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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
一章 少年兵第三部隊
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階級

 進行訓練を主体とする模擬戦まで残り七日と差し迫った頃。各小隊の教官から演習のルール説明が行われる。


「一つ。使用する武器は全てペイント性のナイフ、銃弾などを使うこと。これを頭部や胸部など、本来致命傷になる場所に、敵に付けられた場合は戦死となる。戦死したものが敵を攻撃、進行するのは反則となり、ペナルティーが課せられる。

 一つ。期間は五日とする。五日以内に敵を殲滅、降伏させた場合はその時点で終了となる。期限の五日を過ぎた時点で被害が少ない方が勝ちとなる。

 一つ。この演習の結果、優秀な成績を修めた小隊は褒美がでる。

この時点で何か質問はあるかね?」


 演習の説明をしているペトロフは、沈黙を了解として受け取り、話を続ける。


「質問はないようだね。一応言っておくけど、これは進行訓練だ。小隊全体が敵から逃げ回って五日間を終了した場合、無条件でその小隊は負けとなるからね。あと、君たち少年兵第三部隊はショウ・マクレイア二等兵を小隊長とし、その補佐官をソルクス・イグルス二等兵として任せようと思うが、異論のあるものはいるかね?」


 沈黙する全体の様子を見て、異論がないのを確認する。


「では、マクレイア二等兵とイグルス二等兵は前に出なさい」


 立ち上がった二人は部隊の前へ出て、ペトロフと対面する。


「ではこれより、正式にショウ・マクレイア二等兵を第三部隊小隊長に、ソルクス・イグルス二等兵を第三部隊小隊長補佐に任命する。マクレイア二等兵は上等兵、イグルス二等兵は一等兵の階級を言い渡す。これから正式に部隊を率いるのは君たちだ。私は君たちの上司としてしばらくの間は実戦でも君たちと同行することになるが、小隊の兵を率いるのは君たちの役目だ。君たち二人には期待しているよ」

「謹んで拝命いたします」

「えっと、謹んでハイメイいたします?」

「よろしい。対戦する相手は今日張り出されるから、各自確認するように。あー、あと皆にもう一つだけ。君達に軍服が支給された。今から配るので順番に取りに来たまえ」

「「「サー・イエス・サー!」」」


 配られた軍服はペトロフとは違い、戦闘用にとてもシンプルな作りになっている深緑の上衣。支給された訓練用の服より少し硬いが動きやすい下衣と靴、それぞれの装備にあった拳銃のホルダーなど。


 そして左胸には階級を表す星の飾りと、少年兵第三部隊を表す赤色の腕章。


 支給された軍服はこの戦闘用が2着のみ。これからは大抵戦闘用の軍服を主に着ることになるだろう。軍服を支給されたことで、気持ちを高ぶらせながら心機一転といった面持ちの第三部隊を見て、ペトロフも思わず顔を綻ばせる。


 ペトロフから演習の舞台となる第六演習場の地図を渡された後、解散してそれぞれの宿舎へと戻っていく。


「なぁなぁ! なんかこの服カッコいいよな!」

「確かにかっこいいですよね! 僕なんか軍服に負けてるというか、あんまり似合わないんですけどね」

「なんか軍服もらったら認められた感じがするよな」

「おお! ショウが珍しく嬉しそうじゃねーか!」

「わかります! ショウさんていつもクールな感じですけど、そういう時わかりやすいですよね!」

「からかうな」


 そういいながらも、まんざらでもないようで、ショウの顔はいつになく嬉しそうだった。


「たまにはいいじゃねーか! なぁ! 見ろよ! 俺の胸の星二つもついてるぞ!」

「ソルは一等兵に昇進したからな。コナーは二等兵だから一つ。俺は上等兵になったから星が三つある」

「ずりーな! 一つコナーに分けてやれよ!」

「そういう問題じゃないだろ。バカ」

「正式に小隊長になって、上等兵の階級をもらったショウさんは、僕らを率いる、いわば兵長ですからね」

「いいなーなんか呼び名がいっぱいあってよ!」

「数が多けりゃいいって問題じゃないだろ……。それにしても、思ったより簡単に階級が二つも上がって困惑するんだが……」

「いいじゃん! 貰えるもんは貰っておけばさ!」


 階級が上がることに戸惑いを隠しきれないショウだったが、ソルクスとコナーは特に気にしている様子はなかった。


「そうだ! 食堂に寄ったあと、対戦する部隊がどこの小隊か見に行きませんか?」

「そうだな! まぁどこの部隊でも俺がいれば余裕だけどな!」

「油断してると、一番先に〝戦死〟するぞ」

「そうですね。情報が少ないので、油断は禁物です」

「なんだよー、お前ら冷たいなー」


 そう喋っているうちに食堂に着くと、そこにはコナーの一件で半月ほどまえに痛めつけたジャックと、その取り巻きがこちらを睨みつけていた。


「なんだ? あいつらガン付けやがって。もう一回ぶっ飛ばしてやろうか?」

「お、落ち着いてください!」


 前回のことを思い出し、怒りで殺気立つソルクスをコナーが慌ててなだめる。


「ほっとけ。関わるな。それにこのあいだの一件で軍規が厳しくなったから、この間みたいに組手なんて頓知を効かせられない。前回俺らにこっ酷くやられて営倉に入れられたんだ。あいつらだって手は出せないさ」

「チッ……」


 正論を言われて何も言い返せないソルクスは、気に食わなそうな様子で腕を組み、そっぽを向いた。


「でも、あれからこっちを見ようともしなかったのに……」

「……まぁ予想はつくけどな」


 食事を終え、張り出されている対戦表を見に行くと、騒めきが起きており、第三部隊の面々は顔を青ざめさせていた。


「どーしたんだこれ?」

「何があったんでしょう?」

「さぁな、対戦相手を確認してさっさと部屋に戻ろう」

「第三部隊の対戦相手は――」


 三人は対戦表を確認すると、コナーはみるみる青ざめていき、ソルクスは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、ショウは眉間にしわを寄せて難しい顔をしていた。


「な、んだよこれ……」

「第三部隊対……他の少年兵部隊全部……!?」

「明らかに意図的としか言えないな……」

「まさかペトロフ准尉が!?」

「いや、ペトロフ准尉が俺たちに何も言わないわけない。あの人はこんな事はしない。俺たちに何も伝えなかったって事は、きっと知らされてなかったってことだ。何も、ここにいるのはペトロフ准尉だけじゃない……」




    *     *     *




 静まり返る会議室の中、まだ姿を見せない議長の席を見つめながら、ペトロフは今回の演習での不当な扱いに憤りを感じていた。


「なぁ、ペトロフ。そんなにピリピリしてどうしたんだよ。あんたらしくない」


 目の前の席に座る三十代くらいの細身の男が、口元をニヤニヤさせながら話しかけてきた。胸の星を見れば誰でもこの男が准尉の階級だということがわかる。


「そんなことはありませんよ。誰だって自分の可愛い部下が不当な扱いを受ければ、苛立つのは必然。そうは思いませんか? バーグ准尉殿」

「違いないね。もっとも私闘を組手などと主張して、うちの可愛い部下たちを文字どおり可愛がり、それに加えて営倉にまで入れられた事を考えなければ、あんたの今回の部下達のことは気の毒としか言いようがありませんなぁ、全く」


 白々しく発言する目の前の細身の男、ディオラ・バーグ准尉を冷たい瞳で見据える。


「まぁ例え彼らの行為が私闘であっても、先にけしかけた第四部隊の者に責があるのは明白。こちらは正当防衛に過ぎないのだからね。君の部隊は軍規を甘く見るきらいがあるようだし、教官の性格がよく出ていると思うよ」

「なんだと!」


 勢いよく椅子から立ち上がり、バーグは前のめりに身を乗り出す。


「お二人とも、どうかその辺に」

「好きにやらしとけばいいさ。ニコラス准尉。ただでさえこんな辺鄙なとこに移動になって、日頃の鬱憤がたまってんだからよ。余興だと思って黙って聞いてりゃいいんだよ」


 この中でも一際若く真面目そうな准尉階級の者と、いかにも気怠そうに話す中尉階級の男が上座に近い席に座っている。


「そうは言いましても! 教官の我々が無益な私闘をしたら、本末転倒じゃないですか! サイラス中尉も止めてくださいよ!」

「あーあ、これだから卒業したての真面目ちゃんはやなんだよなぁ。若造は黙ってすっこんでろってことなんだよ。察しろ、バカ」

「っな!」

「まぁ確かに見るからにイジメみたいな状況は俺も好かねぇーな。まぁ俺には関係ないからどーでもいいけどよ」


 ペトロフの左隣に座っている、唯一中尉の階級で呼ばれた二十代後半の男は、呆れたように溜息をついた。この不真面目そうに振る舞っている男はラルド・サイラスといい、昔ペトロフが教鞭をとっていた士官学校の生徒だった。今やペトロフよりも二つ上の階級になってはいるが、それほど出世に興味がないため、中尉のまま止まっている。


 そんなサイラスと対極的な、まだ二十歳に満たない若い男は、士官学校を次席で卒業したハワード・ニコラス准尉。首席でなかったために、初任務で扱いの難しい厄介な仕事が回ってきてしまったのは、彼にとって最悪の二文字だったが、元来真面目な彼の性格故、与えられた任務を忠実にこなしている。この中で一番軍規にうるさいのは間違いなくニコラスだろう。


 ペトロフとバーグが火花散らす中、会議室の扉が大きな音を立てて開き、一人の男が入ってきた。


 いかにも貴族の振る舞いをした中年の小太りの男に四人全員がその場に立ち敬礼をした。


「遅れてすまない。では、演習前の会議を始めようじゃないか。ではまずは――」

「クルード中将閣下。発言の許可を求めます」

「ん? なんだね、ペトロフ准尉。上官の発言に割り込みおって」

「無礼をお許しください」

「まぁ良い。発言の許可を出そう」 


 見るからに偉そうなこの小太りな男、ダルダス・クルード中将は不機嫌そうにどっしりと椅子に座り直した。


「まず、この度の演習でこのような組み合わせになった経緯をお聞きしてもよろしいですか?」

「なんだ。そんなことのために会議を中断しているのか? 今回の組み合わせは貴様が望んだものだろう?」

「なんですと?」


 全く身に覚えのない事を聞き、困惑するペトロフをよそにクルードは続ける。


「貴様が自分の部隊は優秀で、他の部隊を全部相手にしても問題ないと豪語していたと私は聞いているが?」

「そのようなことは一言も――」


 ハッとして正面のバーグの方を見ると、笑いを堪えられずに口元をニヤつかせていた。


「もう決まったことだ。この話は終わりだ」

「お言葉ですが! 小官はそのような事を豪語した覚えはありません! 自分たちより3倍の兵力を相手にするなど、いくら演習とはいえ不当だと思われます!」

「貴様! 誰に意見している! 終わりと言ったら終わりなのだ! 上官の決定に逆らうのか!?」

「……いえ。決してそんなつもりは……」

「ならばもう黙っていろ! もうこれ以上貴様に発言権はない!」


 クルードは有無も言わさず、権力をチラつかせてペトロフを黙らせる。


 上官の命令は絶対。いくら空っぽな上官といえど、逆らえないのが現実。


 ペトロフは自分の無力さに、歯痒い気持ちになったが、彼から発言権を剥奪されてしまったがために、演習に向けての会議は一向に第三部隊が不利な状況を変えられないまま終わってしまった。


 クルードとバーグ以外がいたたまれぬ心地のまま、会議室を後にする。


「なんというか、今回はお気の毒です。ペトロフ准尉殿」

「まぁ、あのバーグ准尉の策略だってのが気にくわねーが、演習だからって手を抜く気はありませんからね、先生の部隊ってだけで油断はできませんから」


 二人の言葉に、ペトロフは溜息交じりに答える。


「私も手加減してくれとは言わないよ。私以上に、彼らは手を抜かれることを嫌がるだろうからね。まぁ今回の演習はいくら彼らでも勝てないだろうけどね。戦争は圧倒的に数がいる方が有利だ。私が指揮を出せないのがなんとも歯痒いよ」

「先生が指揮したら戦力バランスが保たれるかもしれないですね、なんつって。まぁこれ以上話していてもお互いの部隊の探り合いになりそうなので、俺はこれで失礼しますよ」

「もう君の教官ではないのだから、敬語でなくてもいいはずだよ? サイラス中尉殿」


 飄々としたかつての教え子に、ペトロフの表情は自然とにこやかになる。


「よしてくださいよ。貴方を尊敬している尉官、左官は腐るほどいるんですよ? 俺もその一人だし、恩師をないがしろになんて、できねーですよ」

「相変わらずの喋り方でホッとするよ。君は是非そのまま変わらないでほしいよ」

「演習が終わったら今度飲みにでも行きましょう。ではまた」

「あ、私の部隊も全力でやらせていただきますので!」

「ああ。君の部隊にも期待しているよ、ニコラス准尉」

「はい! では私も失礼します!」


 二人の尉官の影が見えなくなったところで、疲れたように溜息を漏らすペトロフは七日後に迫る演習を考えるだけで頭痛がしてくる。


「彼らはこの試練をどう乗り切るだろうか……」


 ――勝てないことは目に見えているが、どこかあの黒髪の少年には期待せざるをえない物がある。


 一抹の不安を胸にしまいこみ、ペトロフは自室へと戻っていった。


今回第一章は取り敢えずここで終わります。

ということで次回から第二章がスタートするわけですが……。

戦略とかわかんないよぉ……。頭悪いのに難しい題材を書きにいくというね?

無謀にもほどがあるよ……。

多分、目の肥えた読者様には、「っは!つまんな!」って一蹴される未来が見える……。

というか、二章まで読んでいただけるのでしょうか?

まぁね、そこは気にしないで書きますよ?

目標は、今下書きを書き終えている8章まで書き直して投稿するんで、失踪はまだしないよ!(笑)

とりあえず、今後の予定は、

戦闘→休憩回→物語進行→戦闘

こんな感じ!

今後もよろしくお願いします!



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