砦奪還作戦(後編)
ソルクスが砲台を制圧する頃には、第三部隊を始め、各小隊が砦へと雪崩れ込んでいた。
逃げ惑う敵兵を襲撃し、一人の大人に対して約三人であたり、一人ずつ的確に殺して行く。初めて人を殺す感覚に吐き気を催す者、人を殺す恐怖に足を止める者が大勢いた。ランスもその一人だった。
「こ、こんな事……!!」
「ランス! 止まるな! 死ぬぞ!」
恐怖で足を止めるランスを、ロニーは怒鳴りつけた。
「だ、だって!」
「殺らなきゃ殺られるんだよ! 出来ねぇーなら後ろ下がれ!」
人を殺すことを躊躇するランスは、戦場には向かない。そんなことを言っても、一度戦場に立てば、向き不向きなどは関係ない。皆等しく敵を殺すことを強要される。それは相手も同じこと。
こちらに向けられた銃口を見て、ランスは咄嗟に声を上げる。
「ロニー! 前!!」
「え!?」
――撃たれる!!
反射的に目を瞑ったロニーは、近くで鳴り響いた銃声を聞いた。目を開けると、敵兵は仰向けに倒れ、胸にいくつもの穴が開いている。
銃声がした方を見ると、息を荒げ、構えた小銃を震わせるマルクスが立っていた。
「止まらないでよ! ほんとに死ぬよ!?」
呆然とする二人に、マルクスは声を荒げる。
「た、助かったぜ! マルクス! ランス、こっからはもう乱戦だ! 分かったらもう下がれ!」
「殺さなきゃ……俺が……みんなが殺される……。それだけは、みんなが死ぬのは! ダメだ!」
ランスは震える足で立ち上がり、小銃を握りなおす。
「ロニー! マルクス! 援護する!」
「へへ! そうこなくっちゃな!」
「無理しないでよね」
三人は互いを奮い立たせ、その引き金を引き続けた。
* * *
怒声や悲鳴、そして少年たちの叫び声が響き渡る中、ショウは着実に砦の奥へと進む。戦意を喪失した兵士を狩るのは、相手が大人だろうと難しくはない。
――この感じ……。この緊迫した空気は、イグルスにいた頃と似てる……。でも……どこか違うな
砦の奥へと進んで行くと、既にあちらこちらで息絶えている敵兵が転がっている。首を綺麗に掻き切られている者、戦斧で力任せに叩き切られている者があった。
「ソルとレオか……。早くしないとまずいな……」
ショウは少し急ぎ足で、死体をたどって行くと、砦の指令室と思われる場所に着く。
「なぁ~もういいんじゃね? やっちまおうぜ?」
「……隊長、指示ない」
「全員ぶっ殺しちまった方がいいと思うけどなー」
「もう、コレしか残ってない。……兄が全部やった」
その部屋で、ソルクスとレオンは中でも一番偉そうな人物のみを生かし、殺す殺さないの話を続けていた。一人生かされた老兵は、目の前にいる子供が、大の大人十余名を殺し、今まさに自分の命が握られているという事実を受け止めきれないでいた。
「だって残しといたっていいことねぇーと思うぜ?」
「隊長、命令、ない」
「お前も頭かてーよなー」
「ソル! レオ!」
遅れて到着したショウに、ソルクスは笑みを浮かべる。
「おう! ショウ! 待ってたぜー!」
「隊長……コレ」
レオンは座り込んでいる老兵の胸倉を掴み、片腕で持ち上げてショウに差し出す。
「うわぁあ!」
自分が片腕で持ち上げられるとは思っていなかった老兵は、驚きの声を漏らす。
「一人は残しておいたか……。よかった。お前らの事だから全員やっちまってんじゃないかと思って、少し焦ったぞ」
「え? やっぱダメなの?」
キョトンとするソルクスに、ショウは頭を掻く。
「当たり前だ。大事な情報源だ。もう少し残しておいて欲しかったけどな」
「コレしか、残ってない」
「まぁ、いいさ。残っていればな」
眉をひそめながらソルクスを睨むレオンを諫めていると、ショウの無線に連絡が入ってくる。
『第二部隊から第三部隊へ。砦東部制圧完了した』
『こ、こちら第一部隊。砦西部制圧完了。一応捕虜も確保したぞ』
ティムとエリックからの報告を受け、ショウも続ける。
「エリックに、ティムか。流石仕事が早いな。こちら第三部隊。司令部制圧完了。左官階級の捕虜を一名確保。ジャックはどうした?」
『こちら第四部隊! 砦の門付近の殲滅完了だ』
少し遅れて報告が入り、ショウは頷く。
「了解。作戦成功の狼煙をあげさせよう。敵が司令部を設置していた場所をそのまま司令室として使う。各小隊長は被害状況を確認した後、捕虜を連れてこちらに集まってくれ。残存兵には十分に留意しろ」
『第二部隊、了解』
『こちら第一部隊、了解した』
『第四部隊も了解だ』
各小隊長への通信を終了し、後方のドローン班に連絡を取る。
「第三部隊からドローン班へ。作戦は成功した。司令部へ連絡するために狼煙を上げてくれ」
『了解しました。お疲れ様ですねぇ、ハイ。ちゃっちゃと狼煙あげて、こちらも部隊に合流しますよ』
「ああ、できるだけ早く合流してくれ」
『了解です。out』
ヨダへの指示を終え、ショウは捕らえた老兵を見やる。
「ソル、狼煙が上がるか確認してきてくれ。後、パーシー少尉の中隊がどの辺りにいるかもな」
「えー、俺?」
ソルクスは不満げに口を尖らせる。
「頼んだぞ」
「へいへい。なんかあったら呼べよー」
そう言うと、ソルクスは司令室から出て行った。
ソルクスに指示を出し、ショウは捕虜とした老兵へと向きなおる。胸倉を掴まれたままの男は、息苦しそうにしていた。
「おっと……。レオ、離してやれ」
「諾」
レオンは胸倉を掴んでいた手をそのまま離し、老兵はへたり込むように尻もちをつく。そして男は重い口を開き始める。
「う……。お前らのような子供にしてやられるなんて……」
「大失態だろうな」
「くっ……」
男は悔しそうに唇をかみしめながら俯いた。
「お前がこの部隊の長か……。本当に子供なんだな」
「あんたには聞きたいことが山ほどある。一応戦時条約により、捕虜としてのあなたの生は保証する。ただし、あなたが適切な対応をすればの話だが」
「お前たちは……無理やりこんなことを?」
言葉を無視し、話し続ける老兵に、ショウは眉を顰める。
「質問するのはこっちだ」
「いや、私は話すことなど何もない」
「話した方が身のためだと思うが?」
「君が私の立場だったらどうする?」
ショウは口を閉ざし、この老兵の思惑を探る。
「答えてくれないか。私なら……こうする!」
老兵は腰のホルスターから拳銃を抜き、ショウに向けて引き金を引いた。
しかし、ショウの顔に血が跳ねるだけで、状況は何も変わらない。
「え?」
異変に気付いた老兵は、自分の手元へと視線を落とす。
そこにはあるはずの前腕部が存在していなかった。脈打つと同時に、血があふれ、その先を見ると嫌でも目に入る自分の腕だったもの。
「ぐぁあああああ!! ぁああ! あああああ!!」
老兵は切られた腕を抱えるように蹲り、遅れて駆けあがってくる痛みに耐えようと呻いていた。
「レオ、よくやった」
レオンは無言で頷き、振り下ろした戦斧を納める。
ショウは顔色を変えずに続ける。
「応急処置はする。俺を本気で殺そうとしたのか、死のうとしたのかは知らんが、捕虜であるあんたをそう簡単に死なせるわけには行かない。どうか、適切な判断を期待する」
「ぅう……」
「レオ、あと任せていいか?」
「諾」
呻くばかりの老兵に、冷たい視線を送り、ショウはレオンにその場をゆだねる。
ショウは第三部隊の被害状況を確認するため、一旦司令室の外へとでた。外の空気は血生臭くなった司令室とあまり変わらなかったが、中にいるよりもずっと空気が美味しく感じた。
顔についた返り血を袖で拭きとり、大きく深呼吸をする。血と硝煙の匂いが肺へと、入り込んでくる。ショウは自分の両手をじっと見つめ、握りしめる。
「やっぱり、いい気はしないな……」
「どしたー?」
司令部の上で、砦の外の様子を観察していたソルクスが、足を止めて俯いているショウに声をかけた。
「いや、なんでもない。パーシー少尉の中隊は?」
「んー? こっちに向かってる奴はいるけど、ありゃヨダだな。狼煙も上がってるしな。あのムカつく少尉はいねーよ。逃げたな」
「撤退したか……」
「いいんじゃね? ほっとけば」
「まぁ、こちらに司令本部を置くだろうし、そのうち来ると思うけどな」
「生きてりゃなー」
ソルクスはじっと戦果の跡を眺めた。
「……ソル」
「なんだー?」
難しい顔をするショウを見て、ソルクスは不思議そうな顔をする。
「平気か?」
「んあ?」
ソルクスは質問の意味が分からず、首を傾げた。
「いや、なんでもない。ソルも休め。俺は部隊を見て来る」
「おー、気いつけてな」
ソルクスの声を後に、ショウは被害状況の確認へ向かった。
どうも、朝日龍弥です。
ひとまず、一つの戦場を生き残ったショウ達。
次回から、初めて戦場に立ち、生き残った彼らに焦点が当たります。
戦いはまだまだ続きますので、よろしくお願いします。
次回更新は、1/9(水)となります。




