腐男子佐木の妄想記③※
性懲りもなくすみません。今回もBL表現有りです。ただ前回よりは絡みが少ないのでましかもしれない。でもやっぱり苦手な方はバック推奨です。
「好きだ。」
その言葉に総司はその場に固まった。一体どういうことなのか。少し前までいつもとなんら変わったところ無く二人で遊んでいたはずだ。
「冗談だろ?」
総司は引き攣った笑みを貼り付け目の前の親友を見る。
「俺は本気だ。」
その目は真剣そのものでとても冗談を言っているようには見えない。今まで見たことも無い親友の姿に総司は恐怖を覚える。何ダコレハ?誰ダコレハ?今ナントイッタ?総司はとっさにその場を駆け出そうとした。
「逃げるな!」
その声と共に総司はその場に足止めされる。翔の姿をしたその人物は総司に縋るようにして迫ってくる。眼前に迫る翔の顔に総司は一瞬、心臓がトクンと疼くのを感じた。
「頼むから逃げないでくれ。お前が戸惑うのは分かる。気持ち悪いかもしれない。でも…」
無かったことにはしないでくれ
絞り出すようなその声に総司は強張っていた体の力を抜いた。
城戸ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!お前ちょっとそこに直れ!顔が近いんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!けしからん!もっとやれ!
あっどうも。あらぶる腐男子、佐木優です。
俺は今、思いがけず城戸と総司のホモォな現場を目撃している。駅に程近い大通りでマジでキスする5秒前とばかりに総司に迫る城戸の姿だ。こんな人目だらけのところであの二人は何やってんだか。まぁオレとしては大変美味しいのだが。
総司の奴慌てて部室を出ていったと思ったらこんなところで城戸と逢い引きとは。何故オレに一言言ってから行かんのだ!部の奴らに飯に誘われなかったら危うく見逃すとこだったぜ。
それにしれも惜しい。総司の背が高いばかりに攻めである城戸が総司に縋りついている様にしか見えない。くぅ…昔はあんなに小さくてかわいかったのに…。
「おい。佐木どうした~?」
オレを呼ぶ声が聞こえるが知らん。今忙しいんだ。
「どうかしたのか?」
「いや。佐木が動かん。」
「ほっとけ。行くのはいつもの所だし、その内くるだろ。」
そうそう。オレのことは無視して行ってくれ。おっと、とりあえずメモメモ。オレは携帯を取り出すと妄想の準備に入る。
城戸に縋りつかれて慌てつつもなんとか落ち着かせた総司。建物の影で顔つき合わせて何やら相談している。
少女マンガか!
城戸の大声に総司は慌てて城戸の口を押さえた。おい!おいぃぃぃぃぃ!近い!近いよ!さすがオレの一推しカプいい仕事するぜ☆
それにしてもこいつらさっきから何をちらちら気にしてんだ?2人の視線の先に目をやるとそこには雅ちゃんと他校の男子生徒がいた。なるほど総司の慌てた原因はコレか。雅ちゃんにおかしな虫が付いたとなればそりゃ慌てるわ。
ていうか……雅ちゃんキターーーッ!!!コレは昼ドラ的展開の予感!
反射的にその場を駆け出そうとした総司の足を翔はとっさに引き留めた。掴んだ腕を引き寄せて総司と目を合わせ、逃げられないように両腕をつかみ直す。強く睨みつけてくる総司の目は薄く涙の幕が張っている。
「離せよ。」
一刻も早くこの場を離れたい。楽しそうにしている彼らの姿を総司はこれ以上見ていられなかった。
しかし総司を引き留めた翔は睨みつけてくる視線を平然と受け流す。潤んだ瞳に迫力は無く、逆に放ってはおけない使命感に支配される。
「嫌だ。原因はあれか?」
翔の視線の先には総司の弟の雅がいて、他校の生徒と親しげにお店の中で商品を物色している。
「ただ雅が友達と買い物してるだけだろ。何を気にしてんだ。」
「うるせぇ!お前に何がわかる!」
その瞬間総司は翔に腕を引き寄せられ両肩を掴まれる。突然のことで体勢を崩し前のめりになった隙に総司の唇に何かがかすめた。
「お前の方こそ何も分かってない!」
そう言うと翔は総司の頭を抱え込み自分の胸に押しつけた。
「あいつはお前の実の弟だぞ。そんなの二人とも不幸になるだけだ。」
オレに…しとけよ。
店から出てくる雅を見つつ翔はそう囁いた。総司を通り越して絡まる視線。驚いたように目を見開く雅を翔は嘲るように見返した。
お呼びじゃない。
翔に強い視線を送ってくる雅に無音でそう伝えると、翔は総司を連れてその場を離れた。
腹黒な城戸とか…誰得だ!?オレ得か!!幼馴染ピュアピュア恋愛系から泥沼昼ドラ系へと華麗なる変化を遂げやがった!コレが雅ちゃん効果か!まじメシウマ!毎度毎度ごっつぁんです。
雅ちゃんに総司とのラブシーンを見せつけ牽制した城戸は、傷心の総司に言葉巧みに付け込む。城戸の優しい言葉についふらっと傾き、アーッな展開になだれ込みかけたところへ二人を追って来た雅ちゃんが現れる。城戸を殴りつけさっきの奴は誤解だと必死に訴える雅ちゃんに総司の心は揺れ動く的な?
う~ん。この展開だと城戸が当て馬になるのがいただけないな。やっぱりメインカプは城戸×総司がいい。まぁこれはこれって事でネタとしてとっておくか。
気が済んだところでオレは携帯を片付ける。総司たちの方を伺うとそちらにはもう誰もいない。どうやら移動したらしい。それにしてもいいもん見せてもらったぜ。オレは満足げに額を拭うとバスケ部の奴らに合流すべくその場を後にした。
しかしこの時のオレは予想もしてなかった。まさか何かから逃げて来た城戸に巻き込まれて、裏路地に引っ張り込まれることになるなんて。そしてそれを我が校腐女子の方に目撃されるなんて。そしてそれが薄い本のネタにされるなんて考えてもいなかったのだ。