二章「発見」
宇宙船地球号計画が開始し、五百年のときが過ぎた。
今は西暦25XX年。
宇宙船地球号内の治安や社会活動は安定化し、宇宙船地球号は漆黒の宇宙空間をただよっていた。
そんなおり、ひとつの恒星を発見したのだ。
予想よりも幾分も早い。
地球にいたとき、このような恒星が観測されたことはない。
おそらく星間物質の影に隠れて観測されなかったのだろうと結論が出た。
また、その恒星はとても小さく、発している光が微弱であったため、光が地球まで届かなかったとも推測出来た。
小さい恒星で、おそらく大きさは地球と同程度、その周囲に一つの惑星があり、大きさは月ほどの大きさだ。
まさに、地球と月の関係そのものだった。
外から見る限り、その惑星は青く、大気と水が存在しているように見えた。
-もしかしたら生命がいて文明も発達しているかもしれない-
人々の期待はいやおうなしに高まっていった。
新惑星が発見された次の日は、その話題でもちきりだった。
特に、親友がその惑星に対してものすごく詳しかった。
「でさ、その惑星には海があって、大気や重力の状態も記録にある地球と類似してるんだってさ」
「へぇ」
「つまり、僕らみたいな人類が存在しているかもしれないんだ!」
「お前は相変わらず宇宙に詳しいな、アキヒロ」
「何いってるんだ、せっかく僕たちは地球にいる人たちとは違って宇宙にいるんだ。このくらいの夢みなきゃ」
「だが、宇宙に何があっても、俺達の生活にはあまり影響はない」
「ロマンのないこと言うなよ。それに、その点だって今回に限っては違うんだ」
「新しい惑星を発見しただけなのにどう違うと」
「なんと、一般から現地でのその惑星探索のボランティアを募集するんだ。人手がいくらあっても足りないらしい。
もちろん、僕ら大学生も参加資格があるよ」
それは流石に俺ですら驚きだった。
空を見上げると、そこには数々の星があった。
その星星は、決して俺達には手の届かない場所にあるものだった。
しかし、今回に限り偶然発見されたその星に、俺たちは行くことが出来るのだ。
「それで、今日はその説明会が大学の大講堂であるってさ。ダイチも行こうぜ。
しかも今日の説明会には、大学OBの科学学会の方が直々に来てくれるとか」
「ちょっと興味あるな」
「ちなみに、その惑星はフェムトと名付けられたって」
俺とアキヒロはその日時間になると大講堂に向かった。
大学の大講堂に行くと、すでに人でいっぱいだった。
みんな、新しく発見された惑星に興味津津のようだ。
空いてる席を見つけてそこに座った。
「それにしても人が多いな」
「そうだね。しっ、静かに。始まるよ」
始まりそうになったのでアキヒロが俺の話を止めた。
理系の人らしいので、いかにもな人が来ると思っていたらそうでもなかった。
どちらかと言えば文武両道という雰囲気、いかつい男の人で放っているオーラが違っていた。
その人が来てからざわめきは自然とおさまり、みな話を聞こうとしていた。
一瞬、この場に誰もいなくなってしまったかと思うほどの静寂が訪れた。
そして、その講演が始まった。
「今私たちは、宇宙船地球号の歴史が始まって以来初めて、その本来の目的に近づくことが出来ています。
私たちは普段地球にいる人たちと同じように平和な日々を過ごしてその本来の目的を意識することはありません。
しかし、宇宙船地球号の本来の目的は宇宙開発、そして宇宙にある未開の土地を開拓していくことです」
そういえばそうだったな。
今俺達はきっと、地球にいる人たちと変わらない日々の営みを送っている。
けれど、宇宙船地球号の大義は、宇宙開発にこそにあったことを俺たちは学校の歴史の授業で幾度となく教えられてきた。
「今初めて、私たちは地球と似たような星を発見し、そこの調査に乗り出そうとしているのです。
新しいものを開拓していく力、それが必要です。
若い人たちが進んで、夢と希望ある新しい星の開拓に参加してほしいと思っています」
そしてその後、話は星の概要の説明やボランティア内容の具体的な説明に入っていった。
その講演に夢と希望を感じる人も多いようだった。
その説明会のあと、アキヒロのボランティアへのモチベーションはうなぎのぼりだった。
俺も周囲の人たちのモチベーションに触発されたのだろうか。
惑星探検に参加することを決めた。
すぐに申込をし、後日簡単なテストとアンケートに答えた。
後日、具体的な説明に呼び出されるみたいだった。
ある日、ボランティア内容の説明と調査チームとの顔合わせということで呼び出された。
会議室のような部屋に多くの人がいて、その中の一つのテーブルが指定された。
そこに行くとすでに一人いた。
アキヒロだった。
「よう、同じ班になったな」
まぁ、大学での申込に一緒に行ったから連番だったろうし同じ班になるのは不思議ではない。
「ちなみに調査は4人1組でするらしい」
「ということは、あと二人来るのか」
「誰か来るのかな」
そしてもう一人俺達の少し後に入って来たのは同じ年の少女。
「久しぶり」
「お久しぶりです」
返答は普通にしてくれた。
同じ中学出身であり、俺とは少しばかり因縁がある。
なぜ、よりにもよってこんなところで出会うのか。
見知らぬ惑星を探索したいという大きな希望を持ってこのボランティアに参加したものの、
出鼻からくじかれこの探索に気が進まない思いを持った。
「あれ、二人知り合いなのかい」
当然の疑問をアキヒロが訪ねてきた。
「昔、ね」
さらにあと一人の顔を見てみると、見たことある顔だった。
「あれ、あなたは、この間の説明会の」
説明会で演説をしていた男性研究者。
まさかそんな人と同じ班になるとは思わなかった。
もっと違うところで指揮を取る人だと思っていた。
「あぁ、母校での説明会に来てくれていた人たちかい」
「あなたのような人はこういう場に参加しないものだと思ってました」
「いや、自ら若い人たちと一緒に行動したいと願い出たんだ。普段は研究室にこもってばかりいるものでね」
「そうだったんですね」
「まぁもし僕が希望しなくとも、探索を希望している班には一人くらいは専門性を持った人が割り振られるようになっている」
「そうなんですか。確かに、アンケートでどんなところに配属されたいかは聞きかれました」
「何しろ、未開の大地の探索に行くんだ。人手はいくらあっても足りないくらいだ」
その研究者の方は調査の実行委員としての立場から語ってくれた。
「と、みんなそろっているようだね」
研究者の方が場をしきり始めてくれた。
「とりあえず、自己紹介をしておきましょうか。僕の名前はタダタカ。君たちの名前は?」
「アキヒロです」
「俺はダイチです」
二人一緒に返答をしてしまった。そして残った一人に視線が集中する。
「私は…キリです。頼りないかもしれませんががんばります」
一通り自己紹介が終わったようで、次もタダサカさんがしきってくれた。
「まぁとりあえず型にはまった自己紹介はこれくらいにしますか。
せっかくだし何か聞きたいことでもあるかい。研究のことでも、星のことでも」
そういうが早く、アキヒロがハイと手を挙げた。
「研究者の方なら、詳しいですよね。実際にどういう風に調査って進めるんですか。あとどうやってフェムトに行って帰ってくるんですか」
「ふむ。まぁそれは多分今日のこの後の説明でも話があると思うが、まず海に着陸しその後各々班に分かれて船で陸地の探索に向かう。帰りは帰還用のロケットが数機、すでに向こうの海に着いているそうだ」
「なるほど」
その後も少し話をして、全体での説明を受けて解散した。
ふと、大学生の就職活動で言われている言葉を思い出した。
ご縁があれば、か。
この人の講演を聞いて未開の地を探索してみようと思い、今まさにその人の元で活動しようとしている。
就職活動でのご縁なんて信じていないが、今回ばかりは縁を信じてみてもいいかもしれない。
とうとうフェムトに出発する日がやってきた。
今日までに長期間滞在するための準備とかいろいろしてきた。
「緊張しているかね」
タダタカさんが聞いてきた。
「はい」
空の上から、初めて地上に降り立つ。
前の日からわくわくして仕方なかった。
宇宙船地球号とフェムトの連絡船に乗り、新たなる大地へと出発していった。
移動中は窓の外を見ることもできず、今自分がどこにいるかも把握できないまま過ぎていった。
そして、機内で到着のアナウンスが流れた。
ざばんという衝撃がして、海に着いたようだった。
動いていいという指示が出てから、外に出ることにした。
本当に、今自分は宇宙船地球号から出て他の惑星にいるのかが不思議だった。
移動自体は意外とあっさりとしていた。
そして。
外に出ると、眩しい光が俺達を包んだ。
日の光というものは、こんなにも眩しいものだったんだ。
初めて知った。
そして。
海。
海。海。海。
初めて見る。
こんなに大きいものだとは知らなかった。
水って、こんなにたくさんあるものなのか。
地球にある海もこういうものなのだろうか。
「ダイチ、すげえな」
「あぁ」
圧巻の風景に、俺達はしばらく単調な言葉しか発することが出来なかった。
俺たちは、その風景の中に同化しながらただ時が過ぎていった。
しかし、もちろん俺達の目的を見失うわけにはいかない。
その日から探索のため、船に乗り陸地までの長い船旅が始まった。
地球にいたころの技術と知識が残っていたが、しかしいざ初めて船旅というものを経験してみるとそれは予想外に大変なものだった。
そして今俺達は、フェムトで最も大きな大陸へと帆を進めている。
数日後、
「陸地が見えたぞ!」
誰かが大声で叫んだ。
「本当だ!」
船の上の方で声が聞こえた。
俺も慌てて外に出た。
でかい!
圧巻の一言。
見知らぬ広大な大地が見えてきた。
陸というものはこんなに大きなものなんだ。
それにしても陸地というものはあんなに大きいものなのか。
教科書でしか読んだことなかった。
圧巻の一言。
今まで宇宙船地球号の閉じた世界で生きてきた。
それ自体は別に悪いものではなかったが、いざこうして新しい大地を見ると心が震えた。
高台の上から見る風景は素晴らしかった。
かつて地球で新大陸を発見した人々は、このような気持ちだったのだろうか。
地球には様々な探検家たちがいた。
大航海時代には、アフリカ南端に最初に到達したバルトロメウ=ディアス、
新大陸を発見したコロンブス、南アメリカを探検したアメリゴ=ヴェスプッチ。
ちなみにアメリカという名はアメリゴ=ヴェスプッチから来ている。
また19世紀にアフリカを探検したリヴィングストンやスタンリー。
彼らの見てきた世界が、ほんのちょっとだけ見えた気がした。
参加してよかった。
今は心からそう思っている。
新惑星が発見された次の日、俺を惑星探索に誘ってくれた友人に感謝した。
そして、今日この日まで探索に関わった人たちに感謝した。
陸地に上がり、ようやく探検が始まろうとしていた。
ここからは班に分かれ各々探索を進めていく。
必要なものは船から降ろして、探索を進める。
俺達の班のチーフは当然タダタカさんだ。
「私たちの班はどう探索を進めていくんですか?」
キリが訪ねた。
「僕たちの班の主な探索内容は、この大地の地質調査だよ。僕がいる分、専門的な仕事にも付き合ってもらうことになる」
「分かりました」
遠出も出来るように寝袋や簡易テントなども持っている。
まぁ登山するようなイメージだ。
この日から、長い長い旅が始まった。
俺はというと、体力には自信はある方だがそれでも初日から根をあげそうだった。
重力下でこれだけ歩くことなんて、宇宙船地球号ではありえない。
宇宙船地球号には一応重力装置があり、学校では歩くことのできる設備がある。
体育の授業ではこれが地球で感じる重力だと習ってきた。
けれど、一般家庭では歩くことなどない。
実際、100メートルの記録なんかは地球の人たちの方が圧倒的に上らしい。
「のどが渇いているなら水をどうぞ」
キリが俺に水を手渡してくれた。
「あ、ありがとう」
俺はぎこちなくそれを受け取った。
海岸を出てからしばらくは砂浜だったが、すぐに山の中を歩くことになった。
まるで映画の中に出てくるジャングルだった。
木々が生い茂り、小さな虫やたまに動物がいた。
ここはまるで地球なんじゃないか?
そう思ってしまうほど話に聞く地球に似ている。
俺達の班は性質上他の班とは違うルートをとっていた。
数日かけて山越えをしながら、開けた大地へと向けて歩いていった。
その道は決して平たんではなかったが、宇宙船地球号での事前の準備とモチベーションが俺を支えてくれた。
そしてとうとう山を超えて、広く、開けた大地にたどり着いた。
「すげえ」
「すごい」
「すごいね」
俺、アキヒロ、キリは全員感嘆の声を上げていた。
高台から見る風景は素晴らしかった。
体は疲労しきっていたが、その風景を見たらそんな疲れなど吹っ飛んだ。
「こんな風景、宇宙船地球号では見たことない」
キリがそういうと俺は反射的に返した。
「そうだな、外にはこんな世界が広がってたんだ。もっと、いろんな景色を見に行こう」
ここがいわゆる平野というやつだろう。
そして。
建て物らしきものがいくつかあった。
いわゆる、弥生時代の竪穴住居や高床倉庫のような建物が並んでいる。
まるで吉野ヶ里遺跡や三内丸山遺跡を見ているようだ。
-文明の発達した生物がいた-
しかも、もしかしたら人かもしれない。
「やった、生物いた」
アキヒロは当然はしゃぎまくっている。
キリまで集落の見える方向に駆け出す始末だ。
しかし、油断したときが最も危険なのである。
その上、ただでさえ重力に不慣れな俺達が連日の旅。
疲労がたまっていないはずがいない。
むしろ、これまで大きな怪我や事故なく旅をしてこれた方が奇跡というものだ。
「危ない!」
一部が急な崖になっていて、キリが足を滑らしてしまった。
「くそ」
俺たちは慌ててキリの落ちた辺りまでいった。
よかった。
生きてる。
体には大きな怪我はなさそうだった。
が、頭を強く打っている。
危ない。
「助けが欲しいな」
「しかし、どうする、俺たちは他の班と違いかなり奥まで進んでしまっている」
そう話しているところに人が通った。
「助かった、探索者が他にもいたのか。すぐに救助を呼んでほしい」
だが、様子がおかしい。
なんていうか、まず身なりが違った。
そして、言葉が通じていないようだった。
まさか。
「先住民だ!」
アキヒロが叫んだ。
このようなタイミングで先住民に会うとは。
感動の出会いに浸る余裕が全くない。
ことは一刻を争う。
人の命がかかっている。
まずは雨風をしのげて彼女を休ませる場所が欲しい。
アキヒロは先住民との交渉に入っているようだが、俺にはそんな余裕はなかった。
彼女の容態の方が重要だった。
彼女の容態を見ているうちに、アキヒロがこっちに近づいてきた。
「先住民とジェスチャーで会話してた。道案内してくれるみたいだ」
「本当か?取って食われるようなことはないか?」
「食料品をいくつか渡した。こっちの食事を食べてくれたから、たぶん人種は似てると思う」
確かに、その先住民は、ついてこいとジェスチャーしているようだった。
正直、今来た道を戻るには手間がかかりすぎた。
案内された先は、先ほど高台の上からみた集落の中だった。
不思議な気分だ。
まるで、教科書に載ってる3000年前の弥生時代の集落の中に自分がいるようだった。
村に入ると、たくさんの人がいた。
服装はみな原始的な服で、まさに古代の日本を再現したような村だった。
案内してくれた先住民は他の村の住民と話をつけ、俺達のことを紹介してくれているようだった。
言葉は分からないが、なんとかジェスチャーで話をつけた。
その後どういうわけか、ひとつ屋根がある空家を貸し与えてくれた。
キリは、目を覚まさない。
「すまない、僕がいながら、こんなことになるなんて」
タダタカさんが言った。
「いえ、こんな状況を予測できるわけないです。それよりここからどうするか考えましょう」
そう、現状を打開することを考えなければいけない。
タダタカさんが思案していると、アキヒロが横から口を出した。
「しかし、人一人運んであの道を帰るのは無理です」
「それは確かだ。誰かが救助を呼びに戻らないといけないだろう」
もっともな話である。
それならば、俺にもこれまでためてきた決意がある。
「なら、俺がここに彼女と一緒に残ります」
「いいのか、ダイチ」
「えぇ、それに、これは自分の罪滅ぼしだと思っています」
二人は顔を見合せ、何のことか分からないと言った顔をした。
「ともかく、僕はここでキリの様子を見ようと思います。
二人は、救助を呼んできてください」
「そうだね、そうするしかないだろう」
そこでタダタカさんとアキヒロは救助を要請しに戻り、俺はここでキリの看病をすることとなった。
その日から、先住民の住みかで二人での生活が始まった。
水を汲む場所、食料を得る場所など学んだ。
食料は数日分あったので、物々交換などしながら生活した。
眠っている少女の姿を見て、俺は心がいっぱいになった。
彼女とは同郷で、同じ中学出身だった。
当時、俺はこの少女を、いじめていた。
目を閉じている彼女の姿は、人形のようだった。
「ごめんなさい…」
目を覚まさない彼女を前に自然と言葉が漏れていた。
「ごめん…」
ごめん、ごめんな。
どうして当時あんなことになっていたのか。
人を傷つけた罪悪感が今さらになって甦って来た。
クラス内では常に誰かがいじめられていた。
最初いじめられていたのはクラスの男の子だった。
いじめられていると言っても、よわよわしい男でなくどちらかと言えば不良で、常に男女構わず暴力をふるっている男だった。
俗に言う、いじめられる方にも非があるという典型例だった。
だからいじめが浸透するまでに時間はかからなかった。
中にはいじめに積極的でなかった人もいたろうが、俺は積極的にいじめに加わっていた。
全員で無視するのは当たり前で、靴を隠したり濡らしたりと陰湿な嫌がらせから、堂々とみんなでリンチしたりもした。
不良のそいつは学校に来なくなった。
しばらく平和な教室が続いたが、その次のターゲットがこの少女になってしまったのだ。
この少女にもいじめられる側にある非というものがあるのだろうか。
俺には前の男ほど非があるようには思わなかった。
みんなきっと、誰でもよかったのだ。
何もしていない少女をいじめることには気が進まず、俺は傍観しているだけだった。
少女にいじめられる理由などないと思っていた。
しかしこの流れが止められなかった。
俺は先のいじめの中心にいたので、今回のいじめも止めようと思えば止められた人間だったかもしれない。
それに、きっかけがどうであれ一人目もいじめてたわけで、倫理感も壊れかけていた。
子供のころの倫理感に万能を期待するのが無理だ。
俺も精神的に幼かったし、周囲も幼かった。
今思えば、俺は少女へのいじめは止めるべきだったし、最初のいじめでさえ
いじめ以外の解決手段があったはずだと今は思っている。
数日が経ち、アキヒロとタダタカさんが医療班を連れて戻ってきた。
「医療班を連れてくることは出来た」
しかし、その面持ちは暗かった。
「しかし、ここまでの道のりを開拓することはしばらくは難しい。
人を一人運べることが出来るような道が出来るのはしばらく後になるでしょう」
そのような状況を予想出来ていなかったわけではない。
見知らぬ大地を開拓しているのだ。
全てがうまくいくということこそありえないことだろう。
「なら、俺がここに残ります。ここでキリの様子をみます」
「いいのか、ダイチ」
アキヒロが驚いた顔でこちらに聞いてきた。
「あぁ。それに数日過ごして、言葉も分かるようになってきたしな」
「なんでそこまでして、お前が」
そう言って、アキヒロははっと気づいたような顔をしてから続けた。
「もしかして、お前、その子のこと…」
そうアキヒロが言うと俺はその言葉に対して反応が出来なかった。
再会したのは偶然だった。
再会した少女は美しい女性へと変わり、一目見た瞬間から目が離せなくなった。
しかし、過去の過ちから、彼女への想いはずっと胸にしまっていた。
俺は少女を愛していた。
しかし、俺のこの気持ちを伝えることなど、出来るはずがない。
数年前、僕らがまだ10歳ちょっと超えた少年少女だったころ、この少女をいじめていたうち一人は、この俺なのだから。
何か月か住むと、ここの言葉も大分分かってきた。
あの始まりの日、高台の上からここの景色を見たときは、初めて発見した景色に感動した。
ここに住むようになってからまたいろいろな景色をみることがあった。
それらは本当にきれいで、いつかキリが目を覚ましたらこの景色を一緒に見たい。
心からそう思った。
いつの間にか、この土地を愛していた。
たとえキリが眠っているとしても、俺にとってはキリと二人で過ごすことが出来た土地だ。
「ダイチ、今日も恋人の看病か」
あの日、初めて会った先住民の人だ。
名前をアトというらしい。
言葉がだんだん分かるようになってから、先住民とのコミュニケーションも増えていった。
「あぁ。あと、別に恋人ってわけじゃない」
「恋人じゃないのか?じゃあなぜダイチは彼女のためにそこまでするんだ?」
その間に彼女を何度か家族の方が訪ねてきた。
幾度かここから運び出し立派な施設に運ぼうとしたが、
大人の足ですら踏み入るのが困難な場所から、人を一人運ぶことが容易ではないことから挫折した。
しかし、そのおかげで俺は彼女のそばにいることが出来た。
それに幸いにも食糧や医療品などの物資には困らなかった。
見知らぬ惑星の開発には思った以上に困難なことが続き、気づくと2年が過ぎていた。
ある日、アキヒロが訪ねてきた。
「調子はどうだ?」
「相変わらずだ。そっちは」
「そう、今日は重要な話があってここに来た」
アキヒロの深刻そうな表情を見て、
「宇宙船地球号が再出発する日取りが決まった」
「は?」
「一つの惑星を開発したら次の惑星の探索に移る、それが宇宙船地球号の存在意義だそうだ」
「な、キリはどうするんだ?」
「それまでに運ぶ手段を考えるか、無理ならここに残るかしかない」
「俺達を見捨てるのか」
「何も見捨てるわけじゃない。進んでこの星に移住する人もいるらしい。
出来る限り個々人の意思は尊重する。しかし、キリのようなケースは珍しい」
「そうか」
「ダイチどうする?」
アキヒロは真に俺のことを案じてここに訪ねてきてくれている。
しかし、俺の答えは決まっていた。
「決まっている。俺はキリといっしょにここに残る」
「何もお前がそこまでしなくても…」
アキヒロは一瞬そうつぶやいたが、その迷いを振り払うように言った。
「わかった。けれど、もしも出発前までにキリが目を覚ましたら、このことを伝えておいてくれ」
俺に迷いはなかった。
宇宙船地球号がいなくなろうとも、この星にたった一人になろうともそんなことはこわくない。
ただひとつ、俺が恐れていることがある。
キリが目を覚ましたとき、彼女が俺のことをどう思っているのかとういうこと。
俺の過去の過ちは、決して消えていないのだから。
「ダイチ大変だ!」
ある日突然、アトが
「なんだ、いきなり」
「キリが、目を覚ましたんだ!」
俺は手に持っていたコップを床に落とした。
とうとうこの日がやってきた。
震える手でコップを拾いながら、
「よかった」
と一言つぶやいた。
これで、よかったんだ。
別れが来るとしても。
部屋に行くと彼女はベッドの上で窓の外を眺めながら座っていた。
俺が来たことに気付くと、こちらに振り向き訪ねた。
「私はどれくらいの間眠っていたの」
「2年だよ」
その言葉を聞いたあと、彼女は驚きの表情を見せながら絶句していた。
無理もない。
突然自分が2年も眠っていたなんて聞いたら、誰だってそうなる。
キリが目を覚ましたことをアキヒロやタダタカさんにも伝えた。
目を覚ました後も、俺は彼女の看病を献身的にした。
けれど、若き日の過ち、その罪を自分の中で清算出来ないでいた。
それに、俺が彼女のそばにいてはいけないのは当然だ。
それと、早いうちにアキヒロからの言伝は伝えてしまわないといけない。
これまでのいきさつを彼女に伝えると、流石に驚きを隠さなかったが
それでも彼女は適応力が高かった。
「そう、宇宙船地球号は出発してしまうの」
「だからもし宇宙船地球号に帰るなら早めに準備しないといけない」
「ダイチは今まで、私のそばにずっといてくれたの?」
彼女の質問にどきりとした。
「あぁ」
「どうして?」
どうしてと聞かれ、お前のことが好きだからとは答える勇気は俺にはなかった。
「ちなみに、ダイチはどうするの?」
「俺はこの星に残ろうと思う。ここの人たちには本当に世話になった。
俺はそれに恩を返したいと思う。
他にもこの星に移住する宇宙船地球号の人たちもいるみたいだし、なんとかやっていけるだろう」
「そうなんだ…」
「私もいっしょに残る」
一瞬、彼女が何を言ったか理解出来なかった。
「ダメ、かな?」
「いや、どうして…。それに、俺は昔お前のことを…」
「昔のことは置いといて」
「そいういうわけには…」
「アキヒロから聞いたの。ダイチは私が眠っている間異星での生活の中
私の看病を必死にしてくれてたって。そして、私にずっと謝ってたって」
俺が彼女に対して謝っていたのをアキヒロに聞かれていたのか。
「それに私は、この冒険の間に、ダイチのことを」
その先は言葉にしなくても伝わった。
この結末は予想していなかった。
目を覚ましてからの彼女の回復は早く、ここでの生活にもすぐに順応した。
宇宙船地球号が調査を終え、この星を発つ日がとうとう来た。
アキヒロやタダタカさん、世話になった人たちには挨拶をすませておいた。
「いっちゃうね」
「あぁ」
「さびしい?」
「いや、全然。だって、キリがいてくれるから」
「うれしいこと言ってくれるね」
「あ、見えたよ」
この星の地上から見えた宇宙船地球号は、大きな夢を乗せてはるか空の彼方に消えていった。




