マドレーヌ14歳、晩夏。~授与式〜
「………」
「………」
「………」
義兄と従兄と3人無言で見つめる先、コメルシー家の団欒室に存在しない玉座と上等な赤絨毯の幻影が見え隠れする。
養父ポルミエは普通に礼を言って受け取ってくれたが、スヴァーヴァを女神と崇める教信者2人は、より正確に言うなら養母マリーが膝をつき額ずいたのに倣った父へルギという時系列ではあるが、とにかく仰々しく待つ2人に「苦しゅうない」とでも言いそうな表情のスヴァーヴァがペンダントを首にかけている。喩えるならばそう、ナポレオンと皇后ジョゼフィーヌの戴冠式である。
「あれ?叔父様の鳥は…、鷹?」
仕草だけ見れば格式高そうな一連の儀式を終え、喜色満面、妻に抱きつくヘルギの胸元に光る他よりも大振りの鳥にいち早く気付いたのはフルンだ。
「鷲です。小鳥型のは石を一つしか嵌められないらしくて、鳥モチーフの中で石を2つ入れられるものが鷲だったので」
「ヘルギさんのことだから、赤とピンクで散々悩んだんだな?」
「そうなの。母さんから貰うんだから赤でいいのに」
「元々、ヘルギさんにとってはマディそのものがスヴァさんからの贈り物の筆頭だからな」
「ああ、だから…」
今度はヘルギからスヴァーヴァへ、鷲モチーフの髪飾りが贈られ赤い髪に飾られる。その目に輝くのはイエローとピンクのダイヤモンド。
「「マディ、おいで」」
「はーい」
そして、両親の手でピンク色の髪を飾るはイエローダイヤモンドとルビーの眼を持つ、若干やんちゃな感じさえある厳つい鳥だ。成人男性相応の身長はある父とは違い小柄な母娘に鷲のペンダントは存在感があり過ぎた。その為、急遽髪飾りに加工して貰ったのだった。小鳥の群れに3羽の鷲。どう考えても捕食者と非捕食者である。物騒極まりない。
「これが子供達の分な」
「「わあ!」」
「一つひとつ形が違うから、話し合いで決めよう!ダル義兄さまもフルンお兄ちゃんもそれで良いでしょう?」
「ぼくのもあるの?」
「勿論!聞いたぞー、夢の仲良し兄妹の噂」
「お出掛け中に母さんの耳に入ってね。それでほら、石が全部…」
「ピンクなわけか」
「ダルとフルンだけじゃガレットやデロワやダクスが拗ねるだろー?」
姿こそ違えどピンクダイヤモンドが嵌め込まれた小鳥のペンダント。成人男性には可愛らしいにも程があるのだが、ノリノリなスヴァーヴァを見て拒否権は無いと悟ったか諦めたか、男2人もテーブルに並べたペンダントをまじまじ見つめる。胸に宝石を輝かせ今にも飛び立とうとする小鳥、嘴に宝石付きの小枝を咥えて飛ぶ小鳥、左向きや右向きの小鳥、ぷっくりした姿の小鳥。どれを選んでもまあまあ愛らしくなってしまう。よって。
「俺らは最後でいい」
「そうそう。皆、好きなの選んで」
「ガレットは右向いてるのがいい!」
「デロワは左向きのにする!」
「この、まあるい鳥、なんだかとっても可愛い」
消去法で選ぶことに決めた男2人を余所に順調に持ち主が決まる。きらきらした眼差しの意図を察して順番に着けてやればガレットとデロワの小鳥はちょうどお互いを向き合う形になり、2人もそれを狙ったようで、ニコニコ笑っている。ダコワーズも、ぷっくりまん丸な鳥に無意識のうちに何かを重ねているのか、そっと手のひらに乗せて見つめている。
「んで、この2つ、どうするんだ?」
「「ぅ………」」
時間稼ぎしただけで、結局はどちらかを所有しなくてはこの場は終わらない。男2人の反応を面白がるスヴァーヴァに対して、ヘルギは「どちらも素晴らしいのだから悩んで当然」とばかりにうんうん頷いている。母方祖父の曰く「世間知らずの娘に輪をかけて世間知のない婿」の本領発揮である。普通に聞けば一人娘の夫への悪口みたいに聞こえるが、何よりもその点が気に入ったというのだから評価の物差しは人それぞれである。
「じゃあ、じゃんけんで決めよ!はい、2人とも手を出して!最初はグー!」




