ヘルギ40歳、夏。~積みゆく罪〜
「しかし、使用人の質が落ちたね」
青カビの生えたパンを長い指で弄び、ヘルギは呆れたように言う。わざわざ湿らせた上で日の当たる場所に置き、カビを生えさせたらしい。家探しで見つけたコレで罪は2つめ。
「長らく教育係が不在でしたからね、使用人が増長しています」
父は父で、腹痛を起こす軽い毒の原料となる薬木の引き出しに金属粉末を塗布してパタパタと刷毛を動かしてゆく。はい、これで罪は3つめ。
「使用人の分際で主家の許しも得ず不当に高い役職に己の愛人を就けたのですから、背任の罪は免れません」
娘をフルンのお手付きにしようとしたメイド長は、例のヘルゲート少年の信奉者の古い愛人だった。元侯爵家で王女の降嫁もある由緒正しき家ならば、上級使用人は貴族家の出身者がなるのが常識。けれど今のメイド長は平民の出で、その働きぶりは茶の一杯も満足に淹れられないほど酷いものだ。
「この領の実質的な支配者に色々と許されてきた事で、自身らが罰せられるとは考えていないのでしょうね。他の使用人も、果たして、我が家に相応しい者は何人残るものか」
甥のカザンディビは使用人の経歴書の束から、娘マドレーヌが側に居ることを許した者の分を抜き取っていく。また別の山には、メイド長ら既に処分すべきと判断した者の分を重ねて。あの無駄に煌びやかなドレスを運んできた者も、この山に積んである。端から権利のない高級品を、唯一の女孫に受け継がれる正当な品々を、我が物のように扱う使用人なぞ置いてはおけない。
媚薬の件がなくても、ここの使用人は罪を重ね過ぎた。その罰はきちんと償わなくては。
「ちょうど、効果を試したい薬があったな」
「ほう?」
妻と娘を取り巻く環境を改善する為の、愛する家族には秘密の、お薬。その完成に一役買えるのなら、スュトラッチ家の使用人ならば、泣いて喜ぶことだろう。
「差し当たり、この辺がいいかな」
甥の選り分けた経歴書の山から数枚抜き取る。薬の効果を正確に知るためには、被験者は無作為に選ぶ方がいい。
「叔父様が新たに開発されたのは、どのような薬なのですか?」
「激しい苦しみが長く続く、けれど決して死なない、神の慈悲を求めたくなる薬。かな」




