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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
二章 戦略的敗北と戦術的勝利
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作戦開始

 二日目の朝、東から進行するハワード・ニコラス准尉を教官にもつ第一部隊は、ブレ一つない行進をして、気持ちが悪いほど予定通りに進行していた。


 ニコラスに叩き込まれ、計画通りに行動するようによく訓練された第一部隊は、地図と照らし合わせながら平原を進む。


「ここまでは順調だな」


 黄色い腕章をした第一部隊の指揮をとるのは、茶髪にそばかすが目立つ白人のティム・ノーマン上等兵。


 珍しい金色の虹彩を持つ彼は、だだっ広い平地を、気分よく進んでいた。


「小隊長! 今日中には目的地に到着し、第二部隊並びに第四部隊と合流できると思われます!」

「そうだな。第三部隊は、慣れない高低差と森で足踏みしているだろうし。今頃は山道を抜けて森を進んでいるはずだな。自業自得といっても、気の毒としかいえないよな。俺たちにとっても簡単過ぎて演習の意味がないくらいだ」


 なんとも張り合いがないと言わんばかりに、ティムは溜息をつきながら進行を続ける。


「時間はちょうど昼時か……。そろそろ休憩を挟む頃合いだな」


 ティムは太陽の位置で時間を確認しながら指示を出す。


「全体止まれ! これから三十分ほど休憩を取る!」

「「サー・イエス・サー」」


 元気の良い返事を聞き、自分も座り込んで携帯食料を食べ始める。


 ボソボソのレーションは決して美味しいといえるものではなく、それは口の中の水分を根こそぎ奪い取って腹に入るため、口の中はみるみる乾燥していく。そのため、水筒の水を大幅に減らすことになるが、そうも言ってられない。腹は満たさねばならないし、喉も潤わせなければ、進行なんてできやしない。


「早く終わらせてしまいたいな。勝てないのだから、さっさと降伏してくれると楽なんだけどなぁ……」


 溜息をつきながら再びレーションを口に放り込むと、一人の部下がバタバタと後ろの方から慌ただしく駆け寄ってきた。


「なんだ? 騒々しいぞ。どうかしたのか?」

「小隊長! ご報告します! こちらに接近してくる部隊があります!」

「……は? え?」


 予想だにしない部下からの報告に、一瞬フリーズして困惑するティム。だが彼も小隊長に選ばれた者だ、この中で一番状況把握能力は高い。


 必死に頭を整理し、把握すべき情報を集める。


「まだ合流地点にはついてないはず……。どこの部隊だ? 接近してくる部隊はどの方角だ?」

「北からです! あれは……だ、第三部隊!? 白兵が武装解除してこちらに向かっています!」


 その報告を聞き、目を見開くティム。


「はぁ!? こんなに早く森を抜けてくるなんて! しかも武装解除済みだと!? こちらの位置が明確にわかっていたというのか!? 急いで隊列を組め! 横列に並んで迎撃用意!」


 ティムの指示は的確で素早かったが、予想外の出来事で指示も、それを聞いて動く兵も後れをとった。


「突撃ぃーー!!」


 褐色の肌を持つ、第三部隊の白兵分隊長リカルド・ノーマン二等兵の掛け声で、第一部隊の隊列の横っ腹を貫くように突撃した。


「うわぁー!!」

「ひぃぃ!」

「ギャアアア!」


 次々と〝戦死者〟が生まれる第一部隊は、対応しきれず真ん中から横倒しに攻められる。


 切り離された第一部隊の右翼は、リカルドの掛け声で真っ先に突っ込んできた紫暗の瞳を持つレオン・サウザー二等兵によって、次々と戦死者を増やしていく。大柄な体躯を活かし、片っ端からなぎ倒していく様は圧巻だった。


 さっきまでと打って変わり、ティムの顔から余裕が無くなり、蒼白になっていった。


「じ、銃撃兵! 急いで隊列を立て直して奴らを撃て!」

「駄目です! まだ戦死してない仲間がいて迎撃できません!」


 第三部隊の白兵分隊と交戦中の仲間が邪魔で銃撃することができず、仲間が戦死する様を見せつけられていた。


「何!? くそっ! もういいこれは演習だ! 実弾じゃない! そのまま――」


 指示を出そうとした時、第三部隊の白兵が中央を開け、両翼に展開した。次の瞬間、銃撃音とともに横列に展開していた第一部隊はペイント弾の嵐に見舞われた。


「え……? な、何が……?」


 驚きの顔のまま硬直するティムの頭と胸、腹には赤色のペイント弾がべっとりと付いていた。それは戦死を示すには充分だった。


「小隊長と思われる人物の戦死を確認! 左翼クリア! レオンさん、右翼は?」

「……終わった」

「第一部隊制圧完了です!」


 リカルドの言葉を聞き、勝利したという事実に、第三部隊は一気に沸き上がる。


「「うおーー!!」」

「やった! 第一部隊を落としたぞ!」

「これはいけるかもしれない!」


 第一部隊を落としたことで、兵の士気が高まって行く第三部隊。その状況をティムは未だに理解できないでいた。


「各分隊は被害状況を報告。その後、第四部隊制圧に取り掛かる」

「「サー・イエス・サー!」」


 戦いが終わり、呆然とするティムをよそに、勝利に酔い始める部隊を諫め、淡々と指示を出す黒髪の少年。


 その胸には小隊長であることを示す三つ星の印。彼が第三部隊の小隊長ショウ・マクレイア上等兵だという事を理解したティムは、あっという間の出来事に困惑しながらも、自分の中に生まれた疑問をぶつけずにいられなかった。


「どう……して……? どうしてお前らがこんなとこにいるんだ!」


 その言葉を聞いて相手を一瞥した後、半ば面倒くさそうに、ショウは言葉の主の方を向く。


「お前は〝戦死〟したんだぞ? それとも気づいてなかったのか? まぁいい。いい事を教えてやる。死人は喋れないんだぞ? 死人と喋ったって時間の無駄だ。お前ら第一部隊は規則と時間を大事にするんだろう?」


 正論を交えながら、呆然と座り込んでいるティムを見下ろした後、ショウは現状況を把握するためにそれぞれに連絡を取る。


「コナー! トランシーバーを!」

「はい!」


 コナーはすぐさまショウにトランシーバーを手渡す。


「小隊長から陣へ。カールソン二等兵、聞こえるか? over」

『聞こえてるよ~。感度良好~。over』

「よし、現在の第二、第四部隊の位置はどうだ? そこから確認できるか? over」

『うん。今は第二、第四部隊は予定よりも早くボーダーラインを北上中ってとこかなぁ~。over』

「了解。今日中には合流するな……」


 ショウは一考し、もう一度トランシーバーを使用する。


「小隊長からソルへ。ソル、応答しろ。over」

『おう、聞こえてるぜ。なんだ? ショウ?』

「準備は進んでるか? over」

『んー、まずまずだな。今日中にはなんとかなるかな。 えっと、over?』

「問題ない。今日中に頼む」


 慣れない報告をするソルクスに思わず笑みをこぼしたショウは、次の指示を出すために動き出す。


「小隊長から分隊へ。これよりパターンBに移行する。繰り返す、パターンBに移行する。分隊は各自持ち場につけ。over』

『白兵分隊、承知致しました! out

『銃撃兵分隊、承知しました、ハイ。out』

『こちらカールソン、了解です~。out』

『こちらイグルス一等兵。りょーかい! out!』


 すべての通信を終了し、トランシーバーをコナーに返す。


「第二、第四部隊の戦力合流は避けられませんね」

「まぁ大方予想通りだ。それぞれの分隊からの被害は、戦死者並びに重傷者ゼロ、軽傷者が数名のみ。これは思ったより好感触だな」

「そうですね! ショウさんの指示が的確だったから、最良の結果になったんですよ!」

「いや……俺じゃなくて、ソルのおかげだ。ソルがあの時みんなに一喝入れてなかったら、兵の士気も練度も落ちてたはず。いつも通り、いや、それ以上に動けたのは、あいつのおかげだ。後で礼を言わなきゃな」


 コナーはショウのソルクスに対する評価を自分のことのように嬉しく、誇らしく思った。


「取り敢えず一つの山は越えた。日が傾くまでに北の森に引き返し、休息をとる。明日からが本番だ。気を引き締めるぞ!」

「はい!」


 第一部隊を落とした勝利に酔いしれるということもせず、隊列を組み直し、第三部隊は北の森へ引き返し始めた。


 一羽のカラスは相変わらず上空を旋回し続けていた。




    *     *     *




「見事にやられましたなぁ、ニコラス准尉! 全員が素直に中央の交戦しやすい場所に向かうかと思いきゃ、一番距離が近い東側の第一部隊を直接叩きに行くなんてなぁ! 全く味な真似しやがって! まぁ勝つためにはそれが一番有効だろうよ! よく気付いたなぁ!」


 サイラスは腹を抱えて笑った。


「森をほぼ最短距離で迷わず抜けて突撃してくるなんて……。森への斥候はそのためか……。はぁ……。二日目にして僕の部隊は退場ですか……」


 ニコラスは堪らず溜息を洩らした。


「君の部隊は悪くなかったよ。君の真面目さがよく出ている部隊だと思うよ、ニコラス准尉。君の部隊は他の部隊より洗練されていると思うし、とても計画性があってよく勉強していることがわかる。ただ計画性に縛られすぎて突然の出来事に弱かった。そこを上手いこと利用されてしまったわけだね。さらに言えば、ある程度他部隊の特色を理解していたマクレイア上等兵からすれば、寸分たがわず移動していた第一部隊の居場所を特定するのは容易なことだっただろうね」


 ペトロフは賞賛すべき点と、反省するべき点を二つ同時に並べる。


「柔軟性と他部隊の事前調査が足りませんでしたね……」

「そうだね、ニコラス准尉。兵を育てるって大変だろう?」

「はい……。本当に、難しいです……」

「さて、先生の部隊は各個撃破作戦と見ましたが、第二、第四部隊はこのままいけば、今日中に合流する。今回のように各個撃破はできないし、合流しているかどうか見極めなけりゃならない。先生の部隊はどう出るか……。面白くなってきた!」


 前のめりになりながらサイラスはモニターにかじり付く。ニコラスも、隣で反省点をメモしながら演習の行く末を見守り続けた。


「けっ。戦力合流さえできりゃ、どの道第三部隊に勝ち目はねぇよ」


 バーグは一人、面白くなさそうな顔をしていたが、ペトロフはその様子を特別気にもせず、第三部隊の行動を見守る。


 ――第一の試練は突破したようだね。中々いい判断だったよ、マクレイア上等兵。私の心配は杞憂に終わったようだ。私のヒントにも気づいてもらえたようだしね。しかし、ここからが問題だ。君は私の想像をはるかに超えて成長している。君には勝ち筋が見えているんだろうね。さて、これから君はどんな指示を出すのか……


 ペトロフはモニターの先にいる黒髪の少年に期待せずにはいられなかった。


どうも、朝日龍弥です。

見事第一部隊、チュートリアルをクリアしたショウ率いる第三部隊は、今後どうなるのでしょうね。

第二章に入って、ちょくちょく新キャラが登場していますが、彼らが準レギュラーとしてよくしゃべるのは、まだ先の話……。

暫くは、ショウ、ソルクス、コナーを中心に話が展開されていきます。

賑やかになってくるぞぉw

次回更新は5/30(水)0時となります。


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