#最終話 常世と現世②
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──日彦命の帰還によって、四百年間分かれていた常世と現世が小さな裏鳥居でつながった。
桜梅桃李の花はあれからずっと咲き続け、参拝者たちを驚かせている。
戻ってきていきなり、「僕に黙っていなくなるなんて」と巴に泣きながらグーで殴られたが、「もうしばらくここにいる」と告げると、「この親不孝者め」とまた殴られた。巴のポケットの中で、俺があげた縁結びの鈴が鳴った。
どっちの返答にしても、俺が巴に殴られる運命は変わらないらしいが、彼の気持ちが俺には嬉しかった。
俺だって、たとえ嫌だと言われても、唯一無二の親友を手離したくはない。
宿禰さんの話では、すでに異なる歴史をたどっているため、現世に俺そっくりの人間がいたり、常世に美月さんそっくりの人間がいたりということはないらしいのだが、自分のドッペルゲンガーがいないかたまに不安になる。
月姫命と日彦命の神力の回復には、さらなる徳の集積が必要らしい。日彦命の神力を回復させ、常世の自然災害を止める。そして、月姫命の神力を回復させて、巫女神の役目を終わらせる。
そのため俺は、神力使いとして一週間のほとんどを美月さんのいる現世で暮らし、時々は常世に帰るという二重生活を送っている。
現世にいる間は、一が俺に化身し、身代わりを務めてくれているが、神力使いを務めるうちにあやかしが見えるようになってしまったため、常世でも祓いをすることになって多忙なのだ。
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今日も俺は、美月さんとつづらと一緒にいつもと同じように月姫神社を出る。
「ヤバい遅刻する!」
「ねえ夏輝くん。今日は朧に乗って行こうよ」
「いいけど……今日はこんなに天気がいいのか。俺、今日は学校休もうかな」
「な……夏輝くんが不良に!」
「いや。大仕事も終わったし、行事もないし、たまに休んだってバチは当たらないでしょ。それにせっかくだから一緒に海でも行きたいって言うか」
照れながら言うと、美月さんが微笑んでうなずいた。
「あれ、海ってこっちの方向だったっけ?」
「夏輝くん。月姫神社の裏山のてっぺんから五霜山まで飛ぶの!」
「こん!」
俺達を背中に乗せた朧が、裏山の山頂から五霜山の山頂めがけて空を飛んだ。
「うわあああっ! 俺高い所苦手! ……不幸!」
「きゃあ!」
宙に放り出される俺達。つづらがするりと俺の腕に巻きついた。抜けるような青空と、日の光を受けてきらきら輝く鳳凰の市街が真っ逆さまになって見える。
「危ない!」
俺は右手で朧の白毛を慌ててつかむと、バランスを崩した美月さんを左腕で抱きとめた。二人揃って、朧のふわふわの背中に落ちた。後ろには、見渡す限りの一面の雲と水縹の海が見える。
「そういえば、ピンクのユリの花の花言葉って『繁栄』らしい。あの時、お父さんとお母さんが、美月さんのことを護ってくれたんだね」
「ありがとう夏輝くん。お父さんとお母さんだけじゃないよ。夏輝くんが私を護ってくれてるし、私も夏輝くんを護るから。このユリが、きっと夏輝くんにも幸せをくれると思う」
美月さんが微笑んで、髪につけたピンクのユリの髪飾りを愛おしそうに撫でた。
「そりゃ俺は君をずっと護り続けるつもりだけど、そもそも君には危機管理意識と言うものが……」
目と目が合った。ユリの花に彩られた長く綺麗な黒髪と、雪のような白い肌。俺を見つめる黒目勝ちの潤んだ瞳を見るだけで、愛しさが募る。
俺はユリの髪飾りにそっと触れると美月さんを抱き寄せ、唇を重ねて瞳を閉じた。
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──掛けまくも畏き日彦神社の大神よ。
一つだけ願うならば。
俺達の子孫が、五十橿八桑枝のごとく、どうか末永く栄えていきますように。(完)
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それでは、また次作でお会いしましょう!




