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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
七章 キズ(前篇)
59/425

教え子たち

 デンバー基地で大佐と中将の御守りをしていたペトロフは、サイラスと一個小隊を連れ、旧アスペン街へ車を走らせていた。


「しかし、いいんですか? 先生」


 サイラスは周りを気にしながら小声で話しかける。


「何がだい?」

「何がって。先生が前線から離れてしまっては、戦線は一層厳しいものになる。そもそも、俺まで同行する必要性を感じませんよ」

「そんな事はないよ。私の見込みでは、今戦線が動く事はない」

「そうですかね? 膠着状態が続いている中、敵が動き出さないとは限らないのでは?」


 今はその時ではないだろうと言う恩師に、サイラスは嘆息する。


「まぁ、そんな中でも悠長に酒を飲み交わしている上官の姿には、流石の俺も目を疑いましたよ。ニコラス准尉の奴、大丈夫ですかねぇ? あの二人の御守りを半強制的に押し付けてしまったので」


 サイラスは中年貴族の間で、あたふたとしているニコラスの様子が容易に想像できた。


「君にしか頼めない事なんだと言ったら、快く承諾してくれたけどね」

「俺はそれを半強制的って言ったんですよ」


 苦笑いする教え子に、ペトロフは何の気なしに続ける。


「あの場には私と君、そしてニコラス准尉しかいなかったからね。事実を言ったまでだよ。彼だって士官学校を卒業したばかりとはいえ、優秀な軍人であることには変わりない。彼に任せても問題ないと思うけど?」

「本当、意地悪なお方だ」

「そう言わないでくれ。それに」

「それに?」

「もう少し時間がかかると思うけど、私達と入れ替わる形で精鋭部隊が到着する予定だしね」


 その言葉を聞き、サイラスは渋い顔をする。


「精鋭部隊ねぇ……。確か司令官は……」

「バロウズ少佐だよ。いや、今は大佐だったかな? ウェインは君と同期だったろう? それに、ウェインだけじゃない。君の後輩も、先輩もいる。久々に自分の教え子達と会えると聞いて楽しみにしていたが、事態は急を要するかもしれないし、致しかたないね」


 口惜しそうに言うペトロフに対し、サイラスは安堵した様子でいる。


「俺はあの野郎の顔を見なくて済むと思うと安心しますよ」

「おや? どうしてだい?」

「決まってるでしょう? ”聞いたぞ? まだ中尉なんて椅子に腰掛けてるらしいな? 職務怠慢もいいとこだ。そんなに尉官階級がいいなら、俺が引き抜いてこき使ってやろうか?” ってな感じで、出会ったが最後、奴に嫌味言われながら説教されるに決まってる」


 特徴をとらえた口真似をするサイラスに、教鞭を振るっていたころを思い出した。


「はっはっは! 全く彼らしいセリフだね!」

「話を戻しますが、先生が現場を離れても大丈夫な理由はわかりました。でも、俺まで連れて行く必要性は感じませんでしたけど、先生は一体何を恐れているんです?」


 サイラスの言葉を聞き、先程までの明るい雰囲気は消え去り、周りは張りつめたような緊張感が漂い始める。


「私が恐れているのは、内側からの攻撃だよ」


 ペトロフ言葉に、サイラスは眉を動かした。


「内側……ですか。先生は内通者の存在を疑っているってわけですね?」

「君の部隊のエリック上等兵から連絡を受けてね。詳細に知らせてくれたよ。話を聞いた限り、恐らくエリック上等兵と私は同じ結論に至っているだろうね。いやはや、情報機関にいた君の部下らしい報告だったよ。さて、ラール。君は尉官以上の個人データを、頭の中のファイルにどこまで保存してあるのかな?」


 その言葉に、サイラスは納得したように大きく息を吐いた。


「なるほど、だから俺を同行させたってわけですね? 先生の推測を確信にする為に」

「私は君の記憶力もさることながら、情報員としての君をこの上なく評価しているつもりだよ? 君は上昇志向が余りにも無さすぎるから、あえて私は君を上に持ち上げはしなかったけどね」


 サイラスは鼻で笑う。


「全くあなたって人は、いつも自分の教え子を過大評価しすぎる。悪い癖ですよ? される方の身になってくださいよ」


 サイラスは面倒臭そうに頭を掻きながら、呆れ顔をした。


「評価すべきところを評価しているだけだがね。もしそうだとしても、それだけ期待していると言う事だよ。ほら、君たちはそうやって私の期待に応えて来てくれたじゃないか。それにコレは私の恩師でもあり、良き友人でもあった人の受け売りだよ」

「いつか先生の恩師という人にも会ってみたいものですが、いったい誰なんです?」

「今は亡き人だよ。私は彼ほど聡明で才能に溢れている人には会ったことがないよ」


 声をあげて笑った後、ペトロフは車の窓から遠くを見据えた。


「この間まではね」


 小さく呟かれたペトロフの言葉を、サイラスはハッキリと聞くことはできなかった。




    *     *     *




 廃屋が点々とするグレートプーンズ地帯。その中でも山岳エリアに近い一角に、森に囲まれた廃屋が数件佇んでいる。そこには軍事用トラックやジープが数台停車しており、数人の哨兵が立っている。


 ここはデンバー基地に向かうA派の精鋭部隊が野営地に選んだ場所であった。数人の哨兵の中に一際大柄な男が扉の前で立っていた。その姿は宛ら城を守る門番のようだ。


「お疲れ様です! シュッツァー中尉!」

「む?」


 名前を呼ばれた大柄の男、ロベルト・シュッツァー中尉は、すぐに視線を落とす。アジア系で童顔の青年が、敬礼をしていた。


「見張り交代します!」

「大事ない。タオ、仕事熱心なのはいいがお前も休め。それとも、少尉に昇進してからの初任務に張り切りすぎて眠れないのか?」


 青々しい雰囲気のルミエール・タオ少尉は、図星を突かれたようにぎゅっと口を結んだ。


「い、いえ! そんな事は置いておいて。バロウズ大佐が会議を始めるとおっしゃってましたので、中尉を呼んで来いと、カサドーラ中尉が」

「ジェシカが? わかった。じゃあ、ここは任せる」

「はい! 任されました!」


 ロベルトは廃屋の中へ入ろうとドアノブに手を掛けた瞬間、背筋に凍るような感覚を覚えた。振り返ると、既にただならぬ雰囲気を感じ取っていたタオが、暗闇に覆われた森に小銃を構えていた。


「中尉――」

「シーッ……」


 ロベルトはタオの顔の前に手を出し黙らせると、ゆっくりと近づいてくる鋭い気配に警戒を強める。


 眼前に広がる暗闇の中に、野営の光を反射する二つの小さな光が見える。


「なんだ……。動物か?」

「タオ、気をぬくな。ただの動物じゃない」

「え?」


 目を離したタオが、再び暗闇を見据えた瞬間、赤い影が目の前まで迫っていた。鼻の先まで迫ったその姿は、動物ではなく人。更に詳細を語るのであれば、半裸姿の少年が真紅の瞳を血走らせながら迫っていたのである。


「はっ!?」


 炎髪の少年が握っているナイフが、タオの首めがけて振り抜かれた。


 金属の擦れる音が響き渡る。タオは咄嗟に小銃を引いた事で、首元に迫っていたナイフを奇跡的に回避していた。


 振り抜かれたナイフはとどまることを知らず、容赦無く二撃目をふるう。しかし、少年はロベルトの強烈な蹴りを横っ腹に受け、吹っ飛んでいった。


「気をぬくなと言ったろう!」

「すみません! 生きてます! 死んだかと思いましたが……」


 ロベルトの攻撃を受けた少年は、うつ伏せの状態からゆっくりと身体を起こす。よくよく見てみると、少年の両手首の肉は削げ、擦過傷と打撲痕が目立つ。身体を起こしている最中にも、血が地面に滴り落ちていた。


「フーッ……フーッ……」

「中尉ー」

「タオ、お前は大佐に報告に行け! 俺が応戦する!」

「っ! わかりました!」


 タオが屋内に入ると、ロベルトは拳銃を構える。


「言葉は通じるか!? 両手は頭の上に! 膝をついて武器を捨てろ!」

「フゥーッ……。ウー……」

「もう一度言う! 武器をー」


 武器を捨てろと言い終わる前に、勢いよくナイフが投げられた。


 ロベルトは身体を捻り、ナイフを躱した。隙を作った少年は、瞬く間に間合いを詰め、隠しナイフで脚目掛けて斬りかかる。


 ロベルトは身体に似合わない身軽な動きで攻撃を躱す。それを待っていたかのように、少年は巨躯の喉元めがけてナイフを突き出した。


 ロベルトは間一髪で腕を掴み、ナイフは頬を掠めていく。すかさず空き手で少年の頭を鷲掴みにすると、そのままの勢いで廃屋の壁へ叩きつけ、動きを封じる。


「コレは子供が遊ぶには手に余る玩具だ。お前は何者だ? 俺達をA派の軍人とわかっていて故意に襲ったのなら、殺されても文句は言えんぞ?」


 ロベルトの言葉に、瞳孔の開き切った真紅の瞳は、黙したまま動じることはない。


「答えられないのか? それとも喋れないのか?」

「……す」

「ん?」

「殺す殺す殺す殺す!!」


 少年が殺すと連呼し始めると同時に、押さえつけていた少年の腕に力が込められていく。


 ――子供の力ではない!?


 驚愕しているロベルトを他所に、少年は自身の頭を拘束する手の小指を持った。


「何をー」


 ミシミシと音を立てていた少年の腕は、ロベルトの手の中で嫌な音を立て、同時に小指も同じような音を立てた。


「なっ!?」


 小指の骨が折れたことで緩んだ隙を逃さず、少年は勢いよくロベルトの胸を蹴り飛ばした。


 倒れこみはしないが、大柄な身体が後ろに仰け反った。それは少年が拘束から逃れるには十分であった。


「がはっ!?」


 渾身の蹴りを胸で受け止たロベルトは、衝撃により一瞬息ができないでいた。それどころか、自分を仰け反らせるほどの力を持ってる少年に驚きと共に恐怖を抱き、固まっていた。


 少年は折れていない腕でナイフを持ち直し、ロベルトに斬りかかる。


 ――これまでか!?


 死を覚悟したロベルトの眼前に迫った少年は何かを察知し、その場から大きく飛び退いた。少年の後を追う様に、銃弾が通っていく。


「無事かロベルト!」

「悪いね、少し遅れたかしら?」


 声の方を見ると、銃を構えた長身の男と、髪を一つに結った褐色の肌を持つ女性が立っていた。


「フェルツマン少佐! ジェシカ! すまない。助かっ――」

「謝る暇があるなら、眼前の敵を排除しろ」


 その声を聞き、ロベルトはなんとも言えない顔をした。ナハト・フェルツマン少佐とジェシカ・カサドーラ中尉の後方。廃屋の扉を抜け、外套を羽織った精悍な顔立ちの男が、小さな敵を見定める。その後ろには、遠慮気味に顔を出すタオの姿も確認でき、部隊の鋭兵達がぞろぞろと集まって銃を構える。


「死を覚悟するにはまだ早いぞロベルト。お前にはまだ為すべきことがあるだろう? それとも俺に、残してきたお前の妻と幼い息子に死亡告知をさせたいのか?」

「も、申し訳ありません。大佐」


 謝罪するロベルトに、ウェイン・バロウズ大佐は眉を吊り上げる。


「詫びは要らんと言っただろう。状況はタオから聞いている。何故始末しない?」

「殺さずに生け捕りにすれば、何かわかるかと――」

「子供一人殺せない言い訳は聞きたくはない。が、成る程一理ある。生け捕りには是非とも賛同しようじゃないか。だが――」


 未だに殺すと連呼し、呻きながらこちらを睨む少年に向けて、バロウズは冷徹に見下す。


「おイタが過ぎたな小童(こわっぱ)。我々は怪我をしている(わっぱ)とて容赦はしない。ジェシカ、ナハト。客人はお遊戯会がしたいらしい。遊んでやれ。タオ!」

「は、はい!」


 自分が呼ばれると思っていなかったタオは、少々上ずった声で返事をした。


「パウルスを呼んで来い! ロベルトが負傷したとな!」

「イエッサー!!」


 バタバタと走り去るタオに気にもとめず、現場には緊迫した空気が流れていた。


「やれやれ、飛んだ聞かん坊と見た。殺すって言えるなら、喋れるってことだろう?」

「言葉なんざ通用しないさ、少佐殿。私達は話し合いよりもコレで語り合った方が話が早いってもんよ」


 ジェシカはナイフを器用に回しながら、舌なめずりをする。


「全くおっかない女だよ」

「光栄ね。さて、このウェルプをどう料理してやろうか?」

「殺す、殺す。殺――」

「待て」


 少年が踏み込もうとした瞬間、聞き逃してしまいそうなほどか細い声が、ジェシカの耳を掠めた。森からうっすらと聞こえたその声に、少年はピタリと動きを止めた。


「何だい? こりゃあ」


 少年から殺気がみるみるうちに抑えられていくと、森から新たな気配を感じることができた。それは息を荒くしながら、覚束ない足取りで、ゆっくりと森から出て来た。


「ソル……もういい。……こいつらは、敵じゃ……ない」


 炎髪の少年と同じく、傷だらけの身体で何かを背負う黒髪の少年が、森から出て来た。


「止まれ小僧。そこから一歩も動くな。お前らにとって我々が敵でないとしてもだ。我々にとっては害をなす敵に変わりはない。疑いを晴らしたいのであれば、言う通りにしろ」


 明らかにいつ倒れてもおかしくない少年に対しても、バロウズは冷酷に言い放つ。


「わかった……。早く……すませてくれ。こっちは急を……要するんだ」

「いいだろう。まずはその背負っている物をゆっくりと降ろせ」


 少年は膝をつき、倒れそうになりながらも背負っているものを降ろす。少年の背中から降ろされたのは、S派の軍服を羽織った一際幼い金髪の子供だった。


「……小僧、お前らは何者だ」

「申し……遅れました。小官は……少年兵部隊、第三……部隊所属。ショウ・マクレイア伍長で……あります。そっちに……いるのは、ソルクス・イグルス一等兵、……こっちはコナー。……コナー・ウェーダー二等兵であります」


 ヒューヒューと息を荒げ、ショウは身分を明かす。


「小僧、身分証明はできるか?」

「……?」

「ドッグタグは?」


 その問いに、ショウは引きちぎられたタグを思い出し、唇をかみしめた。


「今は……持っていま……せん」

「そうか、ならば拘束させてもらう。治療はしない」

「は?」


 ショウは虚ろな目でバロウズを見据えた。


「お前らが身分を偽っている可能性がある。ただの孤児かもしれんし、そうでないかもしれん。そこで狸寝入りだかなんだか知らんが、コナーとか言う童が羽織っているそれは、S派が飼っている傭兵の物とよく似ている。お前らがS派の刺客でないと証明できるものは?」

「ありま……せん。ですが――」

「黙れ。今話をしているのは俺だ。仮にお前らがS派の刺客でなく、ただの戦争孤児だとしてもだ。今我々にそれらをいちいち保護する余裕はない」


 肩を落とし、呆然とするショウに、バロウズは続ける。


「タグがない。A派と証明できない。S派でない。これも証明できない。戦争孤児か? ありえない。ここには長らく人は住んでいない」

「デンバー基地と……砦の奪還作戦の……内容を言う」

「だから? その現場にいた敵兵なら詳しいかもしれないな」

「クソ……」




       挿絵(By みてみん)




 地面に手をつき、身体を支えながら話をするショウを見つめていたソルクスがナイフを握り直す。


「っ! ソル、ソルクス。ダメだ。やめろ」

「ショウ」

「いいから……俺なら大丈夫だ。……大丈夫。俺がいいというまで……大人しく、しているんだ……。いいな?」


 殺気立つソルクスを御そうとするも、ソルクスは一度向けたナイフをしまうことはできない。


「……でもよ、こいつらショウを殺す気かもしれねぇぞ?」

「その気なら……とっくに俺たちは死んでる……はずだ」

『なぶり殺すために生かしてるかもしれねぇぞ』


 自然に出たソルクスの言語に、バロウズは眉を顰めた。


「っ! やめろ!」

「なるほど。十分すぎるほど怪しくなって――」

「コナー二等兵!?」


 バロウズの言葉に被るように発せられた声に、ショウは目を見開いた。声の先には、見覚えのある人物が立っていた。


「リドナー……軍曹??」


 第四研究所で顔を合わせたパウルス・リドナーだった。


「今は准尉ですが。いえ、マクレイア上等兵、そんなことはいいんです! 一体何があったのですか!?」

「待て、リドナー准尉! この少年達を知っているのか!?」


 フェルツマンが一驚してリドナーを見た。


「は、はい。小官は第七連隊に所属していた際に一度。彼はペトロフ准尉の現教え子です」

「先生の教え子だと?」


 ペトロフの名前を出すと、バロウズは腕を組み人差し指を一定のリズムで動かしながら、唸り始めた。


「パウルスの話が事実であるなら……いいだろう。ナハト、ジェシカ、ガキ共を保護しろ」

「残念。これから盛り上がるところだったのに」

「よせよジェシカ。血を流さずに済むならそれに越したことはない」


 ジェシカは渋々と、フェルツマンは安堵したようにショウ達の方へ歩み寄る。


「パウルス、手当てをしてやれ」

「はいっ! 感謝します!」

「ただし、ガキ共が少しでも不審な動きをしたらー」

「大丈夫です。させません」


 自信のある物言いに、バロウズは頷いた。


「ならいい。すぐに衛生兵を集めろ」

「はい!」


 リドナーはショウ達の方へと足を向けた後、申し訳なさそうにロベルトの方へ向かう。


「パウルス、俺はいい」

「し、しかし――」

「先にあの少年たちを見てやってくれ。知った仲なのだろう?」


 精鋭部隊に来て日の浅く、気を遣う彼に、ロベルトは気にするなと声をかける。


「衛生兵はお前以外にもいるしな。応急処置くらいならタオにもできる。気にするな」

「感謝します! タオ少尉、お願いできますか?」

「ま、任された!」

「では、失礼します!」


 リドナーは急いで動かないコナーのもとへ向かった。


「さて……」


 バロウズは、虚ろな目をしながら、今にも倒れてしまいそうなショウへと歩み寄る。近くでよく見ると度重なる拷問の痕が見て取れた。


「おい小僧。完全に意識がなくなる前に出来る限りの報告をしろ」

「大佐、流石に――」


 口を挟もうとしたフェルツマンを手で静し、黙らせると、バロウズはショウをその場に座らせる。呼吸がしづらいのか、肩で息をするようにしていて、息をするたびに音がする。


「うぅ……」

「おい、休むな。まだお前の部下の安全は確保されていない。安全を保障して欲しければ報告を済ませろ」


 バロウズは精魂尽きかけているショウの頰をはたき、意識を向けさせ、容赦無く問いただす。


「お前らの部隊は何処にいる? 司令官は誰だ? 先生はデンバー基地にいると聞いたが?」

「我々は……旧アスペン街を拠点とし、……司令はディオラ・バーグ准尉、副司令はトール・パーシー少尉で……す。ペトロフ准尉は……デンバー基地にいます。残っている敵は……恐らく一個小隊規模。拠点はまだ……無事な、はず、です」

「そうか」


 満身創痍で告げられた言葉ににべなく答えると、隣に立つフェルツマンに指示を出す。


「我々はデンバー基地ではなく旧アスペン街に向かう。怪我人もいることだ、近場の方がいいだろう。小僧、後は歩きながら状況を聞こう。ナハト、背中を貸してやれ」

「はい。失礼」


 フェルツマンは気遣いながらショウを背負うと、後ろから鋭い視線を感じる。振り返ると、こちらを食い入るように見ているソルクスと目があった。


「君も安心しなさい。我々は敵ではないよ」


 優しい声色で話しかけるも、ソルクスはフェルツマンから片時も目を離さない。


 ――私が全く警戒を解いていない事に気付いているのか、それとも単にこの少年の事が気がかりなのか。どちらにせよ、あの少年と行動を共にしなければならないのは気が進まないが、大佐の決定だ。従おう


 ソルクスの視線を気にも留めず、前を行くフェルツマンにジェシカも続いて歩き出す。


「ほら、あんたも行くよ。ウェルプ」


 ジェシカの呼びかけに応じず、ソルクスはただジッとフェルツマンの背に揺られているショウを見ていた。


「あんた言葉はわかるんだろう? だったら返事くらいしな。あんたの身の振り方一つで、他の連中の処遇も変わっちまうよ?」


 反応のない少年に、大きく息を吐く。


「それとも歩けなくなっちまったのかい?ウェルプ」

「さっきからなんだよ。ウェルプって」


 先ほどの殺気が嘘の様に消え去った少年に、ジェシカは目を細めた。


「やっと口聞いたと思ったらそれかい? あんたみたいな小僧にはお似合いの呼び名さね」

「は? 意味わかんねぇ」

「そうかい? ほら、手当てくらいするから。行くよ」

「俺はいい。ショウとコナーを診ろよ」


 頑として動かないソルクスに、ジェシカは鼻で笑った。


「あんたその腕でよく言うわ。あんたも十分傷だらけだけどねぇ?」

「うるせぇーな。黙ってられねぇのかよ。オバさん」

「そっちこそ、思ったよりもお喋りじゃないか。クソガキ」


 舌打ちをした後、ゆっくりと歩を進めたソルクスは、ジェシカの前を通り過ぎたかと思うと、その場で立ち止まる。


「おい」

「なんだい?」

「ショウになんかしたら、お前ら全員殺すから」


 その言葉に、ジェシカは肩を浮かせる。


「信用していないのはお互い様さね。でも、今はあんたらをとって食おうだなんて思っちゃいないよ。なんのメリットも無いからねぇ」

「……そうかよ」


 ソルクスは振り返りもせず、再び歩き出した。


「全くなんだってんだい? 子供が出す殺気じゃ無いねぇ。本当に」


 少年の背中から目を離さないよう、ジェシカも後に続いた。


どうも、朝日龍弥です。


精鋭部隊が出てきました!

リドナー准尉久しぶり!四章以来ですね!

四章では軍曹でしたが、覚えておいででしょうか?


ペトロフの教え子であるバロウズ大佐。

彼とはこれからも関わりがありますので、是非覚えておいて欲しい人物ですね。

また人数がいっきに増えました。すみません。

今後の展開がどうなっていくのか、乞うご期待!


次回更新は、5/8(水)となります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々な物を無くしたとはいえ、皆さん一人もかけることなくなんとか助かったみたいで何よりです。 そして精鋭部隊っ!! 響きが素敵すぎなのです!! リドナーさんもちゃんと昇格なさってらっしゃ…
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