ナウル・デライト26歳、夏。~裏切り者~
病人の移送は第三部隊と各部隊から志願した有志が、その他は数人の小隊に分かれて要所要所に配備されて野盗などから一行を守護する。
――筈だった。
「なん……だと…?」
とある疑念から急ぎ人を遣わせ調べれば、警備隊が実際に居るのは地図に記載のある地点の半分以下。それも、王都に近く比較的安全だろう場所には予定通り配備され、王都から離れるに従って減少している。
「この周辺は、過去、野盗被害がたびたび報告されています!」
「ここには身を隠せるだけの茂みがあると報告が!」
「報告が来ました!この地点も警備不在とのことです!」
広げた地図を囲んで、秘書官が慌ただしく走り回る。旧王国軍廠舎、『静謐な祈りの館』と名を変えた貧民収容施設までの街道から遣いが戻り報告があがる度、彼らの顔色が失われていく。
もしも、もしも。この疫病が、人為的に発生したものであれば。その人間にとって、病人の移送は予想外であったろう。己の計画の邪魔であろう。道中警備の数を減らしたのが病人の移送を妨害したい何者かの手引きであるならば、その者は軍内で大きな発言力や決定権を持つ人物で、計画の委細を知り得る立場に居る者で。つまり。
―裏切り者は、ごく身近に居た!
比較的軽症な者は馬車に、重病人は荷車に乗せ、一行はゆっくり進行している。いかな実戦経験豊富な軍人といえど、多数の病人を抱えた状態で、武器を携えた集団に一斉に襲い掛かられれば無傷では済むまい。より悪意を持って考えれば、軍を挙げての一大事業が失敗に終われば元帥の求心力低下に繋がる。それを狙ったのならば、壊滅的な被害が出た方が、都合が良い。
いずれにしても、移送隊は大変な危険に晒されている。
「ダルドワーズ!!」
約束を取り付ける余裕もなく西棟の最奥、重い扉を開けたナウルは目の前に広がる光景に息を飲み、心臓が強く激しく脈打ち全身が震えるのを感じた。
「何故、此処に……」




