こちら転生管理局・2
「………………」
「そんな硬くならなくていいって」
椅子の上で息を詰めていたあたしに対し、柳橋さんが笑って言った。
「今回は次元跳躍もないからさ」
「え?…ないんですか?」
女神さまのいる世界までトラックで行こうってのに、次元も超えない?
…いやもう根本の想定が変だけど、その辺は完全にマヒしちゃってる。
「そもそも、あの転生者が向かった神界は地続きの天国だからね」
「…」
地続きの天国って、パワーワードも限度があるだろう。と言っても、
何とか理屈で解釈は出来る。いや、出来る自分がかなりアレだけども。
「つまり、元の世界から見た場合、さっきのちょっと違う並行世界と
女神のいる世界は、同一次元という事なんですか」
「おおおぉー!理解が速いねえ!!さっすが丑三ツちゃん!!」
「大したものですね」
テンション高い柳橋さんに加えて、剛守さんまで褒めてくれたよ。
嬉しいんだけど、限りなく複雑…
いやいや、簡単に状況に染まるな!
しっかりしろ智華!!
そんなこんなで到着。
え?…つまり、天国に?
マジで?
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「あと5分で魂が到着するってさ。こっちの方がだいぶ早かったね」
「…そうですか」
「お茶いれますか?」
「いえ、結構です」
玉見さんの申し出を丁重に断って、あたしは周囲をぎょろりと見回す。
自分でも、疑心暗鬼になってる事が実感できた。
女神の世界に到着したよと言われ、おそるおそる荷台から降り立った。
しかしそこは、素っ気ない白い壁の通路入口だった。そのまま進んで、
これまた素っ気ない会議室みたいな部屋に通された。ここも壁が白い。
で、そっけないパイプ椅子に座って魂とやらの到着を待っている。
今の心中を、正直に言えば。
かつがれている、としか思えない。ものすごく手の込んだドッキリだ。
さっきのトラック転生シーンは実に凄かったけど、そこからが雑だよ。
ここが女神様のおわす天界ですよと言われて、どう信じろというのか。
どっかの空きテナントを借りた…と言われる方が、よほど納得できる。
もういっそ、あたしからネタばらしやったろうかしら。とりあえず、
外がどうなってるかをさりげなく…
「あ、この部屋から出ちゃダメだよ丑三ツちゃん」
気配を悟られたか、隣の柳橋さんにそう釘を刺された。…いやしかし…
「あの、お手洗いに」
「天界にトイレは無いよ」
「………………」
「あー、そもそも天界ってところを疑ってかかってる感じかな?」
やっと思い当たってくれたらしい。あたしは沈黙で同意を示した。
そんな卑屈な態度のあたしに対し、柳橋さんは苦笑して肩をすくめる。
「まあそうだよね。こんなショボい部屋に通されたんじゃあね」
「すみません、疑り深い性分で…」
「いやいいよ。確かにちょい説明が足りてなかったと思うから」
怒る風もなくそう言い、柳橋さんは室内をざっと見回した。
「だけど、これは安全措置なのよ」
「安全措置?」
「生きた人間が天界へ来るなんて、イレギュラーもいいとこだからさ。
こうやって、元の世界と同じ次元の空間を形成してそこに留めとくの。
もしもこことあの通路以外の場所に出たら、戻れなくなっちゃうよ」
「え…それってつまり…」
「文字通りのあの世行き。もっとも苦痛の少ない死に方でしょうね。
まあ、死んだって自覚もないよ」
………………
は?
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ドッキリの疑惑はまだ完全に晴れたわけじゃない。だけど少なくとも、
今の状況はそれなりに理解した。
要するにこの部屋は、深海潜水艇や宇宙ステーションに近いらしい。
生きた人間が、そのまま存在できる「環境」が意図的に作られている。
深海や宇宙空間に生身で出た場合、人間は一瞬でお陀仏だ。同じように
次元自体が違うこの世界に出ても、否応なしに死ぬ事になるんだとか。
いや、おっかないですってそれ!
「あ、魂が着いたみたいよ」
気にする風もなく柳橋さんが告げ、同時に壁のテレビの電源が入った。
実にそれっぽい荘厳な空間が映り、さっきのサラリーマンが立ってる。
魂とは言っても、光の粒子になった体が丸ごとここへ来たらしい。で、
いよいよこれから…
「来たよ、女神リプネリスちゃん」
「え…あ、ああ、はい」
「いつもながらお綺麗ですねえ」
玉見さんのコメントは実に的確だ。だけど、そんな簡単に感想を述べて
いいのだろうかと思う。それほど、女神リプネリスは圧倒的だった。
何と言うか、次元が違う存在です。
圧倒されてる間に、おなじみ(?)の転生の儀が始まろうとしていた。
…これ、別室のテレビで観るようなもんだったっけ?何か、別の意味で
ドッキリ感が拭えないんだけども。
まあいいや、慣れよう。
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「やっと終わったね」
「…終わりましたね」
「何か言いたげだね丑三ツちゃん」
「まあ、それなりに」
あたしの表情と口調で察したのか、柳橋さんはそれ以上問わなかった。
何が言いたいかなんて、問わずとも分かるだろうから。
女神リプネリスと、剛守さん白猫を救おうとした男性。転生に関する
交渉が終わった。控え目に言って、かなりグダグダと長かったと思う。
しかも内容が何とも…
「無限の魔力に全魔法使用まで付与されたのに、女神同伴希望って…」
「率直に言ってどうよ」
「どんだけ高望みなんだよ!と」
「だよねえ、うん」
うんうんと頷いてるのは、柳橋さんだけじゃない。すぐ傍らで聞いてた
玉見さんも剛守さんも同じだった。…うん、やっぱそう思いますよね。
あたしが厳し過ぎるとか、そういう話じゃないですよね?
…もちろん、テンプレだろって事は十分過ぎるほど承知してますが。
だとしても限度があるだろ!それを
「あ、リプネリスちゃん来るって」
「え!?」
驚く間もあればこそ、入口が開いて「女神リプネリス」が入ってくる。
ちょ、心の準備が!ってかあたし、会ってもいいんですか!?
「はあい、お疲れさまです皆さん」
まさに次元の違う容貌を持つ女神。
そんな彼女の第一声は、どこまでも普通な挨拶だった。
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「あー、やっと女の子入ったんだ。待ちかねたよ」
「ど、どうも初めまして。丑三ツと申します。以後お見知りおきを…」
「はあい、リプネリスです。どうぞよろしくね」
ガチガチに緊張するあたしに対し、女神リプネリスは気さくだった。
もはやドッキリとか何とか、そんな底の浅い疑念が入る余地などない。
五感全てが、目の前の存在の神性を全力で訴えかけているような感触。
ガチの神様ですね、この方。
「なかなか厄介な相手みたいね」
「そうなのよねぇ」
そんな女神に対し、柳橋さんの放つ言葉はどこまでもいつも通りだ。
この人、どういう立場なんだろう。もはや完全に想像の域を超えてる。
それはそれとして、今はどうしても訊きたい事がある!
「い、一緒に行くんですか?」
「行かない行かない行くわけない!そこまであたしヒマじゃない!」
思いっきり否定されました。何だかちょっと安心しました。
そうだよね、うん。
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「じゃあ、スキル認証は15歳ね。音声ガイダンスでお願い。記憶も、
そこで取り戻す事になるから」
「了解了解」
そんな言葉を交わしながら、女神と柳橋さんが何やら手続きをしてる。
スマホのアプリ起動して…何だろ、指紋認証で何か登録してるのかな。
どっちみち、女神はあの転生者にはついて行かないらしい。って事は、
音声ガイダンスというのはある種のアバターみたいなものなのかな。
ついて来てもらう気満々だったあの人が、何だかいたたまれないけど。
さすがに自分で何とかしなさいよと言いたい。って言うか当然だろう。
あんだけ万能になったんだから!
まあいいや。
女神が行かないならよしとしよう。ナニ目線だよって話だけどね。
「はい、じゃあ確かに」
「お手数だけど、よろしくね」
どうやら終わったらしい。
完全に場に慣れてしまってる自分が怖いけど、正直もう帰りたいです。
部屋に戻って、朝までぐっすりと…
「よし、じゃあ行こうか」
「はい」「了解です」
「はい…って、え?…行く、って?」
そこは「帰る」じゃないんですか?
「さっきの彼の転生を確認するよ」
「え!?」
思わず声が裏返ってしまった。
「確認って、まさか転生先の世界に行くんですか!?」
「そう」
「まさか15年後の!?」
「理解が速くて頼もしいわー」
「いやっ、それは…!!」
甲高い声がそこでつっかえた。
女神は面白そうにご覧になってる。いや、笑い事じゃないんですが!
「そもそもどうやって!?」
「トラックに乗っていくよ。まあ、今回はちょっと時間かかるけど」
「………………!!」
ダメだ。
何を言っても無駄な気がしてきた。
ここまで非常識のつるべ打ちでは、今さらあれこれと常識を語ったって
何の意味もないんだろう。ってか…
行けるんなら行ってみたいと思う、自分が確かにここにいるから。
「了解です」
「あら話が速い。いいわねえ!」
女神さまも何だか嬉しそうです。
思わず、あたしもちょっと笑った。何と言うか、過去最大の開き直り。
ここまで来て、グダグダと渋るのは性に合わない。それは間違いない。
そして柳橋さんも、あたしがそんなグダグダ言わないと思ったからこそ
採用したんだろうし。
いいよ。
並行世界に天界。で、次は異世界。今さら怖いものなんて何もないよ。
どこでも行ったろやないかい!
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