表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/48

17 本棚を改善しよう

 翌朝の目覚めは、悪かった。

 起床してもしばらくは頭の中がはっきりしなくて、ベッドの上に座って猫の抱き枕を抱えたまま、ぼうっとしてしまった。


「……奥様。本日は出勤をおやめになったらいかがですか?」


 そう提案したのは、メイドの一人。

 彼女を始めとした屋敷の皆は、昨夜の大失敗を知っている。何人かの女性使用人はバルトに対して憤っていたけれど、それは筋違いだからやめるようにと言っておいた。


「大丈夫。ここでいきなり休むって言ったら、逆にバルトを心配させてしまうわ」

「しかし……」

「いいの。……仕度、お願いね?」


 笑顔で迫ると、彼女は渋々ながら「かしこまりました」と言ってくれた。


 バルトはやっぱり深夜ぎりぎりまで上司に連れ回されていたようで、帰ってきたのは夜更けだったという。

 その点も考慮されたのか、彼の本日の出勤はいつもより遅めで――それでもわざと私とは出勤時間をずらして、顔を合わせなくていいようにヘルベルトが工夫してくれた。


「おはよう。……昨夜はすまなかったな」


 お互い仕度を終えたところで居間で鉢合わせして、バルトに言われた私は瞬時に冷や汗がぶわっと噴き出したのを感じた。


 もしかして、夕食のことがばれた? ……と思いきや、バルトは私に背を向けて肩を落とした。


「今回のは本当に急だったから、連絡もできなかった。でもこれからは、可能な限り君のところにも連絡を入れるようにする」

「……ああ、気にしなくていいのよ。あなたも忙しいでしょうし……会食では、楽しく過ごせた?」


 どうやらばれてはいないみたいで、ほっとして聞いてみた。

 でもバルトはちらっと私を見ると、なぜか大きなため息をついた。


「……まあ、食事はおいしかったし酒も上質で美味だった」

「……そう」


 どうやら、食事についてはともかく「楽しく過ごせたかどうか」については触れてほしくないみたいだ。

 上司のことはともかくだとしたら……相手の子爵家の人とは、あまりいい話ができなかったのかもしれない。これは、突かないでおこう。











 昨日の天気からは一転、今日は朝から柔らかな日差しが差していて、土と緑の香りを孕んだ風がとても気持ちいい。


「それじゃあ、俺たちは昼まで下で訓練している。来客対応と午後の資料の作成を頼んだ」

「ええ、任せて」


 そう言って見習いたちを連れて訓練場に下りるバルトを見送り、一つ息を吐き出す。


 朝は憂鬱だったけれど、さすがに気持ちの整理がついた。

 バルトの言うとおり、お客様が来たりするまでにやるべきことをやっておこう。

 といっても、資料の作成はすぐに済むから……。


「これ、どうにかしようか」


 資料庫に向かった私はまず午後の準備で必要な本を取り出し、そして埃っぽい本棚と向き合った。


 バルトくらいの身長でやっと一番上の棚に手が届くくらい、大きな本棚。

 相変わらず中の資料は順番も場所もグチャグチャで、シリーズものでさえ背表紙に書かれている数字が並んでいない。


 ……日頃から口を酸っぱくして言っているからか、休憩所の洗濯物問題や私物をその辺に放り投げる問題はかなり改善された。

 しかも見習いたちはいつも訓練用のシャツを畳まされるからか自室で出す洗濯物も畳むようになり、洗濯場の使用人たちからとても感謝されているという。


 私物も、「ここは置いていい場所。他の場所に置いたものは処分します」と言うとちゃんと置くようになったし、かさばるだけで実質必要のないものは持ち込まないようになった。


 休憩所はいいとして……この資料庫はまだまだ改善の余地がある。というか改善しないと、バルトも見習いたちも困ることになるのでは。


 この魔界のような本棚をどうするか、日頃から考えていた。

「本棚整理当番を作る」という案を考えたけれど、これは相談したエトヴィンに、「あいつらはそういう当番制が嫌いだし、絶対揉めます」とやんわり却下された。


 どうやら、見習いたちに新しい当番とか係を任命するのは逆効果らしい。

 むしろ彼らが軍人として鍛えられていることを利用して、「皆でこういうルールの通りにしましょう」と規律を守らせる方が効果があるのだ、とエトヴィンが教えてくれた。さすが、年長者の提案はすごく納得できた。


 それならまずは、忙しいバルトや規律の通りに動く見習いたちが探しやすく、なおかつ元の場所に戻しやすいように本棚に工夫をしよう。


 用意したのは、資料庫の隅に重ねられていた木片。元々は何かの材料にするつもりだったのが不要になり、そのまま放置されているものらしい。


 木片はどれもそれなりに厚みがあって、大きさは本棚にすっぽり入るくらい。

 私はインクを使ってそれらに、「地図」「図鑑・植物」「歴史・古代」「武具」という言葉を書いていく。書き間違えても、木だから表面を薄く削れば再利用できる。


 これらは、本の分野だ。

 子どもの頃に父に連れられて訪れた王都の図書館には棚ごとにこういう分類の札が下がっていて、目的の本を探しやすかった。それをヒントにしている。


「この辺を、歴史にする。こっちが植物で、この辺は取りにくいからあまり読まれそうにないものにする……」


 本の分野を書いた木ぎれを仕切り代わりに、本棚に差し込んでいく。もちろん、今棚に並んでいるものとその分野は一致するわけではない。

 でも、ひとまず今日のところはこれでいい。


 今後この本棚の本を使って読み終わったら、分野ごとのエリアに入れるよう指示する。

 最初は入り乱れてグチャグチャになるのは分かりきっているけれど、私も時間のあるときに整理しつつ、皆もきちんと指定の場所に入れるようにすれば……分野ごとに固まった場所に本が集められるようになるはずだ。


 そこからさらにシリーズものは順番に並べて……という作業が必要になるけれど、これはもっと後になってからでいい。まずは、「こういうルールです」というのを徹底しないとね。


 なかなかいい仕事ができたはずだ、と自分を自分で褒めた私は、午後の資料作りをするために資料庫を出ようとした……ところで、廊下の方で何人かの話し声がすることに気づいた。


 てっきりバルトたちが早めに帰ってきたのだと思ったけれど、どうも若い女の子の声が聞こえる。

 もしかしたら掃除係の使用人が来たのかもしれないし、それこそバルトに頼まれていた来客対応が必要な場面かもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ