第37話 予想通りの正体
翌日。
「君は人の話を聞いていなかったのか?」
手掛かりを求めてクイナの家へとやってきたメアリーですが、はるばる城からやってきたにも関わらず、迎えるクイナの態度は冷たいにも程がありました。
「俺は誰か信頼出来て強いヤツの傍から離れるなと言ったんだが……」
「私もそうしたかったのですが、強くて信頼出来る方に心当たりがありませんの。さすがに妹の下着を盗もうとした男の方と二人っきりは怖くて……」
それというのもメアリーがクイナの忠告を無視して、一人で家を訪ねてきたからです。
ちなみに肝心のフォックスですが『下着を買いたいから着いて来ないで下さい』と言った結果、下着泥棒としての負い目か。渋い顔をしたものの一人で出掛けさせてくれました。
「……確かに。それは信用出来ないな」
(やはりシイナさんなのでしょうね)
妹という単語にピクリと反応するクイナの姿に、自分の予想への確信を深めつつ、メアリーは切り出します。
「それに、貴方は彼に何か隠し事をしているでしょう? 連れてきてしまったら、また話して貰えないかと思いまして」
わざわざクイナの忠告を無視し、一人で来てまで知りたかった事について。
「……俺がアイツに隠し事なんてする訳ないだろう」
ですが、クイナは何も知らないとばかりに頭を振りました。
「あら? ご自分の許婚に性別や正体を誤解させたまま正さないのは、隠し事には入らないのかしら」
(ごめんなさい、クイナさん)
そんなクイナにメアリーは申し訳なさと共に自分の予想をぶつけます。
その謝罪はメアリーが本当に知りたい事と直接関係があるか解らないにも関わらず、ただ何も隠していないというクイナを揺さぶる為だけにした、ほとんど意味がない言葉だったからです。
「何を言っている?」
先程と全く変わらない冷静な声で答えたクイナではありましたが――
声色以外は全くもって冷静ではありませんでした。
視線は泳ぎまくりな上に地震でも起こしたいのかというくらい貧乏揺すり。おまけに遠めでも解るくらい冷や汗を流しまくりです。
不審人物か病人として通報されても文句が言えないかもしれません。
(……解り易いにも程がありますわ)
どうしてこれでフォックスにバレなかったのか。
先程の後ろめたさすら忘れ、頭痛を覚え始めた頭をメアリーは抑えます。
「シイナさん、なのでしょう? クイン様ではなく……」
そして絶対に近い確信と共にクイナへと尋ねました。
「……やれやれ」
短い、溜息にも似た呟き。
「まさか知り合いでもなかった相手が気付いてくれるとは思わなかったな。お察しの通り。俺は昔、シイナという名前の女だった。クインという名前の双子の兄を持つ、な」
果たして、皮肉気な微笑を浮かべて、クイナはメアリーの言葉を認めました。
「彼に正体を明かす気はありませんの? 彼は貴女が死んだと思い込んでいますわよ」
「……ああ。他のヤツにならともかくアイツの前だけは、俺はクイナでないといけない」
メアリーの言葉に苦々しげにクイナは答えます。
あまりの暗い声に、それが本音でないのは昨日出会ったばかりのメアリーにすら解りました。
「どうしてです? わざわざ正体を隠して、一体誰に何の得が――」
「兄は俺の身代わりになって死んだ」
短いながらも重い意味を持った言葉がメアリーの質問の声を断ち切ります。
「俺は、ある男に身体を弄ばれる事が決まっていた。それが一晩か一生になるかは解らなかったが、どちらにせよアイツの元に顔なんて出せなくなっていただろう」
黙ってしまったメアリーを尻目に、淡々とした様子で言葉を紡ぐクイナ。
その内容は同じ女性であるメアリーの口を、更に開き難くさせるほどに壮絶で悲惨なものでした。
「そんな俺の代わりに男の所へ行き、兄は殺されたんだ」
再び口にされた言葉は不意打ち気味に放たれた先程よりも確かな重さをもって、メアリーの心に圧し掛かります。
(わ、私は何という事を……)
その重さを自覚した瞬間、メアリーは目から涙が零れ出すのを止められませんでした。
義父の死の真相は確かに重要であり、手段を選ぶ気は今もメアリーにはありません。
ですが、手段を選ばないのと周りを巻き込んだり傷付けたりするのは別問題だという事に今更ながらに気付いたのです。
いくら手掛かりが何もなかったとはいえ、全く関係のなさそうな事で誰かを傷付けていい筈なんてなかったのに。
「泣かれても困るんだがな。泣きたいのも何か言いたいのも俺の方なんだから」
隠していた秘密や過去を暴かれ、トラウマになっていてもおかしくない記憶を呼び覚まされたというのに、クイナの声はおどけた調子でメアリーに話し掛けます。
「……申し訳ありません」
それというのも、急に元気をなくしたメアリーの姿を見て、何だか逆に不憫に思えたからでした。
「やれやれ、これじゃあ俺が虐めているみたいじゃないか」
あまりにメアリーが申し訳なさそうにしているからでしょう。
ふうっとクイナは一つ溜息を吐いて、まるで全く関係無い事でも話すかのような軽い調子で自分達の過去を語り始めます。




