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フュルギエ50歳、夏。〜神託〜

 教会の鐘が高らかに鳴り響き、時を告げる。


「大司教様、そろそろ休憩に入られてください」


「ああ、もうそんな時間ですか」


 定刻通り始まっていたならば、研究発表会も小休憩の時間だ。少しばかり、父や弟に憾まれていそうだけれど、もう片方の弟にも、年長者として手を差し伸べてやらねば。



 ―どうか。今日の再会が、喜びとなるように。



 いつもより青く澄んだ空に、祈った。


 *****


「掛けまくも畏き大神より、神の御子の下界に下り給いし由、御託宣を賜りました」


 授かった神託を、淀みなく王家に報告する。女神が人の子として降臨するというお告げは本物だが、それ以外は殆どすべてが、長年の経験から練り上げた作り話だ。女神から授かったのに相違ないが、それは大司教に下されたものではないし、授かりし場所も教会の一室でも他の“聖なる地”でも、勿論ない。


『そっか!メティお姉様のところと、マーシャお姉様のところと、ゆめちゃんの親戚の子と。同年代の女の子3人なんですね~。見てるだけで可愛い決定ですよぉ〜』


 デライト侯爵から神託があったと極秘の遣いがあり、慌てて馳せ参じれば、ピザやオコノミヤキという丸い形状の料理や白き野菜や、珍しい料理の数々をご馳走になり、その雑談の合間に頬をほんのり赤らめニマニマ笑いながらそう言ったのだ。


「ゆめちゃんって、マディの友達の女神()だな」


「うん!初めてのお友達だよ」


「お友達、ですか?」


「どうにも相性が良いらしくてな。ほら、鏡の」


「ああ、あの」


 同じく巫女であり姪の母である義妹の説明で、“ゆめちゃん”というのが冥府の女神で、冥府の女神の係累にあたる女神が人の子の形をとって人間界に降りてくる。と、理解するまで少々の時間がかかり、その倍以上の時間を掛けて、辻褄が合う、万人が好みそうな、物語づくりに腐心した。


「そうか。報告、大儀であった。褒美を取らす」


 拝謁した陛下に招かれた先は国王の私室で、彼はゆったりと椅子に座り、長い息を吐いた。


「その…、弟君は、息災で、あったか?」


 護衛もすべて周囲から遠のけ人払いをして、やっと絞り出した声で、この国で最も尊き存在は言った。それは、苦しみも悲しみも喜びすらも表に出してはならない立場を生まれながらに与えられた彼の、精一杯の感情のあらわし方だったろう。


「ええ、とても。彼は昔の彼ではなく、幸福の中に、在るようです」


「そうか」


 安堵と申し訳無さと罪悪感と。そのどれもが、当時まだ力なき存在であった彼が負う謂われのない感情(もの)である筈なのに。大人たちの思惑に巻き込まれた被害者であるが、加害者の家族でもあるのだ。彼もまた親の罪を負うて、生きてきたのか。


「会って、みますか?」


「それは。だが、しかし…」


「遠目に見ているだけならば、咎め立てはしないでしょう」


「不愉快では、なかろうか」


「あれは、今のあれならば、きっと」




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