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「わたしのために死んでちょうだい」と言われて殺されるモブ令嬢に転生しましたが、生き延びるため魔法騎士を目指します  作者: 倉本縞


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50.トーナメント戦


 なんだか前後左右すべて敵って感じだなあ。

 見当違いな逆恨みなら、実力で黙らせてやるぜ! って闘争心もわくけど、今回は微妙にわたしも悪いというか、いや悪くはないけど何ていうか……。


 まあ仕方ない。サヴィニー伯爵だって魔法騎士になりたての頃はやっかみが凄かったっていうし、わたしの場合はさらにそこに、王太子妃とかユニーク魔術とかが乗っかってるんだから。

 これはもう、隙を見せずに堂々としているしかない。その上で、ケンカを売られたら買うまでだ。


 今回は選抜メンバーを選ぶためか、各学年トーナメント形式で試合を行うらしい。

 訓練場に集まった生徒たちに、木剣が配られる。

 木剣にはあまりいい思い出がないけど、しかたない。まだ一年生は体も出来上がっていないしね。


「マティルド嬢」

 なんかキラキラしたのが近づいてくるなと思ったら、ジェラルド様だった。

 嬉しそうに微笑みかけられ、隣のブリジット様と一緒に「うっ」と呻いてしまった。キラキラ王子様の笑顔の破壊力ってすごい。


「君も剣術の授業をとっていたのか」

「はい、王太子殿下」

 慌てて頭を下げると、くすっと笑われた。

「そうかしこまらないでくれ、婚約者殿」

 うぐう……。

 絶対この王子様、自分の魅力をわかっている。わたしが王子様の魅力というかフェロモンというか、そういうのに当てられてあたふたしているのを見て、楽しんでないか。


 そういえばジェラルド様には、いたずら好きというか茶目っ気あふれるエピソードがいくつもあったっけ。自分の部下の恋を応援するために当て馬役を引き受けたり、聖女さまに教わったレシピで仲間に手料理を振る舞ったり。

 そう考えると、環境が特殊だからシビアで容赦ない性格になっただけで、きっと元々はフレンドリーで優しい性格だったんだろうなあ。


「君のことだから大丈夫だとは思うけど、怪我などしないように気をつけてね」

 顔を傾け、ささやきかけられる。顔が近い!

「気をつけます!」

 力いっぱい返事をすると、くすくす笑いながら頭を撫でられた。

 やることなすことイケメンすぎて困る! 部下をたらし込まないでください!


「ああ、なんて素敵な御方なの……」

 颯爽と去ってゆく王太子殿下の後ろ姿に、ブリジット様がうっとりと言った。気持ちはわかる。


 だがその時、最近よく向けられる視線に気づいてしまった。冷たいというか刺々しいというか、とにかくお世辞にも好意的でない視線。


 振り返ると、ジャンヌ様がわたしを睨んでいた。

「うわあ……」

 わたしではなく、ブリジット様が怯えたように言った。

「ね、ねえ。マティルド様は今回、見学に回ったほうがいいんじゃないかしら? 殿下も怪我をしないように、っておっしゃってたし」


 わたしは少し考えた。

 ジャンヌ様は『ソランの薔薇』で、たぶん聖女さまの護衛を務めた方だ。名前は出てないけど、短い髪のきりっとした女騎士が聖女さまを守っていた記憶がある。

 その女騎士は、最初聖女さまに刺々しい態度をとっていた。「平民がソラン王国の王妃になるなんて」と苦々しく思っている様子だった。

 しかし聖女さまの気高い振る舞いに感銘を受け、その女騎士は「私が間違っていた」と聖女さまに謝罪する。


 マンガで読んだ時は謝って当然だと思ったけど、今考えると貴族が平民に謝るなんて、すごく珍しい行為だとわかる。

 北部はちょっと事情が違うけど、貴族はおおむねプライドが高いから、たとえ自分が間違っていても平民相手に頭を下げたりはしない。それが普通の世界で、ジャンヌ様はちゃんと自分の過ちを認めて平民の聖女さまに謝罪したのだ。


 ということは、もしこのトーナメント戦でわたしと戦うことになっても、彼女なら正々堂々と勝負してくれるんじゃないだろうか。


「いえ、大丈夫です。わたしもトーナメント戦に参加いたします」

「でも、……その、何か事故があって怪我したらどうするのよ」

 事故というか、妨害行為のことを言いたいんだろうな。しかし、

「わたしは北部出身ですから。怪我をしても問題ありません」

 戦って出来た傷は勲章の一つ、という考え方だからね。逆に怪我を恐れて戦わないほうが問題だ。


「あなたって強いのねえ」

 ブリジット様が感心したように言った。

「まだ戦ってませんよ」

「剣の腕を言ってるんじゃないわ」

 ブリジット様は肩をすくめた。


「まあ、わたしは未来の王太子妃の味方よ。……言っておくけど、ジャンヌ様は六年生の女子の中で一番強いわ。トーナメントで当たるなら、少なくとも学年別で勝ち抜かないと」

 それは何とかなりそう。そもそも女子は数が少ないし、他にめぼしい相手もいなさそうだ。


 男子は時間がかかっているが、女子はあっという間に学年別の勝ち抜きが終わった。

 うーん、なんかつい最近剣を握りましたって感じの女子もいたんだけど、あれは大丈夫なんだろうか。武門の家系で無理やり剣術クラスを取らされてるとかだったら、可哀そうなんだけど。


 ブリジット様はなかなかの腕前のようだ。剣を低く構えた姿もさまになっている。

 が、もちろんわたしの敵ではない。試合は一撃で終わった。

「……ちょっと、あなたなんでそんなに強いのよ」

「わたしは北部出身なので」

「それだけで全部説明できると思わないでちょうだい」

 ブリジット様はため息をつき、剣を杖に立ち上がった。審判を務めた講師がわたしの勝利を宣言する。


「次は?」

「二年生のトップと戦うことになるわ。エミリア様ね。……エミリア様も強いけど、たぶんあなたの敵ではないわね」

 ブリジット様の予想どおり、エミリア様にも難なく勝利できた。というかブライアンのほうが全然強いよ! えええ……、女騎士は王族の姫君たちを守るのに、こんなに弱くて大丈夫なの?


「言っておくけど、マティルド様は異常よ」

 何かブリジット様が言っているけどスルーする。わたしが異常ならランドール様はどうなるんだ。


 あ、そういえばランドール様は『ソランの薔薇』で敵に「化け物」って言われてたっけ……。失礼な話だよ!


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