序章 「悲劇」(すべてのおわり)
ライトノベル風に頑張る予定です。
小説一冊分くらいで終わらせる予定なので、よろしくお願いします。
なんで……どうしてだろう……
『赤』。
三六〇度『赤』に囲まれた。
起伏など存在しないなめらかだった床は、それを突き破った『もの』たちによってめくりあがり、破壊の副産物として生まれ続ける瓦礫が散乱している。
一万以上の悲鳴が交差し、途切れない限られた空間の中で、逃げろ! という声が聞こえた。
その声の主である、少し年上の青年はこの空間で唯一赤くなく、しかしどこよりも深く、濃い『黒』の空間にむかう。
青年の周囲から炎が生まれ、一瞬だけ深い闇を照らす。
しかし、新たな『もの』が轟音をあたりに響き渡らせながら、床を突き破る。『もの』は蛇のようにうねり、一瞬で炎を消し去って標的にその鋭い矛先をむける。
標的とされた青年は少しだけひるむが再び炎を生み出し、『黒』の空間の中心に放った。
それは深い闇を打ち消す、希望の光になる。
そう思った。
その闇の根源を見るまでは。
『赤』が噴き出した。
青年が宙に縫いとめられる。
『黒』も『赤』に染まった。
希望の光となるはずだった炎は、あっさりと、そう本当にあっさりと敗れ、弱まっていく。
それがまるで青年のそしてこの空間の中のすべての『命』をあらわしているように。
両隣から一人の少年と一人の少女が飛び出した。二人とも二つの『指輪』が通してある輪になった鎖を首にかけていた。
今日、初めて出会った二人だった。まだお互い自己紹介もしていない。名前は別の人から聞いた。いきなり夢を語ったりしていた。
『普通』の人達を守りたいと少年は言った。
『普通』の人達を救いたいと少女は言った。
『特異』なのに。
その瞳には決意があった。
『普通』を恨み、妬み、そして羨望する自分にはない決意が。
だからだろう。
この少年と少女は、敵わないと思いながらも、『命』を、一万人の『赤』を噴き出させる、目の前の『黒』が許せなかったのだ。
そして、それを理解してしまったから、止められなかった。
そして、結末を想像してしまったから、目を、閉じた。
「「ああああああああああああああああああああああああああああぁぁ!!」」
まともな声にすらならない叫び。
それは、恐怖を捨てるための声、決意を改めるための声、前に踏み出すための声、のはずだったのに。
命をかけたそれらすら、たった一歩で砕かれる。
ナニカアタタカイモノが体に降り注ぐ。
ナニカガユカニオチルオト、イヤ、ナニカガタオレルオトガ、キコエタ。
「ははッ」
目は開けなかった。
開けたくなかった。
「はははははははははははははははははははは」
何故かもわからないまま、かわいた、むなしい、力のない笑い声があふれでて、静寂な空間に響き渡った。
「はははははははははははははははははは!?」
ピクッ、という感じに小さく体が揺れて、声が途切れ、音がなくなる。
気づいた。いや気づいてしまった。
『静かすぎる』。
一万もの声は、悲鳴は、聞こえなくなっていて、そんな中で
カツン、という足音が聞こえた。
その音の主は、その足音を響かせ、確実にこちらに近づいている。
自らが歩いているわけでもないのに、まるで死刑台に上っているような感覚がして、
「ははは!!」
かわいた、むなしい、力のない笑い声をあふれだすこともできず、腹に殴られるような何倍ものあつい衝撃をうけ、
少年は、目を開けることもなく、死を迎えた。