心の言葉
ふと目を閉じると、忘れることのできない気色の悪い感覚が身体中を這い回る。視覚という感覚が制限される事により、コナーはより鮮明にその感覚を思い出してしまう。いつ如何なる時も、コナーはその感覚に怯えていた。それが顕著になるのが、夜である。
瞼を閉じずとも訪れる暗闇に、コナーは怯えていた。多量に摂取している薬による幻覚、目を閉じて眠った時に見る夢。夢でも現でも、コナーの気が休まることはなかった。
それでもネイサンやショウに休めと言われ、睡眠薬を飲み、コナーは真っ暗闇の夢の中へ誘われる。
「……ここは?」
気が付くとコナーは暗闇の中、独りで立ち尽くしていた。辺りを見回しても、自分以外の人影は無く、どうしようもない不安で一杯になる。
「だ、誰かいませんか!?」
自分の問いかけに答える声はなく、コナーの声は恐ろしいほど暗闇に吸い込まれて行く。
「泣き虫コナー」
「!?」
突如聞こえて来た聞き覚えのある声に、コナーは反射的に振り返る。そこには、実の兄弟たちがジッとコナーを見つめていた。
「臆病者のコナー」
「ただ飯食らいめ」
「あんたは何処に行っても役立たず」
兄弟姉妹全員から罵倒を浴びせられ、コナーはギュッと目を瞑り、必死に耳をふさぐ。
「違う! 違う! 僕は役立たずなんかじゃない! 違う!」
座り込むコナーの前に、ゴミを見るような目で見下す母の姿が現れる。
「いいえ、コナー。あなたは役立たずの使えない子」
「違う! そんなことない!」
「何処に行ってもあなたは要らない子なのよ」
「嫌だ、嫌だ、嫌だ! 聞きたくない!」
コナーは踞り、強く瞑られた目からは涙が流れていた。
「ひっく……。ショウさん! ソルさん!」
「「コナー」」
ショウとソルクスの声を聞き、顔を上げると、辺りは明るく、いつの間にか一時帰宅で訪れたショウの自宅で、三人は席についていた。
「あ……れ?」
「コナー。お前に渡すものがあるんだ」
ショウはそう言うと、コナーの目の前に除隊届けを差し出す。
「あ……、嫌……」
「あのなコナー! 第三部隊にお前は要らねぇーよ」
「ソル……さん?」
「そうだ。ハッキリ言ってお前は足手まといだ」
「ショウ……さん?」
二人の言葉に、コナーの身体はずっしりと重たくなる。
「お前がいなかったら、俺とショウはあの場を切り抜けられたはずだ」
「お前さえいなかったら、俺たちは拷問されることはなかった」
「それは――」
コナーは言い返すことができない。自分があの時残ると言わなければ、こんなことにはならなかったのではないか。そんな思いがぐるぐるとコナーの思考を泳いでいる。
「邪魔なんだよなぁ。お前」
「俺たちの後ばかり付いてきて、迷惑だ」
「そ、そんな――」
黒く塗りつぶされた二人の顔。その口から出た言葉は、自分が言われたくない言葉。
「お前なんか――」
「い……やだ……」
「「要らない」」
「うわぁあああああ!!」
耳を塞いでも頭の中に響く言葉に、コナーは苦痛の声をあげた。
いつの間にか、またあの暗闇の中に戻されたコナーは、独り、その場で崩れ落ちる。
「本当に酷いやつらだなぁ。みんなの為に、コナーは自分の出来ることを精一杯してきたって言うのに。冷たいやつらだねぇ……。そうは思わないかい?」
コナーの背後からそっと近づき、スラッグは踞って泣いているコナーの背中に触れる。
「ひっ!!」
「そう怖がることないよ。俺は他の奴らと違ってコナーを必要としてるんだから。おっと、こんな真っ暗な場所じゃダメだなぁ。もっといいところに行こうか」
スラッグがそう言うと、辺りの景色が変わる。
「あっ……ぁあ!」
コナーの眼前には、脳裏に焼き付いて離れない廃屋の情景が広がる。
「大丈夫だよ、コナー。きっと君も気に入る」
耳元で囁かれ、コナーは全身が強張ると同時に、腹の下から苦痛が迫り上がってくる。
「ぁああああ!!」
叫声と共に飛び起きたコナーは、全身から汗を吹き出していた。顔は青白くなり、肩で呼吸するようになっていた。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
――落ち着け! アレは夢だ! 落ち着かないと!
コナーは自分が恐怖と不安に支配されている事を自覚し、再び過呼吸にならないように必死に呼吸を整えようとする。だが、呼吸に集中しようとした所で、腹の奥から迫り上がる物を感じ、コナーは両手で口元を強く覆った。
「うっ……」
――早くトイレに行かないと……
ゆっくりと、気だるく重たい自分の身体をベッドから起き上がらせようとしていると、コナーは一つの視線にハタと気がついた。
「ショ、ショウさん!?」
コナーの視線の先には、ベッドに腰掛けた状態でコナーの様子を見ていたショウが居た。
「ど、どうしたんですか!? こんな夜更けに……。眠れないんですか?」
コナーは反射的に口元を覆っていた手を下げ、何事もないように振る舞い始める。
「……眠れないのは、お前だろう? コナー」
「え?」
月明かりが差し込む部屋で、お互いの姿ははっきりと確認できる。ショウにはコナーの目は光がなく、吸い込まれそうだった瞳は、くすんで見えた。
「何……を、言ってるんですか? そんな事ないです。ちゃんと眠れてますよ?」
「さっき、魘されてたろう? 起こす前に起きちまったけどな」
「そんな事……無いです」
コナーは先ほどの夢を思い出し、食道から胃にかけて気持ち悪さを感じる。
「じゃあ、さっきは何処に行こうとしてたんだ? 消灯時間は過ぎてるぞ?」
「それは、少しトイレに……」
「あのな、コナー。話があるんだ」
――あ、やばい
ショウはベッドから立ち上がり、コナーに近づく。
「僕は大丈夫ですから!」
――それ以上近づかないで
「ショウさん、僕本当にトイレに――」
ショウはコナーの肩に触れ、真っ直ぐにコナーを見つめる。
――やめて
コナーは目を見開き、動揺している様に見えた。
「コナー……」
ショウは安心させようと優しく語りかけ、コナーに出来る限り近づいた。
「うっぷ」
「!?」
突然両手で口を覆ったコナーは、間髪入れずに胃から流動食と胃液を吐き出してしまった。
ショウの腹のあたりは嘔吐物塗れとなり、それを見たコナーの顔はより一層青ざめた。
一番見られたく無い人に見られ、あまつさえ、それを浴びせてしまったという事実は、残っていたコナーの精神を砕くには充分だった。
「あ……あぁあああ!!」
悲痛な声をあげ、目を涙で一杯にするコナーをショウは静かに、力強く抱きしめた。
「大丈夫だ。吐き出せるもの全部吐いちまえ」
止めようとも自分ではどうしようもない吐き気を、コナーは我慢することができず、その場で吐き出してしまった。ショウはシャツの裾をそっと持ち上げ、それを受け止める。
コナーは立っていられず、崩れ落ち、膝をつく。ショウはコナーに合わせて座り込み、ベッドに寄りかかる。
「大丈夫、大丈夫だから」
コナーの頭を胸に抱き寄せたまま、静かに撫でる。コナーは嗚咽を零しながら、小刻みに震えていた。
「うぅっ……ショウさん。あい、あいつが! 居るんです!」
「あいつ?」
「死んだ、死んだはずなのに……。見られている感覚が……触られる感覚がするんです。怖くて苦しくて、息もできない気がして、そのうち吐き気がするんです。目を閉じる度に、瞬きをする度に、あいつが出てくるんです! 離れてくれない!」
「!?」
自分の腕の中で震えるコナーが、何に怯えているのか、ショウには容易に想像できた。
――殺してもなお、コナーから離れないのか……。本当に蛞蝓みたいなやつだ。
「大丈夫だコナー。もう、ヤツの好きなようにさせない。側にいるから。大丈夫。大丈夫だから」
ショウはコナーを包み込むように優しく強く抱きしめた。
「――んです」
「ん?」
「ここに居たいんです! うぅっ。僕は、まだ……っ、出来る、から!」
「……」
「役に、立てます! っ……僕は! 僕!」
「……そうだな」
「皆さ、んと! 肩、肩を、……っ、並べて! 一緒に、たた、戦いたい!」
「……そうだな」
ショウは必死に苦しみを吐き出すコナーの言葉を受け止め、静かに頷いていた。
「だか、だから! ……っ、要らな、いって! 要らないってっ! 言わっ、言わない、でっ!」
「っ!!」
嗚咽を漏らしながら必死に懇願するコナーを見て、ショウはコナーを一層強く抱きしめた。
ショウは知っている。
家族に必要とされず、口減らしの為に軍へ入隊させられたコナーを。捨てられたも同然な扱いを受け、劣等感に塗れて自信をなくしていたコナーを。
そして、自分達と出会い、共に成長し、やっとの思いで自分の居場所を確立した。
誰よりも第三部隊を愛しているコナーを、ショウは知っている。
――あなた。本当はコナーちゃんの事、全然考えてないんでしょ?
ネイサンに言われた言葉が頭に浮かんでくる。予め根回ししていた除隊届けを渡されたコナーの顔を思い出し、自分が如何に未熟で、自己中心的な考えをしていたのか、改めて思い知らされた。
「そんな訳ない」
「え?」
「お前がっ! 要らない、訳が、無いだろうが!」
苦しそうに出た言葉に、コナーはぎゅっと口を結んだ。
「でもっ! 僕っ! ショウさんと、ソルさんのっ、足をっ、引っ張ってばかりで!」
「そんな事ない! 俺が! 俺達が! この第三部隊が! どれだけコナーに助けられてきたと思ってる!」
「そんなっ! だって! ショウさん!」
「俺は……」
何をどう言えばいいのか分からず、ショウは一瞬言葉に詰まる。
――ちゃんと、言葉。言わないと分からない。隊長の心、言葉、伝わらない。
――下手でいい
レオンに言われた事を思い出し、ショウは話を続ける。
「怖かった……んだ」
「……え? ショウ、さんが?」
「……ああ」
「どう、して?」
「コナーは、俺やソルにとって、ただの仲間じゃない。本当に弟のように思ってるんだ。だから……」
自分の弱さをあまり外に出してこなかったショウは、緊張し、躊躇い、恥じていた。だが、自分の想いを伝えようと必死に言葉を紡ごうとしていた。その姿を、コナーは少し戸惑いながらも、静かに聞いていた。
「お前を失ってしまう事が、怖かったんだ」
「あ……」
「俺はな? コナー。お前が思っているほど、勇敢でも、強くも無いんだ。本当は臆病で弱い人間なんだよ。コナーよりもずっとな」
「そんな事――」
「コナー。俺はな。お前の為に除隊届けを渡したんじゃ無い。きっと、いや、全部俺自身の為だったんだ」
「?」
「俺は、自分がどれだけ痛めつけられようが嬲られようが耐えられる。だけど……」
か細く、震えたショウの声を聞き、コナーは涙と嘔吐物で塗れた顔をあげる。その時、コナーの頰に暖かい雫が落ちてきたのを感じた。
「俺が、大切に思ってる人が……。傷ついて苦しんでいる姿を見るのは……耐えられなかった……」
「あ……」
「コナーを護りたいだなんて、大義名分に過ぎなかったんだ。コナーが傷付いてる姿を見るのが耐えられないが為に、お前をここから遠ざけようとした。除隊届けを渡して、守った気になっていた。コナーの気持ちも知らずに……」
――ああ……
「これは、全部俺のエゴだ。コナーの事を何一つ考えていなかった。全部、俺の……為に……」
――ショウさんも苦しんでたんだ
ショウが苦しそうに自分の心の内を吐き出すのを見て、コナーはここで初めてショウの気持ちを、本当の意味で理解し始めた。止まっていた涙がコナーの瞳からとめどなく溢れ出た。
「俺は、隊長失格だな。って、コナー!? すまない! 俺ばかり喋って! どこか苦しいのか? まだ吐きそうか?」
ショウは慌ててコナーの涙をぬぐい始める。
――この人は本当に……
「ちが、違うんです」
「ん?」
「僕、僕はわかってたのにっ! ショウさんが、苦しんでる事! ショウさんが優しい人だって、知ってっ、知っていたのに! 僕は自分の事、うぅっ、ばかりで! ショウさんやソルさんの、事っ、怪我だって、治療して、ひっく、なくて!」
「いいんだよ、そんな事気にしなくていいんだ」
「でもっ! でもっ!」
「コナー、俺がお前を追い詰めてしまったんだ」
「ちがっ、ショウさん」
「ごめんなぁ……コナー」
コナーに謝る瞬間、ショウ自身が抑え込んでいた感情が涙として溢れ出てくる。あれだけ口にするのが難しかった事が、今では下手なりにも、素直に口にする事ができるようになっていた。
「コナー、第三部隊にはお前が必要だ。こんな不甲斐ない俺を、俺達を。またこれからも変わらず支えてくれるか?」
「うぅっ……ショウさん。僕、僕はっ」
コナーは大声で泣くのを我慢し、肩を震わせながら、嗚咽をこぼしていた。
「コナー、もう我慢なんかしなくていい。お前は足手まといでも、臆病でもない。俺達よりも強くて勇気のあるやつだ。他の奴が何と言おうと、俺達は知っているから。恥ずかしがることなんかない。泣いたっていいんだ」
ショウの言葉を全て受け止めたコナーは、今まで押さえ付けていた感情が一気に決壊した。
コナーの泣き乱れた声は、宿舎全体に響き渡った。その声を聞き、ショウは優しく包み込み、共に泣いた。コナーの声はしばらく続いた。
* * *
泣き疲れたコナーが、ショウの胸にもたれかかりながら眠った頃、ショウはようやく胸をなでおろした。
安心感からか、全身の力が抜ける感じがする。そしてショウは、鼾もかかずに、二段ベッドの上で寝そべっているソルクスに声をかける。
「おい」
「……」
「起きてるんだろう?」
「……おう」
「ちょっと手を貸せ、身体が痺れて動かせない」
「あいよ」
ソルクスは身軽にベッドから飛び降りる。
「うっわぁ、ひっでーな」
「仕方ないだろう」
そう言って、ショウはドアを見やる。
「ネイサン。居るんだろう? 他も、手を貸してくれ」
「はいはい。わかってるわよ。ちょっと待って」
ショウがそういうと、部屋のドアが開き、ネイサンに続いて、いつもの面子が顔を出す。
「いやぁー、凄いことになってますねぇ、ハイ。かなり臭いますよ」
「文句言わないで、手伝ってください! コナーが受けていた仕打ちに比べれば、こんなの、汚くも何とも無いです!」
鼻をつまむヨダに、リカルドは怪訝そうな顔をした。
「そりゃあ、リーくんはそうだべな」
「リッキーはコナー教の教祖だからね〜」
ラウリとカールソンの言葉に、ヨダは不気味に笑う。
「リッキーにとっては罰ゲームと言うより、むしろご褒美でしょう。ああ、本当に気色悪いですねぇ、ハイ」
「なっ!」
「リーくん、それはさすがに引くが……」
「ななっ!」
「僕はご褒美はドーナツが良いけどなぁ〜」
ぞろぞろと部屋に入り、この現状について言及する四人に、ネイサンは大きく溜息をついた。
「つべこべ言って無いで手伝ってちょうだい! ソルちゃん、コナーちゃん持って。カールとヨダちゃんはコナーちゃんの服を脱がせて、拭いてあげてちょうだい」
「えぇー、私がですか?」
「ヨダ、諦めなよ〜」
「別に床のゲロ掃除でも良いのよ?」
鋭く睨みをきかせるネイサンに、ヨダは肩を浮かせた。
「やりますから、ソレはリッキーにやらせてくださいよ。きっと喜んでやりますから」
「ヨダさん、あなたは私のことなんだと思ってるんですか?」
「そんなの決まってますよ。変た……ゴホッ。人が嫌な仕事を率先としてやってくださる、心優しき聖職者です」
「ヨダさんが、私をそんな風に思っていたなんて……。私、感動しました! 良いでしょう! ラウリ! 一緒に掃除をしますよ!」
呼びかけられたラウリは、ほとほと呆れかえっていた。
「リーくん、ウヌは相当の阿呆じゃ……」
「はい?」
「いんや、何でもね」
「じゃあ、頼んだわよ。私は隊長の包帯を巻き直したりするから」
ネイサンはレオンを呼び、ショウに手を貸す。
「お疲れ様。カッコよかったわよ」
「別にカッコ良くなんかない」
自分の不甲斐なさに、ショウは自嘲した。
「それにしても、いつから見てたんだ?」
「いいえ、何も見てないわ」
「……?」
「全部聞いてただけよ」
「はは。丸聞こえか」
見栄も外聞もないなというショウに、ネイサンは微笑んだ。
「大丈夫。隊長とコナーちゃんの会話は、外にいた私達でも全部は聞き取れてないから。流石にコナーちゃんの泣き声は宿舎中に響いてたから、事情説明にマルクス達が回ってくれているわ」
「そうか。何から何まで迷惑をかけるな」
「迷惑だなんて誰も思ってないわよ。しかし、酷い有り様ね」
ショウの状態に、ネイサンは苦笑した。
「まさかゲロまで受け止めちゃうなんて思わなかったわ」
「それは俺も予想外だった」
「ほら、脱いで。身体拭いて包帯替えるから」
「いや、シャワーを浴びてくるから、少し手を貸してくれればいい。身体も痺れてるし、まだ一人で立ち上がるのは億劫で――うぉっ!?」
レオンは言い終わる前にシャツを脱がし、ショウを担いだ。
「……おい、もっとなんかやり方がなかったのか?」
「これ、方が、早い」
「……そうか」
「じゃあ、レオ。隊長をお願いね。隊長、戻ったら包帯巻き直すわ。その間にコナーちゃんに輸液の準備をしちゃうわね」
「分かった。じゃあ後で」
「ええ」
ショウはレオンに担がれながら、風呂場へと向かった。
「さてと!」
ネイサンがコナーの方を見やると、嘔吐物が付いた服を押し付けあっているカールソンとヨダに目もくれず、コナーの身体を拭くソルクスがいた。いつもの彼には似つかわしくないほど、優しく身体を拭いていた。
「ソルちゃん。代わるわよ?」
「んあ? 別にいいよ。嫌じゃねぇーし、それに……」
「それに?」
「俺はショウみたいに出来ねぇーし、ああ言うのは苦手だからよ。任せちまった分、俺がやらねぇーと行けねぇし。コナーは俺の弟分……弟、だからな。俺が面倒見てやらねぇと」
「……そう」
身体を拭き終え、ソルクスは大事そうにコナーをベッドに寝かせる。
「ソルちゃん、ちょっとそこ貸して。コナーちゃんの輸液の準備するから。ほらー! ヨダちゃん、カール! いつまでも遊んでないで輸液セット持ってきてちょうだい!」
「えぇー……」
「僕らが行くの〜?」
あからさまに不満を垂れる二人に、ネイサンは嘆息してしまう。
「当たり前でしょう? ほら、早く行ってきて! みんな忙しいの!」
「はぁー、仕方ないですねぇ……」
「ヨダちゃん? 医務室に行くと見せかけて、部屋に戻ろうとするのはダメよ」
ネイサンの抜け目ない言葉に、ヨダは舌打ちをした。
「十五分以内に戻ってこなかったら、レオの人間マフラーの刑にするわよ」
「さっさと行ってさっさと帰りましょう、ハイ」
「僕はヨダの人間マフラーの刑に興味があるんだよなぁ〜」
「カール、そんなものに興味を持たないでくださいよ」
ブツブツ言いながらも、二人は医務室に向かった。
「全く、目を離すとすぐああなるんだから」
コナーの様子を見ようと振り返ると、ソルクスがジッとコナーの寝顔を眺めていた。
「どうしたの?」
「揺すっても、何しても起きねぇーでやんの」
「そうね」
「でも……」
「ん?」
「いい顔してらぁ」
幸せそうに眠るコナーの顔を見て、ソルクスはいつものようにニカッと笑った。
「ふふ、そうね」
ホッとしたソルクスの顔を見て、ネイサンも肩の荷が下りた気がした。
どうも、朝日龍弥です。
見守ってくれる仲間っていいですよね。
長かった七章も、次回で最終回となります。
よろしくお願いいます。
次回更新は、8/21(水)となります。




