マドレーヌ14歳、夏。~最終兵器〜
「ふっふっふ!コレの魔力に勝てるかしら?」
テーブルを退けて空いた空間に櫓状に組んだ木枠を配置。中に火鉢を入れて布団をばさっと掛け、天板を乗せてお菓子を詰めた籠とお茶をセッティング。カウチソファに父と母を並べて座らせる。
「「マディ??」」
「これはね、一度中に入ると動けなくなっちゃう恐ろしい兵器なの!」
困惑気味の実両親に、ない胸を大きく張ってビシィっと一言。そう、これは、ありとあらゆる抵抗も強靭な意志さえも無にする最終兵器――。
炬燵。
家業の手伝いと家庭学習だけの毎日に暇を持て余し、更に諸々の事情も相まって、ダメ人間製造機を生み出してしまった。
「ささ。ズズズィっと足を入れてみてよ」
「あ〜、なるほどこれは良いなぁ」
「あ。足元からじんわり温める装置なんだね」
予想通り両親も気に入ったようで、特に母は布団を引っ張り上げてもぞもぞ潜り込もうとしている。異世界だろうと炬燵のあるところ何処にでも「こたつむり」は棲息するようだ。
「あったかいな〜。しばらく見てないおひさまみたいだ〜」
そう、開発に至るきっかけこそが外でしとしとしとしと降る長い雨と寒さである。
恒温動物である人間にとって、寒さは死に直結する。肉体が危機に晒され続ければ心の不安感も増大してしまう。体温を上げれば気分も上がり、父の目の下の隈も薄くなるのではなかろうか。そんなわけで思い浮かんだのが炬燵だった。「炬燵で蜜柑」は無理だったけれど、「炬燵でおやつ」もなかなかの堕落感がある。
「マディもおいで?」
「うん!」
招かれるまま仔犬か仔猫のように父と母の間に挟まって、ぽかぽか暖かい布団の中に足を入れれば、もうイチコロだ。出られない、出たくない。出なくていい。ずっとここで暮らしたい。
「あ〜………」
「真っ先に寝た」
「寝ちゃったね」
すやすや眠る娘を見守る両親の顔に、笑みはない。
元気そうに見えて、実に元気いっぱいに日々を楽しそうに過ごしている娘が、いつか突然に生命の鼓動を停止させてしまうと想像すれば恐ろしく、直に温もりを感じて束の間の安堵を手に入れる。このひと月以上、夫婦はそうやって過ごしてきた。
運動と酒に酔って多少なり憂さを晴らせるスヴァーヴァはまだしも、運動が全く駄目で酒にも薬にも耐性のあるヘルギはすっかり参っていて、眠りは浅く、漸く眠りについてもガバリと飛び起きる事すらある。
「動いてたのが、動かなくなって」
規則正しく上下する胸に、手を当てて。
「温かかったのが、冷たくなって」
朱色の頬に自分の頬を擦り寄せて。
「柔らかかったのが、かたくなって」
涙を落としながら娘をぎゅうっと抱き締めるヘルギを、娘ごとスヴァーヴァが抱きしめる。
「マディは」
「…うん」
「そうとう強い」
「…うん」
「わたし達の娘だもの」
「うん」
小雨の降る、寒い夏。
即席の炬燵に親子三人がぴったり身を寄せ合って、3つの寝息が重なった。




