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終焉への反抗者《レジスタンス》  作者: 獅子王将
『3度目の終焉《サード・ラグナロク》』、参戦
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第11話 『黒き力』

超えられ無い程に高い壁というのもは、往々として存在するものだ。

それはかつて、『表世界』の剣道大会における相手選手にとっては将真であり、その将真にとっては、今目の前にいる序列2位の虎生だった。

そんな壁に相対して、人間がとる行動は何か。

単純な二択問題だ。


諦めるか、無謀にも立ち向かうか。


そして将真は今この場で、後者を選択していた。

無論、簡単な道では無い。

ボコボコに殴られて、それでも集中力を切らすことなく、まるで自分が意思を持つ一つの武器になったような錯覚を覚えるほど研ぎ澄ましていった。

その結果、何が起きたか。具体的な事は、将真にもわからなかった。

事実だけをありのままにいうと、将真は自覚もないうちに、普段よりも遥かに速く動けるようになっていた。


そしてその事に気がつくのは、暫く先である。




「一体何者よ、あいつ……」


杏果が唖然としている。

だが、リンは寧ろ、彼女の気持ちが痛いほどによくわかっていた。

なにせ、将真よりも遥かに格上の虎生と、互角とは行かないまでも、かなりいい勝負をしていたのだから。


確かに、将真の身体能力の高さには、それなりに戦える学生達でも舌を巻くものがある。だが、魔導をまともに行使できない将真では、学生魔導師たちにも追いつくのは困難だ。ましてやあの、虎生の超高速についていけるはずがない。

いや、例え魔導を使えたとしても、虎生の速さはそう易々とついていけるような生温いものではない。同じく速さに特化した学年序列4位ですら、追い縋るので精一杯なのだから。

将真に才能があると言ってしまえば簡単だが、それ以上に言えることがある。


(なんて恐ろしい成長速度なの……?)


おそらく、半ば無意識の状態であろうが、つい最近まで魔導からっきしの将真がこの速度で動けるのは、肉体強化系の魔法を使っているのだろう。

だが、肉体強化系の魔法は、難しくは無くとも、簡単でもない。あらゆる魔導に言える事だが、一朝一夕で使えるようになるものではないはずだ。

それをこの短時間で、集中力だけで成しえたというのなら、それは同じ学生魔導師にとって、恐ろしいことであった。


「ねぇ、リン? ……あいつって一体何なの?」

「ご、ごめん。ボクもよく知ってるわけじゃ無くて……」


その疑問は当然のものだ。

それは、リンも考えた事だったのだから。

こっちの世界に来たばかりという彼については、『表世界』では学生最強の剣道選手だという事を聞いたくらいだ。

勿論、それだけで、ここまで戦えるなんて事は無く、おそらく何らかの理由があるのだろうが、リンには全く見当もつかなかった。


虎生の方が相変わらず優勢で続いているが、それでも決闘が始まったばかりの頃とは違い、圧倒的というほど差が開いている訳でもない。

少しずつ、だが確実に、将真はその差を詰めている。

このまま行けば、もしかしたら本当に、虎生に勝ってしまうかもしれない。

リンがそんな事を思っていると、後ろから足音が聞こえてきて、リンたちの後ろで止まる。


「__ふうん、これは中々」

「……うそ、何であんたがここに……」

「え……?」


目を見開いている杏果をみて、リンは、背後に現れたその人の顔を見る。

そして、杏果が驚いている理由を理解した。


「それにしても虎生、油断していたね。将真の気迫に呑まれかけているじゃないか」

「え……と、何であなたがここに?」

「決闘があったと報告を受けて。それだけなら放っておいてもいいんだけど、何せ十席がやってるって聞いたもんだから、何かあってからだと遅いだろう?」

「それと、あんたが現れた事とどう関係があるのよ?」


訝しむように杏果がその人に問いかける。

その人は、ため息をついて「だから」と続ける。


「もし激化しすぎた時に、仲裁する人間は必要だろう、という事だ」

「そこが意味わからないのよ。決闘中にこの結界の向こうにどうやっていくのよ」


こういった闘技場には、例外なく多少強力な結界が張られている。

試合開始の数秒前にその結界は展開され、観戦席やその外まで被害が及ばないように作られているため、かなり強固に作られているはずだ。

闘技場に限った話ではないが、壊れては困るような施設に設置されている結界は、生半可な攻撃では壊れないようになっている。

決闘中は、他者が結界内に入る事はできないので、理論上仲裁など不可能だ。

だが、その人は不愉快そうに眉を顰めて言った。


「闘技場に張られている結界程度なら、壊す事くらいわけないよ」

「っ⁉︎」

「まさか……、あなたはこれが壊せるんですか?」

「……敬語はよしてほしいな。同級生なんだから」


欲しかった答えは返ってこなかったが、どうやら壊せるらしい、という事はリンにも杏果にもわかった。


「……ひとつ、聞いてもいいですか?」

「何かな」

「気迫に呑まれかけているっていうのは?」

「ああ……己に自信を持つというのはとても大切な事だ。だが、自信と自惚れを履き違えてるとああなる」


そう言って、その人は虎生の方を指差した。


「幾ら将真が強かろうとも、虎生がここまで追い詰められるような強さはまだ無いよ。それがああして追い詰められているのは、単に油断だ。自分の力を過信して、相手の力を見誤ったのさ」


確かに、彼の言うことは的を得ているのかもしれない。

高位序列の虎生が、自信を持っているのは寧ろ当然の事だろう。それが自惚れかはともかく。

それに、相手の力を見誤る、という事ならそれは仕方がない事だ。何故なら、将真の魔導師としての能力は、余りに未知数なのだから。


「そもそも、将真のような人間と僕たちみたいな人間を比べる事が間違いだよ」

「どういう事?」


それはまるで、強者と弱者を比べる事自体が滑稽だと言っているようにも思えた。そしてそうであるならば、先ほど彼自身が言った、自身と自惚れに関する発言と矛盾するのでは、とも。

だが、そうではなかった。


「将真はまだ、魔導師として未熟だ。でもそれは、裏を返せばまだまだ伸び代があるという事。つまり、未熟と言うよりは発展途上なんだ。それに比べて、長年ここで魔導に触れ、魔導を学んでいる僕らは言うなれば熟練者だ。まあ、そうは言ってもまだ未熟の身だけれどね」

「って事は……」

「熟練者と初心者。これから学ぶものはどっちが多いと思う?」


彼の問いかけには、悩む余地すらなかった。リンはその簡単な問いかけに答える。


「後者、だよね」

「うん。吸収するものが多い分、初心者の成長速度は、熟練者の比じゃない。加えて、将真は強い。同じ物差しで計るというのなら、今後彼がどの程度強くなるのかという見積もりを立てた上で、その成長した状態にある彼と戦っているつもりで、十分に警戒して然るべきなんだ」

「そこまで考えてるのはあんたくらいだと思うけど……」


杏果は呆れたようにいうが、兎に角、虎生はそれを怠った。

だが、それも仕方の無いことなのかもしれない。

何せ彼は、速さや、鍛錬で自然に身についた、暗殺技能を活かす戦いが得意なのだから。

その手の戦い方で、少なくとも学園では虎生の右に出る者はいないだろう。詰まるところ、虎生には、あえて真っ当な戦い方をする必要がないのだ。それは決して、卑怯な戦い方ではないのだから。


まあ、学年序列2位の虎生が勝てなかった序列1位には、戦い方など関係ないのだろうが。


「ほら、戦況が動くぞ」


少年が、闘技場の方を指差す。

そこでは、丁度2人が、距離を取ったところだった。




(マジで何なんだ、こいつ……)


リンたちの会話の中にもあったが、油断しているという自覚が実はちゃんとあった。

幾ら動きがいいと言っても、所詮序列274位。とても自分が遅れをとるような相手ではないと。

そしてそれは、その通りなのだ。油断さえしていなければ、だが。


虎生の方がまだ優位ではあるが、将真の攻撃を受け止めるのにも集中しなくてはならなくなって、必然、虎生の攻撃速度は少しずつ落ちてきている。

そして、虎生と将真の攻撃がぶつかり合い、互いに距離を取った。


「ちっ……!」


虎生は舌打ちをして、すぐさま地面を蹴って将真に追撃を加えようとした。

だが、虎生の足は地面を蹴る事もなく、その場に踏みとどまった。

その判断は、おそらく正解だった。

将真が、上段に構えたのだ。

それだけならどうということはないのだが、その棒を中心に、余りにも不気味な黒い魔力が渦を作って、まるで巨大な一振りの剣のようになったのだ。

この威圧感から、相当な威力を有しているであろう事は、何となく察する事ができた。

将真が、それを振り下ろす。

無論、躱す余裕も、逃げるスペースもあった虎生は、当たればやばいだろうな、という事を考えながら、難なく回避した。


「柊にも言ったが、あたんなきゃ意味ないんだにゃあ!」


そう叫んで、虎生は今度こそ追撃を加えようと、強く足を踏み込んで__慌てて横に回避した。

将真の、先程の一撃は、神技並みの破壊力を持つものだ。そんなものを立て続けに使えるはずがないと思っていた虎生だったが__その一撃が、再び自分の目の前に現れ、回避せざるを得なかったのだ。


「ざっけんな、んな事あってたまるか!」


常識的に考えて、神技は何度も連続で放てるような技ではない。膨大な魔力が必要な上に、肉体の負荷にも耐えなければいけない。

加えて、あの破壊力ともなれば、例え連続で放てたとしても、分単位でインターバルが必要になるはずだ。


(あの魔力で、あの破壊力で、連続で放ててしかも秒単位のインターバルだと?)


どうしたらそんな馬鹿げた芸当ができるのか。

同じような神技が使える序列1位でも、2発目以降は数分のインターバルが必要なのに。

だが、取り敢えずは躱した。

再び攻撃を仕掛けようをしようとして__今度こそ虎生は凍りついた。

目の前に、またもあの一撃が迫ってくるのを見たからだ。

最悪な事に、今度は躱せるようなタイミングではなかった。こうなってしまえば、受け止めるという選択肢以外にはない。


「ほんと、何なんだよお前__!」




自分自身でもよくわからない力が、渦巻いていた。

だが、この力があれば、虎生を倒せる。その確信があったから、将真は一心不乱に振り抜いた。

そして、3撃目にして漸く虎生直撃させる事に成功した。

だが、将真の表情は、驚愕で引きつっていた。

手応えはあった。確実に当てたという確信がある。

だが、どれだけ力を入れても、これ以上振り下ろしきれない。


(受け止めるたっていうのか⁉︎ 嘘だろ⁉︎)


これだけやってもダメだという事実を、嘘だと信じたかった。

だが、砂煙が晴れると同時に、その予測が正しかった事を知る。


「__全く、今日は災難だぜ。油断してた自覚はあるけど、それを抜きにしても、ここまで本気にさせられるなんて、にゃあ」

「……おいおい、冗談じゃないぞ。今のは耐えられないだろ普通」

「そうだにゃあ……。ま、お前がちゃんとした魔導師だったら、終わってたろうな。それは認めてやる」


つまり、将真が未熟だったから、何とか受け止められたと、虎生はそう言った。

呆然と立ち尽くす将真。戦いの最中だということを思い出して意識を切り替えようとした将真だったが。いつの間にか吹き飛ばされていた。


集中力を切らしてしまった今の将真に、もう虎生はえない。

そして、吹き飛ばされたと自覚した時には、既に満身創痍で動けなくなってしまった。


「ぐ、あ……」


何とか動かせる首だけで虎生を見ると、長く伸びて逆立った金髪は、まるで神獣が怒っているようだった。彼の魔力の属性性質か、身体中を電気が走る。


(おいおい、ド〇ゴンボールかよ……)


「わりぃな、ちょっと火ぃついちまったから、納めるまで付き合えよ」

「ちっ……」


将真は、舌打ちしながら苦笑した。

わかってはいたが、改めて実感する。やはり、勝てる相手ではなかったと。

無茶をすれば何でもできると思ってたわけでは無いものの、流石にここまでやって適わないという事実に、内心将真は凹んでいた。

虎生が足に力を入れて、今度こそ将真を完全に潰そうとして__今度は外からの邪魔が入り、虎生は動きを止める事となる。

凄まじい魔力の塊が、2人の目の前を、分断するように通過して行ったのだ。


「にゃあっ⁉︎」

「なんっ……」


視線を攻撃が飛んできた方向へと向ける。

そこには、絶句しているリンと杏果。そして、1人の少年が立っていた。

金髪の髪の美少年。武器を魔力で生成できる魔導師でありながら、わざわざ帯剣している。無論、ただの剣では無いのだろうが。

これだけ特徴が揃っていれば、その人物が誰なのか、将真でもわかった。


(あいつ、学年序列1位の……)


だが、その名前を思い出す前に、将真は意識を失った。

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