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 ついに京介たちと遊ぶ約束をしていた日となった。


 現時刻は十時半、集合の三十分前。太陽はもう高くなっており、十分に暑い。集合場所に着いた時点でユウキの服は少しだけ汗に滲んでしまっていた。集合場所は駅前のモニュメントの前。それは一般人にはとても芸術とは思えないようなデザインであった。

 早く着きすぎてしまったかな、とユウキは思ったがどうやらすでに到着している人物がいるらしい。


「やあ浩司、早いね」

 改札前に設置された奇妙な像のすぐそばに浩司はいた。

「おう、ユウキも早いな」


 浩司は白いTシャツにブルージーンズ、そして白いバスケットスニーカーと極めてシンプルな格好をしていた。しかし彼の立派な体格がその単純な服装をとても魅力的なものにしていた。その姿はさながら海外俳優のようでもあった。


「みんなで遊びに行くって思ったら落ち着かなくてね。だから思い切って家から出てきたんだよ。それにしてもなんで浩司はこんなに早く? 緊張してっていうようにはどう考えても思えないけど」

「俺か? 俺は走ってたら少し早く着いちまっただけだ。ふっ、また一歩最強の男に近づいてしまったようだな」

 よく見ると彼の額にはうっすらと汗が浮かんでいた。その姿は汗一つかいていない時よりも浩司に似合っているように思えた。

「あれ、確か浩司の最寄りってここから七つ先の駅だよね?」

「おう、そうだが」

「それを走ってきたと?」

「おう、そうだが」

「なんか運動量と汗の量が見合ってなくない?」

「このくらい朝の散歩みたいなもんだ。それに、さすがに汗まみれで友人と遊ぶなんてしねーよ」

 浩司は豪快に笑って言った。

 何もかも規格外だな、とユウキは思った。


「あっ、ユウキくんはっけーん!」

「浩司とユウキは先に着いていたか」

 二十分程して京介と絵美がやってきた。彼らはどうやら同じ電車に乗ってきたらしい。

「二人ともおはよう」

「おはよーさんだ」

「おっはよ、ユウキくん、浩司くん」

「うむ、おはよう」

 皆それぞれのやり方で挨拶をする。


 すると京介が到着早々ユウキたちをじっくり見回した。

「どうかした? 京介?」

 ユウキは疑問を彼にぶつける。

「いや皆の私服姿が新鮮だな、と。あれだけ毎日顔を合わせているというのに不思議なものだな」

 京介は少し照れたように言った。


「確かにそうかも。二人とも意外と私服姿格好良いね!」

「前野君、ちなみにその二人とは俺と浩司のことなのか……?」

「えっ、それ以外に誰がいるの?」

 絵美は、こいつは一体何を当たり前のことを言っているのだろうという目で京介のことを見ていた。

「いや、まさか褒められるとは思っていなかったものでな」

「ひっどーい。わたしだってちゃんと褒める時は褒めるんだからね!」


 こういういつも通りで定番のノリみたいなのって良いな、とユウキは思った。なぜなら絵美が仲間と戯れ合いながら微笑むその姿はかつてのユウキの想像に到底及ばないものであったのだから。


「うん、でも二人とも良く似合ってるよ。正直格好良い。浩司はシンプルな服が体格の良さで映えてるし、京介も黙っていればただのイケメンって感じだし」

「おい褒められたのは嬉しいが何だか釈然とせんな!」

「絵美はいつもと違う感じだね」

 ユウキは京介の抗議を無視して絵美へと視線を移した。

「やっぱりわかる?」

「わかるよ」


 絵美はギンガムチェックのシャツにデニムのショートパンツ、紺色のデッキスニーカーに革のショルダーバッグという出で立ちだ。

 いつもはどちらかというとフリルのついた女の子らしいデザインの服を着ている。一方で今日の服装はユウキに快活な印象を与えた。


「今日はデートじゃないから動きやすさを重視してみたの」

 絵美はその場でくるりと一周回った。

「そうなんだ」

「実は、普段はこういう服装をしてることの方が多いんだけどね」

 そういうと舌を短く出して、えへへと笑った。

 ということは、絵美はいつもぼくのために特別な格好をしてくれているんだ。ユウキはしばらく頬が緩むのを抑えるのに苦労した。


「うわぁ、久しぶりに来たけど相変わらず大きいね」

 ユウキたちが遊びの場として訪れたのは大型の複合商業施設だ。服屋から輸入雑貨店、映画館、スーパーマーケットとおよそ必要なものは一通り揃っている。

 このショッピングセンターはユウキたちが通う慶立学園から三駅のところにあるため、帰宅部の慶立生がこぞって訪れる。様々な場所から通ってくる慶立生が共通で知っているのがこのショッピングセンターであるため、休日であっても知り合いと会うことが珍しくない。


 ユウキと絵美はそれが理由で普段のデートではこの施設を利用していない。学内で有名人の二人では目立ち過ぎてしまうからだ。実際に過去そこへ訪れた際、十五分に一回ほどの頻度で慶立生に話しかけられ全くデートにならなかった。それでヘソを曲げた絵美の機嫌を直すのに苦労したことを今でも覚えている。

 なので休日の時くらいは人目を気にせずゆっくりと二人だけの時間を過ごしたいと思い、わざわざ遠いところで普段デートをしている。


「京介と浩司は普段ここによく来るの?」

「いや俺はそうでもないな。普段は生徒会で忙しいし、買い物の用事があっても地元でことたりてしまうからな。だが浩司はよく来ているようだぞ?」

「ああ俺はよくここに来てるぜ。週に四日くらいかな」

「四日も!? 一体何するのさ?」

「このショッピングセンターの中に入ってるジムの会員なんだよ。家からちょうど良い距離にあるしな」

「えっ遠くない?」

 絵美が驚いて尋ねる。

「家からランニングしていけばちょうどウォーミングアップになるからな」

「は? 走って行ってるのか? お前の最寄り駅からここまで軽く十五キロはあるぞ?」

 今度は京介が驚く。さすがに走って通っているとは思っていなかったらしい。

「まあそれくらい余裕よ。何せ最強を目指す男だからな!」

 そう言って筋肉の奴隷はしたり顔をした。

「いやーさすがに引くわー」

「前野先輩も良い汗かこうぜ!」

 京介の言葉など気にも止めず、無駄に清涼感溢れる表情で勧誘し始めた。

「えーいいよーわたしは。だって良い汗はいつもユウキくんと二人きりでかいていますからねーだ」


「「「なっ」」」


 絵美から衝撃の爆弾発言が投下された。


「ほほほほほーう、つまりはあれですかな、旦那?」

 突然京介は悪代官もなんのそのというような悪い顔つきになった。

「ほほほほほーう。おそらくつまりあれですよ、兄貴」

 浩司も京介に追従する。浩司は印籠を持った老人の付き人に成敗される小悪党のような声色で胡麻を擂るかのように腰を低くして手を揉んでいた。

「い、良い汗ってつまりあれのことだよっ! 部活動ね! いやーやっぱり全国大会も近いからね! 主演のぼくたちとしては二人きりで練習しないといけないこともあるからっ! ねっ、絵美!?」

「えーユウキくんなに必死になってるの、可愛い。いつもやってることはあれに決まって……あ……」

 ようやく自分がなにを口走ったのか理解したようであった。

 絵美は顔を真っ赤にして俯いた。


「「ほほほほほーう」」


 京介たちは水を得た魚のようにはしゃいでいた。絵美をからかえる機会なんて滅多にない。ならばこの時を逃してはならない。彼らの本能にそう告げていた。

「……」

 彼女は依然して恥ずかしそうな、それでいて悔しそうな顔をしていた。ユウキはどうしたものかなあと頭を抱えていた。

「「あれー、んんん? どうしたんです……か……」」

 絵美を楽しそうにからかっていた二人が突如フリーズした。

 京介と浩司は察していた。これ以上踏み込めば、殺られる。もうかれこれ一年ほどの付き合いだ、彼らにはそれがよく分かっていた。

 絵美は怒らせると怖い。

 彼らが今日ここまで生き延びているのは自分たちの引き際をしっかりと理解をしているためだ。だから絵美と二人は、いじりがいのある先輩と憎めない後輩としての関係を築けているのだ。

 ならばここ取るべき手段は一つ。絵美が恥ずかしさのあまりにしおらしくしている間に穏便に済ませること。

「前野先輩」

「……なに?」

 俯きながら応じる。

「先輩に差し支えがなければなかったことにしたいと思うのですが、如何でしょう?」

「……お願いします……」

 まだ赤みを帯びた顔で頷いた。


 これで今日もまた生きることができた。

 安堵した二人であった。


読んでいただきありがとうございます!




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