#10 花の色はうつりにけりな 前編
諸事多忙のためご無沙汰しており申し訳ありません。
今日から連載を再開します。
あと数話で完結予定です。
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春の日ざしの中、満開の桜が咲き誇る月姫神社の舞台の上で、扇と鈴を手にした美月さんが神楽を舞っている。
春風がざっと桜の花びらを吹き散らし、彼女が振り返る。
──初めて出会った時、桜の精かと思ったんだ。
「夏輝くん」
俺を見つけた美月さんが腕の中に飛び込んでくる。その華奢な体を抱きしめると、体温と胸の鼓動、愛する人が存在しているという確かな喜びが伝わってくる。この上ない多幸感に、胸が満たされてゆく。
「俺、常世に帰らなきゃ……」
「ここでは常世も現世も関係ないの。私達しかいない世界だから。このまま私だけをずっと愛してね」
「うん……」
うなずいた瞬間、辺りが夜になる。異変を感じ身を離すと、美月さんが俺の腕の中で息絶えていた。
「嘘だ。やっと君を手に入れたのに」
叫びも虚しく、その身体が醜く朽ちてゆく。
「嫌だ……嫌だ……俺を置いていかないでくれ!」
涙を落とし叫ぶ間にも、愛しい彼女の顔が、体が、あっという間に溶けてゆく。青黒く変色した彼女の肉をついばもうと鳥や動物が群がってくる。それを力ない手で追い払いながら、俺は泣いていた。
──気づくと黒ずんだ巫女装束の中に、か細い白骨だけが残っていた。
「花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに。──小野小町のような絶世の美女であっても、時間とともにその容姿は色あせ、最後には息絶える。長雨を浴びた桜の花のようにね。死は、容赦なく私達から大切なものを奪い、苦痛をもたらす。この世の理とは残酷なものだ」
脳内に響く日彦命の言葉とともに、渦巻く狂気と、全身をバラバラにされたような激痛が俺を襲う。気が触れてしまいそうだ。
「う……うああ……ああ……」
「夏輝くんしっかりして! これは幻覚。忌津闇神に憑かれかけてるだけだよ!」
美月さんの悲鳴に、我に返った。美月さんが狂気にのまれかけた俺を必死に揺すっていた。
──ひどいものを見せられて、ショックで体の震えが止まらなかった。




