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SLUMDOG  作者: 朝日龍弥
七章 キズ(前篇)
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三人の所在

 デンバー基地へと無事辿り着いた第三部隊及び第四部隊は、負傷者の救護と、旧アスペン街の防衛ラインの強化に追われていた。パーシーとエリックの部隊で厳戒態勢を取り、東側の哨戒任務に当たっていたティムの部隊は、知らせを聞き大急ぎで拠点へと戻って来た。


「エリック! 状況は!?」

「今、第三部隊と第四部隊が戻って来たところだ! 第四部隊の負傷者多数、だが死人はいない。ジャックも生きてる。あの様子だと、第三部隊は負傷者の救護に追われてこっちまで手が回らないだろう。パーシー少尉の部隊が防衛ラインを西側に置いて様子を見ている。今の所敵影無し」

「そうか……」


 エリックの報告から、ティムは状況を把握する。


「マクレイアは?」

「野戦病院に行って話し合おうと思っていたところだ。第三部隊全体が救護に当たってくれているからな。ティムも来い!」

「ああ!」


 ティムとエリックが急ぎ足で野戦病院に向かっていると、言い争うような声が飛び込んでくる。司令部から聞こえた声の一つはバーグのもの、もう一つはリカルドの声だった。


 司令部を覗くと、そこにはバーグとパーシー、そしてリカルドとネイサン、ヨダの姿があった。二人はそこにショウの姿がないことに違和感を覚えた。


「何故許可してくださらないのですか!?」

「何故だと? 決まっている! 戦場から戻らない兵などいちいち探している暇などない! 何度も言わせるな!」


 バーグは額に青筋を浮かべながら、リカルドに怒鳴り散らす。それを見かねたパーシーが口を挟む。


「リカルド二等兵、確認するぞ。マクレイア軍曹、いや、伍長は他ニ名と共に殿として残り、ここへ戻ると言った。そして、撤退中に無線機の反応が無くなったことで、残った三人に何か起こったんじゃないかと考えたと?」

「そ、その通りですが……」

「じゃあ答えは簡単だろう。機械の故障か、本当に何かあったか」


 パーシーは今までにないくらい冷静に現状を分析してみせる。


「それで、少尉殿はどうお考えなのかしら?」


 ネイサンは目を細め、見解を求める。


「まず機械の故障の場合、探す必要はないだろう。そのうち戻ってくるかもしれない。次に何かあった場合。これもまた探す必要がない」

「そうだ! パーシー少尉の言う通りだ!」

「そ、そんな!」


 ここぞとばかりに加勢するバーグに対し、リカルドは顔を青ざめた。


「たかが少年兵が三人消息を絶ったくらいで、いちいち兵を動かせない。現状、生死不明(MIA)で処理するのが妥当だろう?」


 リカルドは助け舟を求めるようにヨダやネイサンを見るが、ネイサンは悔しそうに俯き、ヨダは珍しく真顔のままだった。


「わかったら下がれ! ガキども。いつ敵が来てもおかしくねぇーんだ。とっとと仕事に戻れ!」


 三人は厄介払いをされるように司令部を追い出され、勢いよくドアが閉められた。


 押し出されるように追い出された三人は、司令部を覗いていた二人の姿に気がつく。


「おやおや、これはこれは。小隊長殿がお揃いで。こんな所でどうしたんです?」

「バーグ准尉達に指示を仰ぎに来たなら気をつけなさいな。あの通り、私達のせいで機嫌が悪いから」

「い、いや。俺達は司令部に用があって来たんじゃないんだ」


 珍しく機嫌が悪そうなネイサンを見て、模擬戦のことを思い出し、ティムは一瞬身震いをしながらエリックへと視線をずらす。


「ああ。野戦病院に向かおうと思っていた所でな。というか、そんなことはどうでもいい。さっきの会話の話だと、マクレイアは戻ってないのか?」

「聞いていたなら話が早いです! 残念ながら、隊長を始め、ソルさんとコナーも戻っていないんです! なんとか、捜索できないかと思って――」

「だから言ったんですよ。許可取りに行くだけ無駄だって」


 ヨダの言葉に、真面目なリカルドは狼狽する。


「だからって無断で行動するなんて――」

「リッキー。あなたって人はホントに頭が固い人ですねぇ、ハイ。あなたはどっかの小隊長殿ですかってんです」

「遠回しに俺を蔑むのをやめろ」


 一瞥(いちべつ)されたティムは、ヨダを横目で睨みつける。


「えぇー? 誰もあなたの事だなんて一言も言ってないですよ?」

「貴様!!」

「ちょっと二人とも! 争ってる場合じゃないでしょ!?」


 ネイサンが仲裁に入ると、ティムは舌打ちをした後、冷静になろうと深呼吸をする。ネイサンの一喝には、流石のヨダもバツの悪そうな顔をしていた。


「場所を移しましょう。野戦病院なら今は少年兵しかいないわ」

「パール二等兵の言う通りだな。行こう」


 五人は野戦病院へと場所を移し、本題へと入っていく。


「しかし、マクレイアがいない穴はでかい。それだけだけじゃない。衛生兵をまとめてくれていたコナー二等兵がいない事で、衛生兵の中での指示系統がうまくいっていないし、戦力面で考えたら、イグルス一等兵がいないのは致命的と言える」


 エリックの考えに、全員が頷いた。


「それにしても口が達者な貴様が、バーグ准尉やパーシー少尉を言いくるめようとしなかったのは意外だったぞ。貴様ならその嫌味な口で、ソルクス達を探す方向に持っていくことは簡単なんじゃないのか?」

「嫌ですねぇ、それじゃあ私がいつも嫌味な奴みたいじゃないですか」

「事実だろうが!!」


 ヨダはティムの発言をスルーして、話を続ける。


「私が発言しなかったのは、パーシー少尉の考えは妥当だと考えたからですよ、ハイ」

「外から聞いていたが、それについては俺も同意見だ」


 頷いたエリックは、持ち前の冷静さで状況を分析し始める。


「穴がでかいとはいえ、生きているかどうかもわからない奴を探すのに人員を割く事は出来ない。例え、マクレイアやイグルス一等兵が、一人で十余名分の戦力を持っていたとしてもだ。捜索隊を出して連れ戻したとして、万全に動けるかもわからない。もしかしたら死んでいるかもしれない。しかも、それでまた人が死ぬようなことになれば戦力はマイナスになる一方。本末転倒だ」

「流石エリックさん。冷静な状況判断に脱帽です」


 ヨダと話し慣れていないエリックは、どう反応していいかわからず、ぎこちない表情を浮かべた。


「そ、捜索隊を出せないにしても、ドローンなら使えるんじゃないのか?」


 ティムの発言にリカルドもその手があったと言わんばかりの顔をしてヨダを見るが、ヨダはなんともいえない表情で返す。


「それがそうでもないんですよねぇ、ハイ。この強い電子パルスの中、アレを長時間操作し続けるのは至難の技です。カールによると長時間、長距離飛ばしながら、難しい操作をすると重要な核となる部分が焼き切れちゃうこともあるんだとか……。それに許可なくドローンなんて飛ばしたら厳罰は免れませんからねぇ、ハイ」

「意外と欠陥だらけってことか……」

「メリットがあるなら必ずデメリットがある。そういう事です、ハイ」


 物は使いようだと言うヨダに、ティムはできることを尋ねる。


「長距離、長時間が無理なら、場所を指定して短時間で捜索する事はできるのか?」

「カールが今メンテナンスしていますから、それが終わったら近場から捜索が可能かと思いますが、見つからないようにやるのも大変ですよ?」


 考えを巡らせるティムに、ヨダは肩を浮かせる。


「敵が攻めて来なければ、少しくらい人出がなくても大丈夫じゃないか? それなら、ヨダとカールソン二等兵はドローンを使って、ソルクス達の捜索に当たってくれて構わない。エリックもそう思うだろう?」

「ああ……。確かに二人くらいなら、問題ない、か。逆にドローンを飛ばして敵影を見つけることができるなら、それも悪くない」

「簡単に言いますけど、アレを動かすのは結構重労働なんですよ? わかってます? しかも見つからないようにって……」


 意見がまとまってきた二人に、ヨダが水を差す。


「見つからないようにドローンを飛ばすなんて、貴様には簡単な事だろう?」

「小隊長殿。あなたも結構無茶言いますねぇ、ハイ」

「出来ないのか?」


 ティムの強気な発言に、ヨダは思わず舌を巻いた。明らかにこの間までのティムとは違う。予定外の事が起これば苛立ち、自信がなく、いつも何かに怯えるかのように自己防衛に必死になっていたティモンドはもういないのだ。


 ヨダはうっすらと目を開きティムを見据えた。


「ええ、勿論出来ますよ。”ティムさん”。小隊長殿たちの協力があれば、ですがねぇ、ハイ」

「俺達は何をすればいい?」


 動じないティムの瞳に、ヨダはニヒルに笑う。


「この場所で一番高い見張り台に、どちらかの部隊の人が哨兵として立っていてほしいですねぇ、ハイ。ドローンを飛ばす手伝いをしていただきたいので」

「それには前線の警備も受け持つ必要があるな。わかった。俺の部隊が一番負傷兵が少ないし、人数が出せる。第一部隊がその役目を受ける」

「では、ティムさん。任せましたよ」


 ティムは早速、無線で自身の部隊に指示を飛ばし始める。


「じゃあ俺はなるべく少尉達の気を引こう。それなら飛ばしやすいだろう?」

「それなら容易に事が進みそうですねぇ、ハイ」


 エリックの提案に、ヨダは大きく頷く。


「では、準備をしよう」

「何名か指定された場所に向かわせた。俺は部隊の方に行く。敵が来るかもしれないからな」

「頼んだぞ」

「任せろ! エリックも、手筈通りにな!」


 二人は互いに鼓舞しあい、己の役目へと着手し始めた。


「さて、私たちも準備しましょうか。仕事も山積みですからねぇ、ハイ」

「そうね。リッキー? 悪いんだけど、何人か連れて、倉庫から医療用手袋と縫合糸取りに行ってくれない? あと薬も。クラークを連れて行って。あの子なら薬の場所わかるから」

「わかりました! 任せてください! クラーク! クラークはいませんか?」


 リカルドは急いで倉庫へと向かっていく。


「じゃあ私は怪我人の様子を見てくるわね」


 ネイサンは医療用手袋を手に取り、その場を後にする。


「では、私も作業しますかねぇ、ハイ」


 やれやれと言いながら、ヨダはドローンのメンテナンスをしているカールソンのところへと向かった。





どうも、朝日龍弥です。

三人の不在。ひそかに動き出すヨダ達。

次回、視点は再び廃屋へ。


次回更新は、3/27(水)となります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ショウさんたちの奪還作戦!! ヨダさん達が、一体どんな作戦を組み立てて、どんな戦いをしていくのか! 本当に目が離せません!! (朝日先生の書かれる子達、ほんとに皆性格が素敵すぎて、軍に…
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