51.就職活動
ジャンヌ様も順当に勝ち上がり、女子の最終戦はわたしとジャンヌ様が戦うことになった。
まだ男子はそれぞれの学年勝ち抜けが終わっていないのに、やけに見物人が多い。……これは、あれだな。王太子殿下が見物しているからだな。
「決勝まで勝ち進んだんだね。おめでとう、マティルド嬢。ジャンヌ嬢も相変わらず強いね」
「王太子殿下」
ジャンヌ様が騎士の礼をとる。
「君に会うのも久しぶりだね」
「ええ。……ラクロワ公爵令嬢も、ずいぶん長い間殿下とお会いする機会を持てず、寂しく思われているようです」
「そう」
ジェラルド様は微笑むと、わたしの肩に腕を回し、ぐいっと体を引き寄せた。
「え?」
「私には、マティルド嬢という婚約者がいるからね。軽々に未婚のご令嬢がいる屋敷を訪ねて、あらぬ誤解を招くわけにはいかないだろう?」
「……そうですか」
おおう。なんかバチバチ火花が散っている。
ジャンヌ様はデルフィーヌ様を本当に大切に思っているんだなあ。
ジェラルド様がラクロワ家と疎遠になっていることについて、こうも堂々と文句を言うなんて。下手をすれば、王族に対して不敬な態度だと咎められるかもしれないのに。
しかし、いつまでこの体勢でいるつもりなんだ。ジェラルド様の麗しい顔面が近すぎてまぶしい。
ジェラルド様の腕を押して距離を取ろうとすると、逆にぐっと肩をつかむ力が強くなった。
「……あの、殿下……」
「どうかした? 婚約者殿」
まだ婚約者じゃないんですけど。
「ジャンヌ様と決勝戦がありますので」
「ああ、そうだったね」
ジェラルド様に手を取られ、指先にちゅっと軽くキスされた。
「ぅおっ」
「怪我しないように、頑張って」
頑張って、じゃない! 試合前なのに、主君が臣下を動揺させてどうするんですか!
気づくと、なぜかランドール様まで見物人に混ざってこちらを見ていた。
ひー。将来の主君とその最側近による面接試験を受けてるみたい。今回は炎の剣を使うことはできないから、純粋に剣の腕だけを評価されるんだろうな。
勝利は最低条件として、問題は時間とその勝ち方だ。
ちょっとズルかもしれないけど、わたしは前世の記憶を利用することにした。もしジャンヌ様が聖女さまの護衛を務めた女騎士なら、その戦い方も弱点もわかる。
よし、やるぞ!
審判を務める講師の合図とともに、わたしは『俊敏』のスキルを全開にしてジャンヌ様に斬りかかった。
ジャンヌ様は不意を突かれて大きく体勢を崩したが、すぐ後ろに飛び退いてわたしの剣をかわした。
基本に忠実な動きだ。剣筋にもケレン味はない。
これなら、作戦どおりで大丈夫だろう。
「ハッ!」
わたしは大きく剣を振りかぶった。ジャンヌ様が脇を突こうと剣を繰り出す。わたしは一歩下がった。
そうやって不自然に思われないよう、じりじりと後ろに下がっていく。背後にある講堂の壁との距離を計算し、タイミングを見計らう。
ジャンヌ様がこちらに大きく踏み込んだ瞬間、わたしは後ろに飛び、思い切り講堂の壁を蹴った。
「なに!?」
たたらを踏むジャンヌ様の頭上を飛び越え、宙で一回転してからジャンヌ様の真後ろに立つ。
「動くな」
後ろからジャンヌ様の顎を掴み、喉をかき切るようにぴたりと剣をあてた。
「な……」
ジャンヌ様は驚いて体を硬直させた。目だけを動かしてわたしを見る。信じられない、と言いたげな視線に、わたしはちょっと罪悪感を覚えた。
すみません、この試合はわたしの重要な就職活動なんです! 派手めのパフォーマンスで将来の主およびその最側近にアピールする必要があるんです!
「勝負あり!」
審判が大声で告げ、わたしはジャンヌ様の拘束を解いた。
「……見事な戦いぶりだった」
ジェラルド様が拍手してくれる。
それにつられたように、周囲の見物人たちも拍手してくれた。ランドール様も。
やった! 就職活動は成功だ!




