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マドレーヌ14歳、晩夏。~スュトラッチ家の伝承〜

「要は、遠い遠い昔に仲間割れしたのを未だ一方的に引き摺ってるっていう理解で合ってます?」


「お祖父様の話を単純化するとそういうことになるけれど…」


 王宮の、王家の私邸がある棟の応接室。代々後嗣のみが受け継いできた伝承を、後嗣カザンディビ以外にも伝えて良いものかを問う文を伯父が出したら前当主が返事と共に現れた。本人が来るならその手にある許諾の文の意味は?とも思うのだが、それはさておき。

 祖父がそのまた父親から伝え聞いた昔話によると、スュトラッチ家の初代と東国サンクロワで最も大きな教会の始祖となった人物はかつて医師仲間だったが方向性の違いから袂を分かった。東国の自称王子の態度から察するに、それを相手方は大昔から今に至る迄ずーっと長いこと怨みに思っているのでは?というのだが。


「なんでフルンお兄ちゃんなんです?」


 サンクロワの王子は診察中、医師で家長の伯父ではなく次男で通訳に過ぎないフルンをギロッと睨み付けて呪詛を吐いていた。たしか東国の教会の主神は医薬の神で、彼の国の医薬を司る神官が調合するのは呪術と医学を混合させた黒魔術師が如き薬。効果を高める為に成分のばらつきや不純物を極力排除しようと試みるスュトラッチ家の祖先と医者仲間だったとは思えない。

 あ、これが方向性の違いか。なるほど相容れない筈だ。暫く会わないうちに昔馴染みがトンデモ系陰謀論者になっていた、なんて悲劇を現世でも味わう羽目になるとは。


「中央教会にある神像、あれは我が家の伝承では初代スュトラッチの姿とされています」


「え?でもあれ、あの像って昔の国王の姿だって、父さんから聞きましたけど」


「それも間違いではないのです。ヴァレンティーノ王が臣籍降下し、与えられたのがスュトラッチの姓と広大な北の領地です」


「一国の王が、ですか?王子とかでなく?」


「伝に拠ればスュトラッチの姓を賜ったのは彼ですが、医薬者としてのスュトラッチ家の初代は彼の妻。国王の配偶者となれば重責を担う事になり、それでは妻の仕事に差し障りがあるからと玉座を弟に譲り退位したそうです」


「へぇ、医薬師スュトラッチの始まりは女医さんだったんですね。へぇ……女医、と、医師仲間、と、王様と…」


 中央教会に鎮座する神像と似た顔立ちをした下の従兄を見遣れば視線が打つかる。どうやら同じ可能性に行き着いたと見える。


「いちおう確認ですが、サンクロワ国で力を持つ教会の始祖は…」


「男だね」


「で、すよねぇ」


 袂を分かったのは、方向性の違いだけではないかもしれない。なんというか、サンカクカンケイの末の痴情のもつれ、とか、横恋慕の末の逆恨み、というような…、とてもとても個人的な事情が。いや、まさかな。



「ともあれ、原因が明らかになってすっきりしました。ありがとうございます。やっぱり今日は厄落とししましょうね!」



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