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ミラベル14歳、冬。~天国で地獄〜

 ミラベル・ファーブルトンは戦慄した。

 初めて訪れたマドレーヌの家は、平凡に生きてきたミラベルの手には負えるものでなかった。なぜなら――。


「顔面偏差値が高いわ…」



 まず。出迎えてくれた従者、ケルノン。

 線の細い中性的な顔立ちで、青い髪と柔和な笑顔が印象的な美青年だ。従者だから当然といえば当然なのだが、気の利く性格で細々と世話を焼いてくれる。「理想のお兄ちゃん」が具現化してこの世に生まれ落ちていたとは。


「お嬢様、ファーブルトン様。お寒かったでしょう?ミルクティーをご用意致しました。どうぞ、春のはちみつを加えてお飲みください」



 西の民、ロクマ。

 彫りの深いエキゾチックな雰囲気に勇ましい精悍な顔立ち。光沢のある黒髪を後ろに束ね、ほどよく鍛えられた肉体から生まれるしなやかな身のこなしが優美だ。西の民の風習らしく、女性に対して敬意を持って接してくれる。


「マドレーヌ、の、トモダチ?よろしク」


 淑女の礼で挨拶をしていると、エントランスホールがにわかに騒がしくなる。


「お邪魔するよ」


「あら。ポルックス様、ご機嫌よう」


「お偉いさんが無駄に嵌りたがって打ち合わせが進まんから連れて来た」


「ポルックス様、ダル義兄さま。こちら、ミラベル・ファーブルトン様。学院で親しくしていただいてるの」


「ポルックス・テュンダです。どうぞお見知り置きを」


「妹がいつも世話になっている。何かと騒がしい奴だが、呆れずに付き合ってほしい」


 垂れ目の優しい美青年と眼力鋭く威圧感がある大男が現れた。美青年の方は涼しげな目元をしていて、笑うとめちゃくちゃ可愛くなる。厳ついほうも一分の隙なく鍛えまくった肉体と威厳溢れた相貌によって近寄り難い雰囲気だが、造形そのものは悪くない。ふむ。


 そうこうしていると、


「あれ?ファーブルトンさん」


「スュトラッチ先生――ッ?!」


「おかえりなさい。今日のケルノンさんチョイスはハニーミルクティーです」


「ぼくもいただきたいな」


 極め付けとばかりに、キラキラ眩すぎて直視できない国宝級イケメンのフルン・スュトラッチがなぜか普通な顔でいる。そしてなぜか同じ部屋でお茶を飲んでいる。


「なんなの、この家は」


 あらゆる種類のイケメンの見本市。

 目の保養が普通に目の前を通り過ぎるし、なんならこちらを向いて話しかけてもくる。より取り見取りな状況は嬉しい反面、ドキドキが止まず心臓に悪すぎる。ここまで来れば保養どころではなく、目の毒だ。

 息をつかせぬイケメンの連打に酸欠状態のミラベルは頭もくらくら、ふらふらと椅子にもたれた。


「ミラベル様、ご気分が優れないのなら休んでいってくださいね」


 起き抜けの頭と目にこれらのイケメンを焼き付けろというのか。刺激が強すぎて即死するに違いない。ああ、でも、それも良いかもしれない。だいぶ思考能力が低下しているミラベルは、うっかりコメルシー家を最期の地に決めかけた。


「あぁ!これ以上ここにいると危険だわ!

 マドレーヌ様、本日はお招きくださってありがとうございます。わたし、そろそろ」


「ああ、もうそんな時間ですか。お引き止めしてごめんなさい。うちの馬車でお送りしますから」


「では。わたくしとケルノンがお役目を承ります」


「はい、お願いしますね。マーサ、ケルノン」


「いえいえ!そんなご迷惑をおかけするわけには!」


「お嬢様の大切なご学友ですから、ご遠慮なさらず。さあ、どうぞ」


 ケルノンにエスコートされ、同じ馬車に揺られ。

 ファーブルトン家に戻ったミラベルは夕食も摂らず、着替えもそこそこにベッドにバタンと倒れ込んだ。



「たいへんな目に遭ったわ……」



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