62.正式な求婚?
週末、ルーディガー様がタウンハウスに迎えに来てくれた。
よかった、いろいろ打ち合わせしたいことがあったんだよね。
馬車にルーディガー様、わたし、グレース伯母様の三人で乗り込み、王宮内にある訓練場へ向かう。
「今回の軍事訓練にはマティルドも参加するのだったな」
もちろん! 学院から支給された騎士服を着用し、髪も動きやすいようにポニーテールに結っている。準備は万端だ!
「ええ、それで一つ、確認したいことが」
わたしはドキドキしながら言った。
「あの、今回の訓練では、炎の剣を使ってもいいでしょうか?」
いいと言ってください、お願い!
両手を組んで祈るようにルーディガー様を見つめると、
「かまわん」
ルーディガー様はあっさり言った。
「アホな貴族どもにユニーク魔術の力を見せつける、いい機会になるだろう。……王太子殿下はともかく、他の王族にもその有用性をわからせてやれ」
「はいっ!」
やった! お許しも出たことだし、思いっきり炎の剣を使いまくるぞ!
ヒヒ、フヒヒ、楽しみ!
「……間違って人を殺さんようにな」
「はいっ!」
いくらわたしだってそこら辺は気をつけるよ!
グレース伯母様がぼそっと「高位貴族のご子息にも、怪我をさせないように気をつけるのですよ」と言った。
いい加減シモン様の件は許してください!
「それから、求婚についてだが」
「あ、はい」
そうだった、今日はそれもあるんだった。炎の剣で頭がいっぱいで忘れていた。
「とりあえず、宝飾品を用意した。受け取ってくれ」
ルーディガー様が革の鞄をガバッと開き、わたしに差し出した。
「え……」
「あ、あら……」
わたしとグレース伯母様は困惑し、目を見交わした。
鞄には、首飾り、耳飾り、指輪、腕輪、額飾りなど、ありとあらゆる宝飾品が詰め込まれていた。
使われている宝石も種々様々だ。紫水晶、緑柱石、紅玉、青玉、金剛石、……中でも紫水晶と紅玉が多いのは、わたしとルーディガー様の瞳の色を考慮したからだろうか。それにしても、一つ一つの宝石が大きすぎるんですけど。
え、何これ。
「気に入らないか?」
困ったように聞かれたが、困るのはこっちだよ。
「気に入らないとかそういう事ではなくて……、あの、ちょっと豪華すぎませんか? 量も多すぎますし」
ルーディガー様がお金持ちなのは知っているが、それにしてもこれはちょっとやり過ぎではなかろうか。
「……そうか? 兄上に相談したところ、求婚にはこれくらい宝飾品を用意したほうがいいと言われたのだが。せっかく見つけた相手なのだから、絶対に逃すなと」
「え、兄上って……、ミレー伯爵に相談されたのですか?」
「ああ、私はこういったことはよくわからんしな。兄上は驚いて両親にも連絡を」
「ちょっとお待ちください!」
わたしは血の気が引くのを感じた。
「え、あの、今回の求婚について、ミレー伯爵家のご当主だけではなく、先代ご当主もご存じなのですか……?」
「ああ。両親は涙を流して喜んでいたらしいぞ。私の結婚は無理だとあきらめていたそうだからな」
「…………」
『ソランの薔薇』では、ルーディガー様の恋愛事情などは一切、描かれていなかった。
それはルーディガー様が恋愛や結婚に欠片も興味を持っていなかったからだ。興味関心を魔術に全振りしているルーディガー様には、恋人も奥方もいないという設定だったのだ。
つまり、わたしがルーディガー様と婚約しても、悲しむご令嬢は誰もいない。だから大丈夫だろうと思っていたけど……。
「あの、ルーディガー様……、今回の婚約はあくまでシモン様から逃げるためのものなので、いずれは解消されるとわたしは考えていたのですが」
先日のジェラルド様の言動からして、多分わたしは一旦、王太子殿下の正式な婚約者になれるだろう。その後、王家から婚約者不適格の烙印を押されるか、聖女さまが現れるかすれば、婚約は白紙に戻る。
その時こそ、ルーディガー様の求婚が威力を発揮するのだ。
わたしはルーディガー様の婚約者となり、ケルテス辺境伯はわたしとシモン様の婚約をあきらめざるを得ない。その後、シモン様とコレット様がめでたく結婚すれば、わたしもルーディガー様との婚約を解消できると思っていたのだが。
「私と結婚すると何か問題でもあるのか?」
不思議そうに問われ、わたしは言葉に詰まった。
「問題というか……、いや、あの、逆にルーディガー様はいいんですか? 相手はわたしなんですよ?」
「かまわん」
即答され、隣のグレース伯母様がソワソワしだした。
「あの、マティルド。正式な求婚なら、立会人が必要じゃないかしら?」
「………………」
グレース伯母様は、わたしの婚約騒動を楽しんでないか。
ルーディガー様もいくら恋愛に興味がないからって、あまりに大ざっぱすぎる。
せっかく魔術師団長という地位を持ってるんだから、もう少し真剣に結婚と向き合ったほうがいいよ、絶対!




