第2幕
次の日は休日なので、街へ遊びに行こうという話になった。
オレ達は集合時間等を決め、そのまま解散となった。
帰り道。21時近く。やけに虫が鳴いている。さっき思った通り、彼らは何かを警告しているのだろうか。胸騒ぎがする。あんな殺人事件があった後だ。犯人も捕まっていない。何が起こるか解らない。用心しておこう。…これでいいんだろ、虫達よ。
家では両親がテレビを見ていた。恐らく、友人の事件についてだろう。
「まだ犯人捕まっていないってね。ユウキ、アンタも用心しときなさいよ」
「こりゃ、犯人捕まるまで学校休みだろうなぁ」
両親が言う。確かに学校は休みになるだろう。ならなかったら、オレは教育委員会に殴り込まなければならない。
色々と疲れていたので、その日は早々に寝ることにした。
翌日。朝日が眩しい。
集合時間になっても、アキノリとリクが来ない。
「どうしたんだろな、あいつら約束破るような奴じゃねぇのに」
イッキは時計を見つつそう言った。
「だよなぁ。さっきから連絡してるのに繋がらないし」
……。アダンのその言葉を聞いて妙な胸騒ぎがした。
「まぁ、アキノリは寝坊してるとして、リクはどうしたんだろな」
イッキの言うとおり、リクは早起きだ。時間にはきっちりと来る。
「昨日盛り過ぎたんじゃねーの」
アダンは冗談めかせて言うが、顔は不安そうだ。きっと、オレと同じ胸騒ぎに違いない。
「なぁ、呼びに行かないか」
オレはそう提案した。3人で行けば安全だろう。…何が安全なのかは解らんが。
「そうだな。呼びに戻るか…」
イッキがそう言ったとき、
「おーい。……はぁはぁ……すまん、遅くなった…」
アキノリが走ってきた。髪はボサボサで、目は充血し、服はしわしわだ。さっき起きて、急いで準備したのだろう。
「なぁにやってんだぁ。遅ぇぞ」
「いやー、悪い悪い」
「なんで遅れたんだよ」
と聞いてみる。
「あはは…実は寝坊して…」
やっぱりか。
「やっぱな。そうだと思ってたぜ」
アダンに言われ、少しアキノリが小さくなる。それにしても…
「…リクが来ないな」
そろそろ集合時間から30分たつ。仕方ない、お迎えに行ってやるか。かなり時間がかかるが。
それから約20分後、ようやくリクの家に着いた。呼んでみる。
「おーい、リクー」
返事はない。まだ寝てるのだろうか。
「早く来ねぇとお前の好きな人暴露すっぞー」
イッキがそう脅しをかけても、まだ来ない。
「チャイム鳴らした方がいいな」
アダンがそう言って、チャイムを鳴らした。
ぴんぽーん。
チャイムの音が、外にいるオレ達にも聞こえた。
しかし、リクは来ない。そこまで寝る奴じゃなかったと思うが。…アキノリはさっきからずっと立ったまま眠りかけている。お前は寝すぎだぞ。
その時、なぜか急に胸騒ぎがした。嫌な予感がする。なぜだろう。
「様子、見に行かないか」
オレはそう提案した。
「そうだな」
誰も反対しなかった。…これでただ寝てた、で済まされたら、オレは多分発狂するだろう。
「リクー。上がるぞー」
「お邪魔しまーす」
家主が寝ていたとしても、ちゃんとこれくらいは言う。偉いだろう。
誰かの話声がする。リクは独り暮らしのはずだ。誰と…。と思って声のする方に近づくと、声の主はテレビだった。
「付けっぱなしか。珍しいな」
アダンの言うとおり、リクは真面目だから、テレビは必ず消すようにしている。
「おい、アレ」
イッキが指差した方向を見ると、朝食らしきものが机の上に乗っていた。…ってことは…
「起きてるってことか」
「起きてた、かもな」
自分で言って、悪寒がした。何故過去形にしたんだろう。
「冷たいな…かなり時間経ってる」
なぜかしっくりとくる探偵イッキ様の言うとおり、全く手の付けられていないその朝食は、美味しく頂くには難しいくらい冷えていた。
「なんかあったんじゃねえのか」
ここでようやく誰も(アキノリは立ったまま寝てるから例外)が思い始めていたことをアダンが代弁した。
「なんか…って…なんだよ…」
イッキも'なんか'が判っているけど認めたくない、という表情で呟く。オレもなんとなくは気付いている…が、認めたくない。いや、認めることができない。
その時、オレ達は気付いた。その'なんか'を意識した瞬間に。
「…なんか、臭くねぇか」
イッキの言うとおり、悪臭がする。ここに来たときも、気にならない程度にしていた…と思う。あまり意識していなかったとはいえ、確実に臭いが強くなっている。
それに、オレはこの臭いを知っている。実際に嗅いだことはないが、前に小説で読んだことがある。
それは、だいたいこんな感じだった。
『熟れすぎた果実のように甘ったるく、吐き気を催す臭い』
この表現が表している事は……
「…行ってみるか。あっちだろ」
鼻をつまみながらアダンがそう言う。正直行きたくないが、行かなければならないだろう。
「なぁにやらかしてんだろうな、あの野郎」
イッキが悪態をつくが、顔は固まっている。多分、イッキも小説か何かで同じような表現を見たのだろう。
そしてアキノリである。こいつ、さっきからずっと半分眠ったまま着いてきてやがる。器用だな。この臭いが気にならないのだろうか。とりあえず邪魔なので、
「アキノリはこの辺にいてもらわないか」
と提案する。もちろん、通った。アキノリ、お留守番頼むぞ。
「よし…進むか」
「やべぇな。やべぇよ、まじで」
そろそろアダンも焦り始める。この状況で冷静でいられるのは、何度も現場を見てきた者だけだろう。
「この奥だろうな……開けるか。ハンカチとか持ってないか」
オレが言った。この状況で指紋を付けるのはまずい。
イッキからハンカチを借り、ノブに手を掛ける。
「…いいか」
この先の惨状を見るのは覚悟がいるだろう。
そして、既にオレはこの扉の奥の状況を理解している。アダンとイッキもだろう。
そして、ドアを開ける……
キィィィィィ………
ぶわっ、と生温い風とともに例の悪臭が襲いかかる。思わず顔を背けたくなる臭いに、オレ達は覚悟を決めた。リクがいるであろう、その場所を見る覚悟を……
そこに広がっていたのは、オレ達が想像していたものなど比べてはいけない程の惨劇であった。




