表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
761/1085

フルン26歳、晩夏。〜新たな噂〜

「金満夫人が荒れているらしいな」


「へえ」


「何も知らないのか?彼女、お前のパトロネスだろう?」


「ぼくは何も」


 まったくの無関係無関心だと言わんばかりに短く答えると、幾つもの夜会で顔を合わせている程度の知人、本人の曰く「ぼくの友人」であるところの男は詰まらなそうに当たり障りのない世間話を少し交わして去って行った。“金満夫人”とは何時ぞやぼくに薬を盛った遣り手銀行家の女性の蔑称だ。一度は徐々に距離を置こうと考えたけれど、とある理由からつい最近、きちんと別れを告げたのだった。


「フルン、久しいな」


「久し振りだねラデュレ。今日は一人?」


「ああ」


 表情も声も普段より僅かに硬いのは、彼の初恋の女性でありその身に2人めの愛の結晶を宿しているキエフルシ公爵夫人の体調が優れない為か。それともこのところ薄く浅く悪意を持って広まる兆しを見せている彼の妹に纏わる噂の所為か。何れにせよ、準王族である彼が夜会という衆目の前で心の内を漏らすとは思えない。

 以前のぼくなら気付いていても知らない振りで時を過ごしていたけれど、ラデュレはナウルの友人で、その妻子はマドレーヌの大切なお姉様と弟分。本人が望むのなら手を貸さない理由はない。


「最近、非常に興味深い話を聞いてね。きっとラデュレも気に入るだろうと思うよ」


「ほう?というと」


「ぼくの、物語上の兄の英雄譚さ」


 *****


 政治やビジネスの話が飛び交うシガー・ルームの片隅。ラデュレは口を固く引き結び、押し黙っている。端からは難しい案件に思案を巡らせているように見えるだろうけれど、彼はただ、笑い声が漏れるのを必死で耐えているのだと、ぼくは知っている。


「…成る程な」


 心の内に吹き荒れていただろう笑いの嵐が収まったか、ラデュレは漸く口を開き、重々しく言った。けれど言葉の重さとは裏腹にラデュレの顔は幾分か和らいでいて、胸中の憂いを一時だけでも晴らせたようだ。



「まったく、私は世間というものを知った気でいたのだと、つくづく思い知った。時に、正攻法こそが相手への最も有効な対抗措置となるとは」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ