 電車に乗り込むまで、何も言ってくれませんでした。

 ぜったい、気付いてると思うんですけれど。というか、せんぱいの方もかわってるわけですし。


「は?」


「なにか、ないですか。その、わたしを見て」


「はいはいかわいいかわいい」


「そ、そうじゃなくて」


 不意打ちだったので、ちょっとびっくりしましたけれど、そうじゃないです。


「はぁ。『今日の一問』です」


 11月といえば、衣替えです。10月でも、暑い日がちょくちょくあったりしますし、わたしたちの高校では11月1日に、全員が夏服から冬服になります。

 当然、わたしも例外ではありません。


「わたしの冬服、どうですか?」


 せんぱいの正面、いつもの場所で、くるんと一回転します。


「どう、って言われてもだな」


「似合ってる、とか、かわいい、とか、ないですか?」


 # # #


 全力で「褒めろ」と促されている気がする。まあ、確かにかわいいしうまく着こなしてるし似合ってはいるんだけどさ。


「あのな。変わり映えがしないんだよ」


 スカートの色は濃い紺のままで、ちょっとは生地が分厚くなっているのかもしれないけれど、見た目ではわからない。タイツ? ストッキング? をはき始めた、というわけでもない。

 上半身も、一番上に見えるのはクリーム色のカーディガンである。その下のシャツ部分というか、セーラーの本体の部分は確かに夏仕様の白から冬仕様の紺色に変わっているんだけれど、よくよく見ないとわからない。テレビでいえば、IQ100レベルの間違い探し、というくらいには変わっていない。


「まあ、見た目はそうですけど。だいぶ暖かくなりましたよ?」


 だれかさんのおかげで、と囁かれて、うっと声が出たのは、昨日のできごとを心の中で引きずっているからなのかもしれない。

 でも、まあ。


「似合ってるぞ」


「ありがとうございます♪」


 これくらいは言ってあげないといけないだろう。


 # # #


「んで、俺はどうなのさ。俺の冬服は。『今日の一問』」


 こっちは、多少は変わってるんだぞ。


「んー、いつも通りですね」


「おい。もうちょっとなんかあるだろ」


 夏が終わって、涼しくなってきた頃から着始めた紺色のセーターの上から、学校指定のブレザーを羽織っている。ボトムス、というかパンツも濃い色に変わって、夏期略装から、やっと本来の制服に戻ったような気分だ。


「なんか、全体的に暗いんですよ」


「暗い」


「髪は黒、瞳も黒、メガネも黒から紺、服もだいたい黒から紺、靴も黒。黒すぎますよ。せんぱい、桐ヶ谷ってお名前でしたっけ?」


「俺は井口慶太だ。どっかのゲーム廃人といっしょにするな」


「まあ、いいと思いますよ」


「おい」


「優等生って感じがして。すごく、それっぽいです」


 なるほどね。


「なんだ、本当は違うみたいな言い方して」


「ばれちゃいましたか」


「そりゃばれるわ」


 * * *


「それにしても、もう冬なんですね」


 窓の外をながめると、線路ぞいの木のはっぱがすっかり枯れ落ちていて、そんなことを思いました。

 せんぱいの制服に上着が加わったことも相まって、過ぎた時間の長さを思います。


「おいおい、どうしたいきなり」


 せんぱいにはじめて話しかけたのは、忘れもしない、9月14日でした。あの日は、暦の上では9月とはいえまだまだ残暑がきびしくて、真夏日だったような気がします。

 とにかく、わたしもせんぱいも、まだ半袖のシャツ一枚でした。


 それが、長袖になり、カーディガンを着るようになって。

 そしてついに、冬服になりました。


 あのころから数えて、もう、50日くらいがすぎました。

 「一日一問」として、わたしは、せんぱいについて、50コくらいのことを知れました。

 これが、100コ、200コと増えていくような、そんな未来があるのでしょうか。それとも。


「ちょっと、考えごとしてただけですよ。なんでもないです」

わたしの知ったせんぱいのこと㊻


ブレザーも羽織ると、優等生感がアップした。

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