#12 最後の氏子 後編
神力を使い果たした俺は、立っていられるのがやっとの状態だった。雷が鳴り響き、空の果てに竜巻の柱がいくつもの立ちのぼり、境内の枯れた桜の枝を吹き飛ばす。やがてその奥から永遠の闇が迫ってくる。
この世の終わりの風景。俺の家族が、友人たちが。美月さんが。つづらが。朧が。ゆりあが。
大切な人たちが虚無に飲み込まれていくのをただ見ているしかない。俺は、自分と同化した日彦命に向けて言った。
「小さい頃から日彦様は俺の心の拠り所でした。おかげで俺はつらいことにも耐えることができたし、不幸な自分を変えたいと思えた。貴方を信仰する人はもう他にいないかも知れないけど、俺は貴方と、貴方の創ったこの『常世』が大好きです」
返答はなかった。
「だから俺が最後の氏子として、感謝の心をもって貴方を鎮めます」
閉じてゆく世界の中で、日彦命を宿した俺は最後の力をふりしぼり、美月さんを
──月姫命をもう一度強く抱きしめた。
──巫女神と神力使い。
俺達二人が依巫となって、月姫命と日彦命の縁をもう一度結ぶ。俺の腕の中で、美月さんが願う。
「お願い。お父さん、お母さん。夏輝くんと私に、力を貸して」
美月さんの天冠に挿したピンクのユリの髪飾りが輝いたかと思うと、俺達の周囲一面にユリの花が咲き乱れた。そしてユリの花の生命力の影響で枯れていたはずの桜の木がよみがえり、次々と花を狂い咲かせた。まるで、俺が月姫神社の祭礼で舞う美月さんを初めて見たあの日のように。
あふれ出る桜色の輝きが、俺の身体を覆いつくしていた黒い穢れを吹き飛ばした。
⛩⛩⛩
気づくと、目の前には金色に輝く神気をまとう、漆黒の狩衣姿の麗しく優しげな男神──日彦命が顕現していた。
「ありがとう。私の心の闇を祓ってくれて」
不意に、カナカナカナカナ……とひぐらしの声が響いてきた。裏鳥居の向こうに、懐かしい月姫神社の景色が広がってゆく。
「日彦様。現世へ帰りましょう」
美月さんが日彦命に言う。
「いや。私は帰るわけにはいかぬ。創世した以上、私には最後まで常世の民を護る責任がある」
そこで俺は、大好きな神様へと提案する。
「日彦様のみたまは月姫様と一緒に現世に帰って、分霊に常世に残ってもらうと言うのは……?」
「それは可能だが、もう私には現世に顕現できるだけの神力がないのだよ」
「それなら俺が依代になって、日彦様を現世までお連れしますけど」
俺の提案に目を丸くした日彦命が、嬉しそうに目を細めた。
「君には驚かされてばかりだな。逆境の中にいると、困難を乗り切る知恵と力が身につくのだね」




