#2 もうあの瞬間には戻れない 後編
これは美月さんに対する当てつけだ。金持ちで容姿に恵まれた華やかな幽浅のグループはスクールカーストの上位に位置すると言われ、そこに属すれば安定した高校生活が約束されていると言う話だが。
「……俺は行かない」
「あら。この私の誘いを断るなんて、後悔しても知らないわよ?」
「他人の家庭にどうこう言える資格なんてないだろ。お前の親こそ財産目当てで結婚したんじゃないの?」
俺の言葉に、幽浅の顔が豆鉄砲を食った鳩のようになり、続いて顔が怒りで赤くなった。
「はぁっ? 失礼ね! 行きましょ!」
幽浅と取り巻き達が、不快感をあらわにした表情で去っていく。
「なんだアイツ……」
「魂美、昔から美月のことをことあるごとに敵視して嫌がらせしてくるんだよ。でも、幽浅グループの娘だから誰も文句を言えないっていうかさ」
「私が悪いの。社務で学校行事に参加できない時があったから。感じ悪いって思われても仕方ないよ」
美月さんが小さな声で言った。学校行事への貢献度だけの単純な話じゃない。これまで育ってきた世界の違いに加え、同性へのライバル意識や嫉妬心といった感情が複雑にもつれて、すでにほどけない糸になってしまっているのだ。みんなに「大丈夫?」と心配されてうなずく美月さんの顔は、血の気が引いて青白く見えた。
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帰り道も美月さんの元気はないままだった。巴と別れた後、特に会話もなく花屋に寄る。どこに持っていくつもりなのか、美月さんがピンクのユリの花束を胸に抱えて歩いていく。
古い町並みから坂道を上ると、竹林が見えてきた。風に揺れる笹の葉のさざめく中に建つのは、白い石でできた小さな社だった。『蓬莱家奥都城』と書かれている。美月さんがユリの花を供える。
「お墓?」
「たまにお墓参りに来るの。お母さんの好きなユリの花を持って」
美月さんと一緒に、俺も手を合わせた。
「夏輝くんは、日本の国を生んだ伊邪那岐命と伊邪那美命の話を知ってる?」
「いや……何となくしか……」
美月さんの話はこうだった。




