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マドレーヌ14歳、夏。~忠犬〜

「チューイ!」


「アォン!」


 コメルシー家の王都邸。広い庭に、誇り高く勇敢な森林の惑星の民の名を付けられた筋骨隆々な犬が駆ける。なお、他の候補は「骨」「ザッシュ」「ワン公」だった。それぞれ、カリソン、ダルドワーズ、ダダールの提案である。


「すっかり忠犬ですのね」


「スヴァさんとマドレーヌちゃんのお陰ですわ」


「ダダールさん家が居心地良いからだよ!ね~?」


「ワンッ!」


「賢いなー!いい子だなー!」


 母娘2人、大きい犬をわっしゅわっしゅと力強く撫でていると、心に溜まった澱みたいなものが溶けていく。究極の癒やしがここにいる。


「お養母様、ルピスさん。チューイとお散歩に」

「なりません」


「はあい」


 声は穏やかだが目の笑っていない笑顔の養母にすかさず返され気落ちしていると、過去に同じ思いをしたのだろう母から、ぽんぽん頭を撫でられる。

 研究発表会の見学時、いきなり喋った護衛の大きめな声に“驚いた”のが、各人が搭載する過保護フィルターによって“怯えた”に誤変換。それが一向に修正されないまま家族に伝わり、ここしばらくは深窓のご令嬢よろしく、家の敷地内から一歩も出られない日々を過ごしている。外はいい天気で、取り立ててやることもなく、週末には露天市も立っていると知っている分、いつもの軟禁よりも辛さが増すものだ。


「ナッツとか葡萄が出回ってる頃なのに…」


「姉さん、それはわたしが後で買ってくるわね」


 将来を見据えて職業訓練中のダコワーズも家主の言い付けをよく守って、側を離れようとせず、隣に座ろうともせず、常に背後に控える始末。メイド見習い中とはいえ、やり過ぎだ。


「ルピスさん。どうも」


「あら、カリソンくん。泊まり番だったのね、お疲れ様」


 泊まり番が明けると、カリソンは単身寮で仮眠を取ってからコメルシー家へやって来る。夜間は警備がてら常にどちらかがコメルシー家に詰めるように2人で相談して勤務予定を組んでいるらしく、入れ違いになることもしばしば。今日はダルドワーズは日勤でコメルシー夫妻も夜は予定がないらしく、全員揃っての夕食だ。


「おー。お疲れ、カリソン」

「おかえりなさい、カリソンさん」


「ただいま、スヴァさん、マドレーヌちゃん。これ、昨日の夜飯で余った骨」


「キャン!」


 炎や煙が出にくいせいか、奥庭での炭火焼きは上役にバレた以降も恙無く続いているようで、骨付き肉を仕入れた日などは残った骨をダダールがよく持ち帰るらしい。ハッハッハと息も荒く、ぺたんと座って期待に目を輝かせるチューイには、狂暴さの欠片もない。


「あの…さ、ヘルギさんは」


「秘密基地で読書してるだけだから、大丈夫だよ」


 根を詰めて実験やら開発やらをしている時は、妻と娘以外は接触禁止。気付かずに長時間放置なら幸運な方で、下手すれば邪魔者扱いでお仕置きされる。


「そっ、か」


「呼んで来よっか?」


「いや、あー、そうだな。お願いしようかな」


「わかった。ちょっと待ってて」


 前足で器用に骨を掴んでガリガリ喰らうチューイの頭をひと撫でして立ち上がれば、カリソンは「あのさ」と頭を掻き掻き、モニャモニャと口を動かしている。

 言いにくそうな態度に不審に思いつつ近づけば、顔を近づけそぉっと囁かれる。耳元でないのは、長年の付き合いの賜物だ。


「マドレーヌちゃん、さ」


「うん?」


「例えばな?例えばだけど、できればいいお家に、お嫁にいきたいな〜とか、思ったりする?」


「ううん、全然。むしろ嫌かな。なんか大変そうだし」


「そっか。そうだよな。よし」


「カリソンさん?」


「いやあ、何でもない。さ、ヘルギさんのところに行こうか」


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